後編
婚約してから1ヶ月ほど経った頃、セーラムの両親と顔を合わせる。彼らはキャスリーンを歓迎してくれ、彼の母親に至っては「結婚しないかと思っていたの、本当に婚約してくれてありがとう」と涙ながらに感謝を伝えてきたのだ。
彼の父が言うには、セーラムにはお見合いの釣書が大量に来ていたそうなのだが、自分で探すと言ってお見合いは全て断っていたらしい。「まあ、お見合いを望んだ貴族は金や地位目当てである事は知っていたからな」と呟いていた事もあって、高位貴族は大変なんだな……とキャスリーンは感じた。
そして彼らと出会った一週間後、キャスリーンはセーラムと共に馬車に乗っていた。ある侯爵家のパーティーに参加するためだ。今回はマティとカミラも呼ばれていたが、キャスリーンはセーラムの婚約者として向かう事になったため、両親とは別行動になった。
彼女の今日の装いは、サファイヤのような青色のマーメイドラインのドレス。そして腰にはリボンで作られた青薔薇が。彼女がマリーンと相談し、自分で選んだ夢のようなドレスなのだ。そしてアクセサリーはセーラムの瞳の色である緑をメインに作られた物。これはセーラムがキャスリーンに贈ったものである。
セーラムもマリーンも、そしてキャスリーンも今日の衣装には満足している。キャスリーンに至っては、初めて自分で仕立てに関わり選んだドレスなのである。自分の意見が入っている事が何より嬉しかったのだ。
会場に入ると、一斉に参加者の目が彼女たちに向く。女嫌いなのかと実は噂されていたセーラムと、目の見えない令嬢と言われているキャスリーンだ。セーラムと目の見えない令嬢が婚約をした事は貴族内に広まっていた。令嬢の中にはセーラムの前で彼女を蔑み、あわよくばその場所に私が……と思っている者もいたのだが、彼女たちの姿に目を奪われる。そこには幸せそうに微笑み合う彼らの姿。
そしてキャスリーンは目の見えない令嬢ともう軽視する事ができない程、美しいドレスを身に纏っている。今までの可愛らしい路線はどこへやら、彼女の大人っぽい雰囲気を強調した、上品な女性へと変貌していた。
その姿に驚いたのは、既に参加者として会場に来ていたカミラも同様だった。自分が選ばない衣装を着ていたため内心腹を立てていたが、婚約者から贈られたドレスだという事で、怒りを鎮めようと必死に繕っていた。
勿論マティも目を見開いて娘を見ている。いつもとは正反対の雰囲気を醸し出す娘に目が釘付けだ。その事に気づいたマティの友人であるカーターは、キャスリーンを見て思わず「良かったな」と呟いていた。
その声はマティの耳にも届いていた。彼は訝しげな表情でカーターを見る。
「良かったな、とはどのような意味だ?」
「いや、婚約者ができて良かったなと言う意味だが?」
カーターは取り繕うも、勘の良いマティはそれが理由だけでない事に気づく。そのため眉を寄せて彼に詰め寄る。
最初は「それだけだ」と突っ撥ねていたカーターも、何度も聞くマティに苛立ったのか、自棄になって答えた。
「他家の事情に足を突っ込んではいけないのが普通だが、そこまで言うなら教えてやろう。彼女は社交界でなんと呼ばれていたか知っているか?」
「知らない」
「だろうな。お前は仕事はできるが、噂話はとことん耳に入れない奴だったからな。いいか?キャスリーン嬢は『目の見えない令嬢』と呼ばれていたんだ」
「目の見えない令嬢……?」
「そうだ。自分の似合うドレスも分からない、実は盲目の令嬢なんじゃないか?と蔑まれているんだよ」
「なんだと……?」
余りの怒りで掴みかかりそうになるマティだったが、カーターが続けた言葉で自身の過ちを気づかされる事になる。
「言っておくけどキャスリーン嬢がそう呼ばれてしまったのは、お前と夫人のせいでもあるんだからな?俺らより上の世代は彼女が気の毒だ、と話していたんだ。いつも着ていたドレスを選んでいるのは夫人だろ?両親は娘に似合わない衣装を着せて満足しているって一時期笑い者になっていたからな」
確かにマティはカミラに任せてキャスリーンの衣装など気にした事がなかった。だが、今日のドレスを見て思う。今までのドレスは彼女に合っていなかったのだと。そして自分は家族に向き合っていなかったのだと。
