第5章-18 陛下、当代さまに投げる
そうだ、クオンはまだ生まれたばかり。次代とはいえ、この世界のことをこれから学んでいかなければいけない。それは、私も同じこと。ふたりで一緒に学んでいけばいい。
私はひとりではない。
「一緒に学んでいきましょうね、クオン」
そう言って、アサノハはクオンの手を取った。
「よろしい」
その声に、アサノハははっとして前を見た。いつの間にかクオンとの世界に浸っていて、ムラクモたちの存在を忘れてしまっていた。
はにかむように、アサノハは頬を染めた。
「公私の別はわきまえよ。ふたりの時は構わぬが、な。ふたりの関係を世間に知らしめなくてはいけない」
「はい、陛下。仰せのままに」
アサノハは軽くその場で頭を下げた。それを見て、クオンもまた主に倣い頭を下げる。それを見て、ムラクモは満足そうだった。
「先も話した通り、そなたたちは常に誰かに見られているものと思え。それでなくとも上げ足を取ってくるものはいる。先に付け入る隙を与えることはない」
ふたたびアサノハは応えるように一礼する。それを見て、慌てたようにクオンもまた一礼した。
「で、どこまで話したかな」
「契約の話でしたわ、陛下」
苦笑しつつ、アサノハは応えた。もしかして、王は話したくないのだろうか。
「ああ、そうだったな。イザヨイ、彼女に教えてやってくれないか」
守護精も少女と同じ思いを感じたのだろうか、やや呆れたように主を見つめたが、諦めたようなため息をついた。
「かしこまりました、陛下」
そして、アサノハに向きなおる。その鋼色のまなざしを受けて、アサノハは自然と背筋を伸ばした。
「さて、陛下はどこまでお話しされましたか、次期さま」
「あの、契約は魂と身体を結び付けることが必要だということで、名前のことを伺いました。それから身体のことをお聞きしていたら、突然当代さまを呼ばれて……」
困惑したような少女に、守護精は頷いてみせた。
「なるほど。名前のことはお聞きされたのですね。で、もうひとつのほうを説明しきれなかったと」
「できるか」
ぼそっとしたムラクモのつぶやきは当代にしか届かなかった。おそらく、アサノハが少年であれば、ムラクモもここまで困らなかったのだろう。
再びため息をついてから、イザヨイは説明を始めた。




