第5章-12
これまでは自分の言動が与える影響は大きくはなかった。当たり前だ、関わる人の数が少なかった。両親にロウバイやサクラ、ミズキ、当主館でもわずかな人ばかりだった。どんなにわがままを言ったところで、困らせることができるのはそのくらい。
だが、次期となった今は関わる人の数は一気に増える。自分の一挙手一投足が注目されると同時に、それが与える影響もまた大きくなる。それは顔も知らない民たちにもいずれ及んでいく。
自分が知らない人たちの生死までをも握っていることに、アサノハはぞっとした。
確かにそうだ、それが王というものだ。
「はい、陛下。私は今まで思いもしませんでした。王になることがどういうことか」
「よろしい」
顔を引きつらせている少女に、ムラクモは手ずからお茶のお代わりを入れ、蜜と牛乳を足して差し出した。アサノハはゆっくりと、微かに震える手でそれを受け取り、一口喉に流し込んだ。蜜の甘さの故か、少しだけ落ち着きが戻ってくるのがわかる。
「そなたはやはり聡いな。そなたの年で、このことがわかっているものはおるまい。次代を得ることを熱望し、王になりたいと望むものでも、思い至るものは少ないだろう。かく言う私も昔はそうだった。イザヨイを得て次期になり、ようやく知ったことだ」
ムラクモはその昔を思い出すように、手を胸の前で組んだ。
「王とは本来、孤独なものだ。国に関わるどのような決断もただひとり、王が責任を持つ。むろん、助言を得ることはできるが、称賛であれ非難であれ、王ひとりがその身に受けねばならぬ。それを分かち合うことはできない。だが、我らは運がいい。私たちには守護精がいる。常に共にいてくれ、苦しみも喜びも分かち合ってくれる。それは他の誰にもできぬことだ。例えばキサラギ、アサアケといった側近でも、家や彼らが思うところがある。しがらみ、といってもいいだろう。私と彼らは違うものだ、すべてが同じ思いや考えを持つことはない。だが、守護精はそのしがらみを持たない。唯一持つとすれば、私たち主に対してだけだ。それがどれほど心強いことかわかるか」
そう問われても、クオンが現れてからまだ一日経たないアサノハにとっては、まだ実感のないことだった。戸惑いの表情を浮かべる少女を見て、ムラクモは微苦笑した。
「そうだな、まだわからぬだろうな。だが、クオンもまだ生まれたばかりで頼りないとはいえ、あれもまた守護精だ。イザヨイのようにすべての記憶は持たぬが、それでも我らよりはよほど多くの知識を持っている。何かあれば、あれに言うがいい。そなたが知らぬうちに道を違えようとしても、あれが導いてくれるだろう。他のものに言えぬことも、そなたが思うことすべてを話すがいい。自分が一番自分のことがわからぬものだ。あれを頼るがいい」
「頼りないのに、ですか」




