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王国の守護精  作者: 久保 公里
第5章

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第5章-20 陛下、肩透かしを食らう

 「ああ、話がそれてしまいましたね。人の子と我ら精霊の身体が違うということはご理解いただけましたね。契約の時にはその違い故に身体を重ねて一つになり、互いの身体に刻印を打つように刻み付ける必要があるのです」


 「身体を重ねてひとつになる……」


 アサノハは今一つ理解しきれていないように、小首をかしげてつぶやいた。それに気づいて、イザヨイはアサノハに尋ねた。


 「アサノハ様は、同衾という言葉をご存知ですか?」


 アサノハは小首をかしげたまま、正直に応える。


 「いいえ、知らない言葉です」


 「さようございますか。そうですね、アサノハ様は幼い故、まだ知る必要はないかと存じます。時至れば、わかるようになりますよ」


 「私はもう十歳になりました。大人とはいえませんが、幼くはないと思います」


 少し怒ったような声音で、アサノハは言う。子供だ、と言われて怒るのはまだまだ子供だという証拠だということもわからぬまま。


 「ええ、そうですね。ですが、今はまだ知る必要がないということです。いつかは知ることになるのです。それに、アサノハ様が知らずとも、次代がそのあたりは心得ておりますゆえ、任せておけばよろしいのですよ」


 アサノハはイザヨイをまじまじと見、それから傍らのおのれの守護精を見た。クオンはにこにこと笑っている。その笑みはあまりにも無邪気で、アサノハは当代さまが言ったように本当に任せてよいものか、少し不安になった。


 「おい、あれでいいのか」


 呆れたような、だがアサノハには聞こえぬように低めた声は、ムラクモのものだった。自分が説明しきれなかったことをイザヨイが軽くかわしてみせたので、面白くないのだろう。イザヨイはさらりとそれを受け流す。


 「問題ありません。実際、まだ早いのは事実ですし」


 そう言って、イザヨイは微笑みをアサノハに向けた。ふたりが何か話しているのに気付いて、不安そうな表情を見せている。


 「心配なさることはございません。契約は次代が当代になった時に結びます。ムラクモさまもまだまだお元気ですし、あと数十年は王として君臨されることでしょう。私もムラクモさまが亡くなるような事態はできるだけ避けたいと思っていますゆえ、時間はまだまだございます。その間にお知りになればよろしいだけのこと。お急ぎになることはございません。そうでしょう、ムラクモさま」


 最後の言葉は、悪戯っぽく主に向けられたものだった。ムラクモは釈然としない様子を見せながらも、うなずく。


 「そうだな、イザヨイの言うとおり、私はまだそなたに王位を譲る気はない。契約までにはわかることだろう。急いだ私が悪いのだ。ゆっくり知っていけばいい、そなたには時間がある」


 「はい、陛下」


 まだ少し納得していないような表情で、それでもアサノハは一礼した。これ以上訊いても、王も当代も話してはくれないであろうことは、その口調からも明らかだ。ここは引き下がるしかない。帰ってからロウバイに訊けばいい。


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