「勿論、彼女も母親の意見を聞き流せないのは問題だがな……だが、キャスリーン嬢は芯が強くて心優しい娘さんだろう?なんらかの理由で夫人の意見に反対できなかった理由があるんじゃないか?それをお前は聞いていたか?聞き流してはいなかったか?」
そう言われて何も言う事ができなかった。カーターの言う通り何度かキャスリーンから相談を受けた事があったが、それを聞き流して「母親の言う通りにすれば大丈夫」と言っていたのは彼だったのだ。
「それにキャスリーン嬢の笑顔を久々に見たな、と思っただけだ。かなり抑圧されていたんだろうな。でも今日の一件でそのあだ名もおさまるだろうから、彼女にとってはルー侯爵との縁談は良かったのかもしれないな」
キャスリーンを見たカーターにつられてマティも彼女を見ると、幸せそうな笑顔でセーラムと笑い合っている。パーティーでずっと彼女の事を見ていたわけではないが、笑った姿は見た事がないなと思った。
そして自分の妻であるカミラに目線を送ると、彼女は扇を広げてキャスリーンを見ている。カミラは怒ると扇を広げて口元を隠す癖があるので、娘の姿が気に食わないに違いない。例えそれが婚約者の贈り物であったとしても。
「娘の幸せを願ってやれよ」そう言ってマティの肩に手を乗せたカーターは、手を振って去っていく。そんな彼に感謝の意を述べたマティは、この後何があってもキャスリーンに寄り添う事に決めたのだった。
マティやキャスリーンの想像通り、パーティーから帰宅したキャスリーンを待っていたのは、顔を真っ赤にして憤怒している母親カミラだった。カミラが何故そんなに立腹しているかと言うと、青いドレスはキャスリーンがルミエールのデザイナーと相談して決めた衣装なのだという話が耳に入ったからだ。私すら着た事がないのに……と羨望の想いがあった事は否めない。
その上キャスリーンはどこへ行ってもドレスを褒められており、その度に二人で笑い合っている。そんな彼女の姿を見て、カミラは娘の衣装を褒められた事がないと思い至ってしまった。
だがカミラはその事を否定した。その上で、自分が今まで着せていた衣装の方が彼女には似合うはずだ……と考えていた。心の底では彼女も今までの色は娘に似合わなかったのかもしれない、という疑念が生まれているのだが、それを認めてしまえば、彼女の価値観が否定されるのだ。そんな事はカミラ自身が許せない。
その複雑な感情が怒りになって、カミラはそれを娘にぶつけるのだ。
「何故、そんな似合わないドレスを侯爵は着させるの?!キャスリーン、貴女はこれからずっと私が用意する衣装で社交界に出なさい。私が貴女の事を一番理解しているのよ?私の言うことさえ聞いていれば、貴女は幸せになれるんだから!!分かったわね?こんな事なら侯爵と婚約させなければ良かったわ」
一息で話し切ったカミラは、疲れで肩で息をする。そして俯くキャスリーンを見て「キャスリーンはこれで言う事を聞くだろう」と思っていた。だが、一方のキャスリーンは、セラームとマリーンを否定してきた母親に嫌悪感と憤りを感じていた。
「……お母様、貴女はそんなに正しいのですか?」
「え?」
「お母様にとっては正しいかもしれませんが、私にとって貴女の意見が適切とは限りません。私とお母様は他人です。自分の価値観を押し付けるのは、止めていただけませんか?」
キャスリーンはカミラをキッと睨みつけながら、諭すように話しかけた。湧き立つ怒りを抑えようとして、握りしめている手が小刻みに震える。
カミラはキャスリーンが反論してきた事で呆気にとられてしまっていた。そのため、彼女の言葉を呑み込む事ができなかったが、時間が経つにつれキャスリーンが反抗してきたのだ、と気づく。
「お前は母親の言うことさえ聞いていれば良いのよ?!何故口答えをするの?」
キャスリーンが歯向かった事実を認めることができず、カミラが声を荒げて癇癪を起こし始めたその時。マティがカミラに声をかけた。
「カミラ、止めるんだ」
「まぁ、貴方!聞いてくださる?キャスリーンが私の言う事を聞かないって言うんですの!どう思います?」
