第5章-4
アサノハは覚悟を決めるように深く息を吸い込んだ。そして。
「クオン」
しずかにゆっくりと彼女の守護精を呼んだ。ハナビシたちの前に姿を現した時と同じく、アサノハの守護精は瞬時に、そして音もなく主の側に出現した。
守護精たる証の鋼色の髪、鋼色の瞳。それを持つものがこの場に二人いる。それが何を意味するか、この場にいるすべてのものが理解していた。
その波動も芯は同じでありながら、微妙に異なる。似ているようで、違う。次代の王に従う次の守護精。
まず動いたのは、ハナビシとハクギンだった。次代の守護精のことを知っていた二人は、恭しくアサノハと次代の守護精に一礼した。その動きに我に返ったアサアケとツユシバがそれに続く。
アサノハは不安な面持ちで国王とその守護精に向き合った。
ムラクモは少し驚いたような表情をしていたが、それも側近の二人ほどではない。ややあって、彼は小さく笑い始めた。
「なるほど。我が庇護者は次代の守護精の主であったか」
平静な声だった。アサノハは国王がさほど驚いていないことに逆に驚いていた。
「陛下はご存じだったのですか? それで私を庇護されるとおっしゃられたのですか?」
「なにを知っていたと? ああ、そなたが次期だということか。いや、昨日の時点では知らなかったな」
あっさりとムラクモは言う。アサノハは何も言えず、目をしばたたいた。
「だが、今朝がたイザヨイが、次代が現れたと言った。ただ、どこの誰の元に現れたかはわからなかった。まあ、遅かれ早かれ私の前に現れるとは思っていたが、まさか私の庇護するキサラギの娘だとは思わなかったな」
淡々と事実を告げる国王に、アサノハは不安に襲われた。おずおずと切り出す。
「陛下は私が次期だということを、落胆なさってらっしゃるのでしょうか」
その言葉に、ムラクモは笑ってみせた。
「いや、そのようなことは思わなかったな。むしろ、私は見る目がある。そうは思わぬか、ハナビシ殿」
「ええ、嫌になるほど。この子ならば、キサラギや私の後を継げると見込んでおりましたのよ、わたくしも」
「早い者勝ちだよ、ジュオウ家の当主殿」
ムラクモ王は幾分勝ち誇ったように手をひらひらさせた。ハナビシがやや険のある視線を投げてもものともしない。
それを見ながら、アサアケが胸の前で腕を組んだ。
「それで、ジュオウ家を名乗らなかったのですね。次期さまに選ばれたお子は、家を出るとご存じだったのですね」
はい、とアサノハはうなずいた。
「今日、ハナビシ様に教わりました。今日より、私は家を離れジュオウ家のものではなくなるのだと」
「なるほど」
アサノハの言葉を聞いて、ムラクモは呆れたようにため息をついた。




