第5章-3
「まったく。キサラギにはなんどもあなたを学び舎に入れるように言ったのですよ。それなのにいつもまだ早いとはぐらかしてばかりで」
ハナビシも同じようなことを言っていたのを思い出して、アサノハは軽く目を見開き、思わずくすりと笑った。それを見とがめられ、真顔に戻る。
「準備はジュオウ家でも整えますわ。ご配慮痛み入ります、アサアケ殿」
ふたりの間にハナビシが割り込む。
「ただ、彼女はジュオウ家を出るものですので、ジュオウ家の力が及ばなくなることもあるやと思います。そのときはエンノウ家の当主でもあるアサアケ殿のお力を彼女にお貸しいただければ幸いに存じますわ」
「ジュオウ家をお出になる? 陛下の庇護下に入るからですか」
「そうですわね、それもございますが、また別の話ですわ」
ハナビシはにっこりとアサアケに微笑みかける。
そんな二人の間に割り込むように、ムラクモがコホンと咳払いをする。二人の当主は王のほうを向いて、それぞれ一礼した。
「アサノハが何か私に話したいことがあって、ハナビシ殿に同行したと見える。話があるなら話しなさい」
「陛下……」
アサノハは少し不安げにハナビシを見やった。それに気づいてハナビシが軽くうなずく。
だが、アサノハが口を開く前にムラクモが考え込むように言った。
「ふむ、その様子だと昨日の話は反故にして、ハナビシ殿の養女になる、という話かな。違うかい?」
一瞬、アサノハは驚いたが、すぐに首をふるふると振った。
「いいえ、違います。確かにそのお話は出ました。そして、私も一度はお受けしたのですが、できなくなりました」
今度はムラクモが眉を顰める番だった。
「受けたのに、できなくなった? そなたが望んだのにか?」
「はい。その理由は……」
戸惑ったように、アサノハは口をつぐんだ。それに助け船を出すように、ハナビシが声をかける。
「アサノハ、陛下に伝わるようにお話なさい。話すことが難しければお見せすればよいわ。私たちにしたように」
「ハナビシ様……」
アサノハはハナビシを見つめ、それからムラクモを見、続いて守護精に視線を向けた。同じ鋼の髪、同じ鋼の瞳。だが、まだ若い、というよりも生まれたばかりの幼さを感じさせる彼女の守護精とは違う、どこか老成した雰囲気。並べて比べなくてもわかる、二人の差。
しかし、それはアサノハだからわかることだろう。




