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王国の守護精  作者: 久保 公里
第5章

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第5章-22 細工物の話

 それを遮るように、当代が話しかけた。


 「さすがにあなたにもわかりますか、次代殿」


 「はい。これは私の剣です」


 その言葉に、ムラクモがうなずいた。


 「これは私が王になった時に当時最高と言われた細工職人に作らせたものだ。宝剣と同じ鉱石と、貴石は孫石を使って作られたものだ。これを肌身離さず持っておきなさい」


 「かしこまりました、陛下。ありがとうございます」


 アサノハは一瞬王を見上げて礼を述べたが、すぐにまた視線を細工物に落とした。魅入られているかのようだ。その視線を遮ったのは、当代の細くすべらかな指だった。


 守護精はすっとアサノハの手から細工物を取り上げる。あっとアサノハが声を上げ、取り返そうとするかのように手を伸ばしたが、イザヨイはするりと少女の手の届かない先に音もなく移動する。


 「これは我らが宝剣の分身、形代といっていいもので、宝剣の波動を帯びています。我らは宝剣の守護精故、宝剣から離れて存在することはできません。この王都くらいであればまだ宝剣の影響下にありますので、存在できますが、宝剣の力の届かない場所に現れることはできません。もしできるとしても、影のように薄く、何の力も持たないことでしょう。ですが、旅に出たり、どこかに移動するたびに宝剣を持ち歩くのもいささか面倒です。ゆえに、これに宝剣の力を移して宝剣の代わりとするのです。これを身に帯びている限り、常にあなたの側に次代はいることができます」


 「はい、当代さま」


 アサノハは表情を改めてうなずいた。真剣な表情の中にも、嬉しさがあふれている。


 「私はこれを次期に渡す時を待っていた。そなたが王位に就いた時、最初の仕事は次期と次代のためにこれを作らせることだと心得よ。よいな」


 「かしこまりました、陛下。必ずや」


 アサノハはまっすぐにムラクモを見つめてうなずいた。ムラクモも頷き返すと、自分の胸に輝く細工に手を当てた。


 「これを代々受け継いでもよいのだが、これは私を記憶しているし、私もまだまだこれが必要だからな、譲ってやるわけにはいかぬ。故に、新しいものが必要となってくるわけだ。そして、次代はいつ現れるかわからないからな、あらかじめ準備が必要、ということだ」


 「はい、陛下」


 アサノハは再び頷いた後、ふと疑問に思ったことを口にした。


 「陛下、陛下の細工物が陛下を記憶している、とは、どういう意味なのでしょうか」


 「まあ、それはこれからわかる」


 ムラクモは人の悪い笑みを浮かべて、イザヨイを見やる。イザヨイは心得たように音もなく動くと、細工物を箱の中に戻した。貴石が離れがたいようにきらきらと輝く。


 「お手を」


 アサノハはイザヨイの整った面を見つめながら、おずおずと右手を差し出した。その手を守護精は取り、掌を上に向ける。


 「失礼いたします」


 さっとイザヨイが手を動かす。次の瞬間、指先にちくりと小さな痛みが走り、アサノハは眉間にしわを寄せた。見れば、人差し指に小さな血の玉が浮かんでいる。


 守護精がさらに手を動かすと、血の玉はふわりと宙に浮き、ふよふよと動いて吸い込まれるように細工物に近づいていく。それが細工物に触れた瞬間、細工物は光を放った。

 

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