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王国の守護精  作者: 久保 公里
第5章
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第5章-23 アサノハと細工物

 そのまぶしさにアサノハは自由になる手で目を庇うように上げた。


 どくん。


 なにかが自分の中にあるものと呼応する。それは心臓の波動と酷似していた。


 光はアサノハの鼓動と同調するかのように、明るくなったり暗くなったりした。イザヨイはアサノハの手を細工物の上に重ねる。


 波動がゆっくりと近づいていくのがわかる。手と細工物が重なるだけではなく、波動が重なっていく。


 「お名を」


 守護精に促されて、アサノハはひとつうなずいた。


 「ジュオウ……」


 名乗ろうとして、だが、それはそっと遮られる。突然、声がなくなってしまった。アサノハは驚いて口を開け閉めさせたが、何の音も出てこなかった。


 顔を上げると、イザヨイが静かに首を振った。


 「家名は必要ありません。あなた個人の名を必要としています。あなたのお名を」


 アサノハは再びうなずいて、細工物と重なった自分の手を見やった。


 「アサノハ」


 自分の声と名前の波動が、細工物の中に吸い込まれて行くのがわかった。細工物の波動とアサノハの波動が重なる。その瞬間、アサノハは自分の中にも細工物の波動が息づいていることに気づいた。そして、それはクオンの波動でもあった。


 アサノハははっとしてクオンを見上げた。彼女の守護精は、にっこりと笑みを浮かべてうなずく。


 この細工物は、クオンと同じ波動を持っている。すなわち、クオンとこれは同じものだ。それにアサノハもまた結びついた。


 記憶しているとは、このことを言うのだ。


 アサノハはそれを理解した。


 やがて、光はゆっくりと静かに収まっていった。アサノハが手を離すと、そこには先ほどと同じ美しい細工物があるだけだった。


 だが、アサノハにはそれがすでに先ほどのものとは違っていることを知っていた。


 これはクオンのもの、そして、私のものだ。


 長い時間だと思ったが、一瞬の出来事だったらしい。ムラクモが席を立つ音に、アサノハは我に返った。


 ムラクモが大股に、だが優雅に近づいてくる。その王の威厳に、アサノハは自然と礼を取っていた。


 「顔を上げなさい」


 そう言われて、アサノハはゆっくりと体を起こした。ムラクモが手を伸ばしてくるのに、はっとして身を固くしたが、ムラクモは気づかぬようにアサノハのマントをとめるブローチをはずし、代わりに卓の上に置いてあった先ほどの細工物でマントをとめた。ムラクモは少し位置を直したりしていたが、やがて離れてアサノハを値踏みするように見つめ、満足げにうなずいた。


 「これでよい。よく似合う」


 「陛下御自ら……。かたじけのうございます」


 アサノハの感極まったように言うと、再び一礼した。


 胸のところで細工物が波動を放つ。アサノハの鼓動と波動を合わせて。そして、ゆっくりと静かになじんでいった。あたかも生まれたときからそこにあったかのように。


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