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王国の守護精  作者: 久保 公里
第5章

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第5章-17 陛下、困る

 「でも、それでしたら昨夜、私もクオンと一緒に寝室で過ごしましたわ。それで契約がなるのでしょうか」


 不思議そうにアサノハが訊いてくる。ムラクモはどう説明してよいものか、考えあぐねて言葉に詰まった。


 「いや、同じ寝室で休むだけでは契約にはならない。閨での営みが必要なのだ」


 「閨での営み、ですか?」


 意味が分からないまま言っているのは明白だった。ムラクモはふたたび吐息をつく。


 貴族の婚姻は本人の意志のみに限らぬこともある。そのため、幼いころからそういった情報を娘に教える家も少なくない。だが、キサラギは次期になることも嫁にやることも拒否したかのように、アサノハには何も教えていなかった。


 こうなると、ムラクモにはお手上げだった。男の子に対しては言えるだろうが、何も知らない少女に教えることは彼にはできなかった。


 「イザヨイ」


 当代の名を呼んだ瞬間、王の背後に当の守護精が現れた。クオンもまた現れると、すぐさまおのれの主の元に急ぐ。


 「アーシャ、ご無事ですか? なにかされていませんか」


 「なにかって」


 主たる少女の首に抱き付き、それから両手で大切そうにアサノハの頬を包み込みながら次代の守護精は訊いた。その言葉に、アサノハは苦笑する。


 「ただ陛下とお話ししていただけよ。なにをされるというの」


 「あなたから無理やり引き離されました」


 「それは当代さまがあなたとお話があったからでしょう」


 「ですが、私はひとときでもあなたと離れていたくないのです」


 その甘える様子は、まるで子犬を見ているかのようだ。アサノハはよしよしとクオンの手を軽くたたき、ふと顔を上げた。ムラクモが呆れたようにこちらを見ているのに気付き、視線を移すと当代の守護精が困ったような苦笑を浮かべている。


 生まれたばかりとはいえ、クオンの振る舞いは確かに頼りないですますことではない。アサノハはクオンに向きなおると微笑みながらも、きっぱりと言った。


 「クオン、アーシャと呼ぶのはお控えなさい」


 「ですが、アーシャ」


 「ええ、私がその名で呼んでほしいと望んだのはわかっています。でも、ここには陛下と当代さまがいらっしゃいます。その名で呼ぶのはふさわしくないわ。このような公の場ではきちんと私の名前を呼んでほしいの」


 クオンは納得していないようであったが、一瞬ののちにはうなずいた。やや不満そうな、ふくれたようなその表情からそれがうかがえる。


 「承知しました、アサノハ様」


 それでも、クオンはそう言った。アサノハは嬉しそうな笑みを浮かべてうなずく。


 「ありがとう、クオン。その代わり、ふたりきりの時はアーシャでお願いね」


 そう言うと、クオンは思いっきり破顔して何度も激しくうなずいた。それがまた笑みを呼ぶ。


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