第9話「投入」
モナコ公国、モナコ市街地サーキット。
練習走行前、Storm F1ピットガレージ。
「飛花、モナコは好きなのか?」
「はい!私にとっては最高のサーキットですよ!F2で初めて優勝できたサーキットでしたから!」
「いいな…モナコが最高のサーキットって…」
「松下先輩は違うんですか?」
「俺にとっては逆に最悪のサーキットだよね」
「なにかあったんですか?」
「F2時代に唯一完走できなかったサーキットなんだよ、ここ」
「何が原因で完走できなかったんですか?」
「簡単なことさ。前を走ってたマシンに激突したんだよ。」
「そういうことですか…」
「まぁ、F1来てからはまぁまぁな感じだよね。優勝はできてないし。」
「じゃあ、優勝目指しましょう!」
「…ん〜。モナコは唯一プラスな思考になれないのよね〜…」
その時、飛花がエンジニアに呼ばれた。
「なんですか?エンジニアさん。」
「実はな、モナコからアップデートが加えられることになった。箇所はこの端末にまとめてある。」
タブレットを渡される。
「新形状のサイドポッド、新設計のパワーユニット。ついに、新設計のパワーユニット来た…」
「いきなり練習走行で2つとも搭載でいいか?」
「大丈夫です」
「じゃあ、メカニックたちに伝えておく。」
76号車のアップデートが始まる。
新造のパワーユニットがギアボックスと組み合わさった状態で運ばれてくる。
「飛花、ただマシンのバランスがおかしいとか思ったらすぐに言うんだぞ。すぐに戻してやるから」
「大丈夫だよ。アップデートは基本いい方向に向くから」
「そうだといいんだがね…」
新設計のパワーユニットを見ながらエンジニアが呟いた。
「?」
「いや、なんでもない。」
エンジニアの脳裏にはあるチームが頭をよぎっていた。
「あのころのマクラーレンみたいにならなければいいんだが…」
2015年当時、新規パワーユニットサプライヤーとして参入したホンダはF1で苦戦を強いられていた。
その理由はパワーユニット。
様々な技術の塊でもある、心臓。
そのパワーユニットを作った経験は今までのホンダにはないも同然。
右も左もわからない中開発したパワーユニットの性能は良くなく、ドライバーからの評価も悪かった。
そして、マクラーレンはホンダとのサプライヤー契約を終了するということがあったのだ。
「そんなようなことにならなければいいんだが…」
パーツの搭載が完了する。
「よし、パーツの搭載が完了した。このあとの練習走行でバランスを見てくれ。悪かったらすぐに言う事。いいな?」
「わかってますよ、エンジニアさん」
ヘルメット片手に答える。