マティに声をかけられたカミラはまるで水を得た魚のように喜び饒舌になる。マティはカミラの味方だ。いつものように「母親の言う事を聞きなさい」そう言ってキャスリーンの我儘も止めてくれるはず、そう期待した。
だが彼から出た言葉は、想像と正反対の言葉だった。
「キャスリーン、今まで済まなかった。私がキャスリーンの事を見ていなかったばっかりに、君には辛い思いをさせてしまった。許してくれ、とは言わない。これからはカミラの意見に拘らず好きなように生きて良い。何かあれば私に言ってくれ」
「お父様……」
「今日友人に諭されて気づいたんだ。カミラには私から言い聞かせるよ……ただ彼女に言い聞かせるまでに時間はかかると思うから、今年の社交はルー侯爵と参加するものだけ行けば良い。ルー侯爵にもそう話を付けておいた」
「……ありがとうございます」
仕事ができる父らしい。つまりルー侯爵の家で着付けてから一緒に向かえ、とのことだろう。その配慮に感謝の意を述べる。
そんな父娘の会話に口を挟まなかったカミラだが、実際は愛する旦那がいつもの様に同調してくれない事で放心状態だったのだ。キャスリーンが着替えるためにその場からいなくなった後、カミラは我に返った。
「貴方!?何故キャスリーンに謝ったのです?」
「カミラ、お前も現実を見ろ。キャスリーンには君が選ぶドレスが似合うとは思わない」
「何故ですの!?私が昔着ていた時に、貴方は『似合っている』と言ってくれたじゃないですか!」
「キャスリーンと君は母娘の関係ではあるが、別の人間だ。しかもキャスリーンは君ではなく私に似ているんだ。君と同じドレスが似合うわけではないだろう?そこに気づかないのか?」
マティも胸中では「そう思っていなかった俺が言うのも、可笑しいが……」と思っているのだが、その想いにカミラは勿論気づくはずもなく。カミラはいつもと態度が異なるマティを恐れて、口を閉じたのだった。
マティも幾度となく納得していない様子のカミラに話しかけるも、全く喋る気配がない。それにめげずに何度も言い聞かせるが、最後は部屋に閉じこもってしまいマティは困り果てたのだった。
数日後キャスリーンの事で苛立ちを抱えたまま、カミラは夫人が集まるパーティーに参加していた。そこには公爵家夫人から伯爵家夫人が集まる大規模なものだ。主宰が公爵家だったからだろう。
そのパーティーでカミラは様々な参加者から、先日のキャスリーンの衣装を褒められる。そして二言目には、「キャスリーン嬢は良い婚約者を見つけたわね」と言われるのだ。そもそもその件で立腹していた彼女は、伯爵家の友人に衣装の話を振られた時、こう叫んでしまった。
「この前の衣装は彼女に似合っていないと思うわ。ねぇ、貴女もそう思わない?」
相手はそんな発言をしたカミラから目を逸らす。彼女もキャスリーンの衣装を褒めようと思っていたからだ。その事に気づいたカミラはこう溢した。
「私のセンスが悪いとでも言うの?」
苛立ったカミラは声高に友人を責める。友人は困惑しつつ、どうしようかと目で助けを求めたところで、彼女の後ろから声がかかる。
「ブレイン伯爵夫人、感情を表に出す行動は貴族として恥ずかしいと思いません?」
「ピレイズ公爵夫人……」
後ろに佇むのは、このパーティーの主催者であるピレイズ公爵夫人だ。扇を口元に当て、カミラの友人を一瞥する。彼女はその場から立ち去るようにと公爵夫人に言われた事に気づいたのだろう、カミラから離れていく。
だがカミラはその事に気づくことすらできなかった。公爵夫人の顔を見て青褪めるカミラ。そう、ここにきて今の自分の行動が、公爵夫人の顔に泥を塗る行為になる可能性がある事に気づいたのだ。だから公爵夫人がカミラに話しかけたのである。
彼女が問題行動を起こして茶会が台無しになる前に、止めようとして。
それを証明するかの様に、参加者だけでなく給仕の視線までもカミラに向かっているのだ。
だが、その視線も公爵夫人の一言で離散する。
「皆様、引き続き茶会をお楽しみくださいませ」
彼女がにこりと笑えば、全員がそうする他ないのである。一斉に動き出し、誰もカミラを気にする者などいなかった。
