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王国の守護精  作者: 久保 公里
第5章

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第5章-11

 「はい。ですが、あれは当代さまに勧められたからで……」


 おそるおそる、アサノハは言葉を紡ぐ。それにムラクモは軽く首を振ってみせた。


 「だが、どちらも決めたのはアサノハ、そなたであろう? 勧められても飲まない選択肢もあったはずだ。だが、そなたは勧められて飲んだ。そうだろう」


 重ねて問われて、アサノハは肯定するしかない。そう言われれば、最初から手を付けないという選択肢もあった。それを飲むと決めたのは、ほかならぬアサノハ自身だった。


 「人は、人の子はいつも何かを決めている。茶を飲むという些細なことから、国王の庇護下に入るということまで」


 「ですが、両親が事故で亡くなったことは私が選んだことではありません」


 アサノハは知らず叫ぶように言っていた。国王の言葉を遮り、勢い込むようなその態度が貴族の娘にふさわしいものではなく、そして王の逆鱗に触れるかもしれないということもわかっていながら。


 あの悲劇を食い止めることができたなら、彼女はなんでもしただろう。時を戻して、領地に帰らないでと、せめて私も連れて行ってと我儘を言って両親を困らせることもしただろう。


 全ては元に戻らない過去のこと。決してアサノハが望んだことではなかった。


 ムラクモはそれを咎めることはなく、ふっと笑んだ。


 「そうだな、私の望んだことでもなかった。だが、そなたは昨日、棺に取りすがって泣いていてもおかしくはなかった。挨拶はハナビシやジュオウ家のものに任せて涙にくれていても誰もそなたを責めなかっただろう。10の子供が突然親を亡くしたのだ、それが当然だと思っただろう。だが、そなたはそうしなかった。そなたは毅然として立ち、弔問に訪れるものに挨拶をし、弔意を受け取っていた。それはそなたが選んで決めた事だろう、泣き崩れることよりも。そして、そなたの態度が、私がそなたを庇護する気にさせた。違うか」


 アサノハは言葉に詰まった。確かにアサノハは棺に取りすがって泣くこともできた。でも、それは違うと思ったから、彼女はひとり人々の言葉を受け止めることを選んだ。


 そう、選んだのだ、私は。


 「いつでも、人は些細な決断をしながら生きている。それと気付かぬうちにな。そなたが何時か王になったならば、もっと大きな決断をしなければならなくなるだろう。例えば、大勢の人々の生死に関わること。もしかしたら、どこぞの国と戦をせねばならぬかもしれぬ、その時そなたが下す決断は、この国の民の命に関わる決断になるだろう。茶を飲むこともそなたが決めることならば、いくさをするかどうかもそなたの決めることになる。同じ決断でもその重さが違うことはわかるであろう」


 ムラクモの言葉を聞きながら、アサノハは先ほどとは違う寒気を背中に感じた。自分の決めたことが大勢の生死すら決めることになる、そのことに初めて気づいていた。


 その重大さに眩暈すらしそうだ。


 次期になるということ、いずれ王になるということは、そういうことなのだ。


 そのことにようやく、アサノハは気づいた。


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