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王国の守護精  作者: 久保 公里
第5章

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第5章-10

 アサノハは少し考えこんでからうなずいた。クオンからアーシャの愛称で呼ばれなくなるのはさみしいが、ムラクモが言うこともわかる。それに、私的な場所ではよいと言われているのだから、アサノハとしては首肯する以外ない。


 「かしこまりました、陛下」


 「よろしい。おそらくクオンもイザヨイに言われているだろう」


 その様子を思い浮かべて、アサノハは小さく笑みを浮かべた。クオンはどんな表情をしているだろう。


 「これからのそなたは、常に注目されていると思え。ただでさえ、私の庇護下に入ったことで人々の関心を集めやすくなっていたのが、次期となればさらに注目は増すだろう。あらゆる人がそなたを見つめ、その一挙手一投足に注視し、その発言に聞き耳を立て、評価を下しているものと思え。常に人の目がある。わかるか」


 「はい」


 アサノハはなぜか背筋が寒くなるのを感じた。今まで人の目にさらされたことはない。それはジュオウ家当主の館で両親が大切に育ててくれたからだとわかる。これからはそうはいかない。自分の行動ひとつ、言葉一つに他人がどんな評価を与えるのか。それを思うと息一つできなくなりそうだ。


 「脅かしすぎたか?」


 ムラクモが苦笑を含んだ声音でつぶやいた。アサノハははっとして国王を見やる。


 「多くのものがそなたを評価するだろう。だが、その評価を気にする必要はない」


 「評価されるけれど、それを気にするな、と」


 呆然としてアサノハはムラクモの言葉を繰り返した。その意味がよく分からない。たった今、私が手足を動かすごとに評価されると言ったくせに。


 「そうとも。百人いれば百通りの評価がある。そなたがなにを言い、どう行動しようと良く取るものもいれば悪しく取るものもいる。それをいちいち気にしていてどうする。悪いと言われてその行動を変えて、それがまた悪評となればまた変えるのか? 他人が言うことにコロコロ態度を変えていて信頼を得られると思うか。よいと褒められてそれを鵜呑みにして増上慢になるか。自分の基準を自分の外に置いてどうする。そなたはそなたぞ。そなたにしかなりえまい」


 アサノハは真剣なまなざしでムラクモの言葉を聞いていた。彼の言葉はとても難しいが、とても大切なことのように感じられる。


 「人の話を聞くことは大事なことだ。おのれの至らないところを気付かせてくれたり、戒めてくれたりするだろう。だが、その話が賛同するものであれ、反対するものであれ、決断するのはいつでも己のみだ。自分自身しか決めることはできない。わかるか」


 戸惑いながらも、アサノハはうなずいた。だが、ムラクモはあまり気にしたふうもなく、先を続ける。


 「人はいつでも何かを決めながら生きている。例えば、先ほどそなたは熱いお茶になにも入れずに飲むことを選び、そしてその結果むせた。そのあと、蜜と牛乳を入れることを決め、結果美味しいと思った。そうだな」

 

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