「さて、ブレイン伯爵夫人。貴女は夫人として可もなく不可もない方だと思っておりましたが、そうでも無いのですね。貴女が気になさっているようなので、はっきり申し上げますが……貴女はキャスリーン嬢の何を見ていたのです?先日の青色のドレスは彼女に似合っておりましたが、それ以前のドレスは似合っておりませんね」
公爵夫人はカミラに視線を向ける。真っ赤だった顔が真っ青になる様子を見ると、本気でキャスリーンのドレスが似合っていると思っていたらしい。
動揺を隠せないカミラは、思っていた事を言葉に出していた。
「……そんな、私が似合っていたから似合うと思って」
「確かに、貴女にはプリンセスラインのドレスもビビッドピンクのドレスもお似合いですわ。ですが、それが娘であるキャスリーン嬢に似合うかは別問題ですわよ」
公爵夫人はカミラの言葉から、きっと彼女が人生で諦めてきた事を娘にさせているのでは、と考えていた。元々カミラは子爵令嬢でマティに嫁ぐ前までは、どちらかと言うと裕福ではない家庭だった。そのため、レースたっぷりのドレスやリボンたっぷりのドレスを着る事が出来なかったのだ。自分が出来なかったから、娘の人生を自分の思う通りに動かした、それがカミラだったのだろう。
カミラもこれで三度似たような事を言われているのだが、公爵夫人に言われてやっと娘や夫に同じ事を言われていたという事に気づいたらしい。更に顔が青く、目線が下がる。
「確かに夫人に物を申せないキャスリーン嬢も問題ですが、それより問題なのは似合わない服装をさせていた貴女の方ですわ。その態度でしたら、キャスリーン嬢が『目の見えない令嬢』と呼ばれていたことも知らないのですね」
彼女の言葉にカミラは目を見開く。その呼び名がキャスリーンを貶するものだという事に気がついたのだ。
「何故、そう呼ばれていた事を教えていただけないのですか?」
カミラが思わずそう呟いてしまうのも仕方がない。しかし、公爵夫人は目を丸くする。カミラから言わせれば、誰か教えてよ!と思うだろうが、教える義務などないからだ。
「何故?何故私が一伯爵家の事を気にしなければならないのです?それが分家でしたらまだしも、ブレイン伯爵家はピレイズ公爵家とは関係ないではありませんか。それに言ったところで、貴女私の言う事を聞きまして?」
ぐうの音も出ないとはこのことだ。カミラは公爵夫人に諌められ、今までの自分の行いが娘を窮地に追いやっていた事にやっと気づく。真っ青から蒼白に変わるカミラの顔を見て、もう大丈夫だろうと判断した公爵夫人は踵を返しこう呟いた。
「貴女ができることは、ルー侯爵にお任せすることですわ。これ以上貴女の我儘でキャスリーン嬢を振り回さないであげてくださいまし」
彼女の言葉がカミラの耳にも届く。キャスリーンの事を一番理解しているのはルー侯爵だと。カミラは愛という、娘が否定できない建前を前面に押し出し、自分の意見を押し付けて娘を傷つけていた。それは本当に愛だったのだろうか?もしかしたら娘のことを自分の可愛い人形だとでも思っていたのかもしれない。
やっとその事に気がついた彼女は、その後キャスリーンに煩く言う事は無くなったのだった。
婚約者として参加した数度目の社交パーティー。今日のパーティーは王城の広間で行われていた。以前二人が出会った中庭がある、キャスリーンにとって思い出の場所だ。
今日もキャスリーンはルー侯爵家からセーラムと共に参加したため、カミラとマティとは別行動だ。
カミラは以前と比べてキャスリーンに口酸っぱく注意する事が無くなり、むしろキャスリーンのする事を肯定する様になった。一度何故か、と問いかけたところ「私は私、貴女は貴女だと気づいたのよ」と言っていたので、父マティが諌めてくれたのだろうとキャスリーンは思っていた。
そして本日のパーティーでは、キャスリーンの着ているマーメイドラインのドレスを着衣している女性が多かったのに彼女は驚いていた。セーラムと二人でピレイズ公爵と夫人に挨拶をした時、「今年の流行りは貴女が牽引したものよ」と言われて、キャスリーンは顔が真っ赤になった。
挨拶回りが終わると舞踏会が始まるが、彼らはずっと二人で踊っていた。セーラムは気づいてたのだ。キャスリーンを踊りに誘おうとしている男性がいるのを。誘われる事が無いように彼は、ずっとキャスリーンと踊る。
だが、流石に何曲も踊ると疲れが溜まってしまったため、踊り疲れた二人は庭に出て話すことにした。その場所が以前二人が出会った中庭のベンチである。
「ここ、懐かしいですわね」
「ああ、私達が初めて出会った場所だ」
「ここでセーラム様と契約をさせて頂いたのですよね……本当に、ありがとうございました。私は今幸せです……セーラム様と婚約解消しても、私は自信を持って生きていけそうですわ!」
満面の笑みでセーラムに話しかけたキャスリーンだったが、胸の内では彼と婚約解消をしたく無い想いが渦巻いている。彼女はセーラムにその思いを悟られる事が無いように、明るい声を出すように努めたのだ。
一方でセーラムは内心慌てていた。彼女の中では「手助けが終わった=婚約解消」という図式ができているらしい。婚約解消をする気が無いセーラムは、どう話をするべきかと悩んでいたのだが……ふとキャスリーンの顔を見ると、瞳に涙が溜まっているのが目に入った。
セーラムはにっこりと微笑み、右手で彼女の涙を拭う。驚いているキャスリーンに彼は顔を近づけてこう話しかけた。
「婚約解消なんて、寂しい事を言わないで欲しいな。私は君を手放す気はないんだよ?」
呆気にとられているキャスリーンの前にセーラムは跪く。そして差し出された掌の上には、小さな箱が。
「キャスリーン、契約だ。なんてこの場所で言ってしまったけれど……改めて契約は抜きにして私と結婚してくれないか?……実はここで話したときより前からずっと君を見ていた。やっと私の隣に来てくれたのに君と婚約解消なんてする訳ないじゃないか」
「え……」
「キャスリーンの隣は僕だけの特等席であってほしいのだけど……キャスリーンはどう思っているの?」
これは夢だろうか。いや、夢ではない。溢れ出る涙を彼が優しい笑顔で拭ってくれているから。
「婚約解消をしなくて良いのなら……叶うなら私も貴方と共に生きていきたい……です」
「大丈夫、叶うさ!私の手を取ってくれればね!」
キャスリーンは今までにない満面の笑みをセーラムに見せた。自分は幸せだ、そう思っているのが彼にわかるように。 そして自分の右手を差し出された手に乗せて、セーラムと見つめ合う。二人は幸せな空気に包まれていた。
***
「ところで、いつから私の事を見てくださっていたの?」
「言わなきゃだめ?」
「ええ!教えてくださらないのなら私にも考えがあってよ?」
あれからキャスリーンとセーラムは結婚し、現在も鴛鴦夫婦として幸せな日々を送っていた。
そんなある日、ふと昔の事を思い出した彼女は、セーラムに尋ねてみたのだ。
「ははは、キャスリーンも強くなったね。降参。実は君のドレスについて他の令嬢に注意されたことがあったのは覚えているよね?その時に君は令嬢に感謝の意を述べていただろう。貴族は他の貴族からの忠告を聞かないことが多いから、君も忠言を無視すると思ったのだけど、君は違ったんだ。次のパーティーに出たときに、悲しそうに忠告してくれた令嬢を見る君を見て、手助けしたいと思ったんだよね……これでいいだろう。さあ、ご褒美を貰うよ?」
一気に言い終えたセーラムは惚けているキャスリーンを見つめ、自身はあくどい顔で彼女の顔に自分の顔を近づける。そして二人の影が重なり、幸せな時間を二人は過ごす事になるのだった。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!
毒親?っぽいカミラをきちんと描けていればいいなと思います‥‥汗
もし宜しければ、ブックマーク・評価等々もよろしくお願いします( ´ ▽ ` )
現在執筆しているのは、
・「私はこうして支援魔道士から聖女になった」
https://ncode.syosetu.com/n9052gs/
・「私、興味がないので」
→前回の作品を元に書き直し中です。
是非、そちらもお楽しみに( ^ω^ )