第5章-2
特にアサアケ様には同じ当主として今後いろいろとご縁をいただくと思いますもの。よろしくお願いいたしますね、エンノウ家のご当主殿」
アサノハは驚いたようにアサアケを見つめた。そういえば、父のキサラギが時折、彼女の話をしていたことがある。ほめていることもあれば、苦々しい表情で語ることもあった。
王の側近で、五大家の一つエンノウ家当主のアサアケ。ハナビシがこのたび当主となるまでは、五大家でただ一人の女当主。それが彼女のことだとは。
彼女を見つめていると、ふいに冷たい視線がこちらに向いた。その冷ややかさに、アサノハは周りが冷たくなったような気がした。
「この場にふさわしからぬものがいるようですね。このようなお子をお連れになるなど、何を考えておいでか」
その言葉に、ハナビシはくすりと笑う。それにアサアケがピクリと唇の端を上げた。
「これはわたくしとしたことが。もちろん、ゆえなくして同行させてはおりませんわ。ご紹介いたしましょう、アサアケ様。ジュオウ家前当主して私の甥、亡きキサラギの娘、そして昨日より陛下の庇護を受けることになりましたアサノハですわ。アサノハ、エンノウ家のご当主、アサアケ様です。これから王城で暮らすとなればアサアケ様にもいろいろとお世話になると思いますからね、アサノハ、ご挨拶を」
ハナビシに背を押された格好になったが、アサノハは背筋を伸ばしてアサアケのほうを向き、ゆっくりと丁寧に一礼した。優雅な、非の打ち所がない所作だった。
「エンノウ家のご当主アサアケ様にご挨拶申し上げます。アサノハと申します。良き波動がアサアケ様とエンノウ家をお導きくださいますよう。どうぞお見知りおきくださいませ」
「ごきげんよう、アサノハ殿。ジュオウ家とは名乗らないのですね。陛下の庇護下に入ったからですか」
アサアケの言葉の意味がすぐに飲み込めず、アサノハは目をしばたたいて彼女を見やった。その間にアサアケは少女との間をつめ、すっと手を伸ばした。冷たい指先がアサノハの頬をかすめる。
「そう、あなたがキサラギの娘……。お悔やみを申し上げますわ。キサラギには残念なことでした。葬儀に参列できず、申し訳なかったわ。どこぞの陛下が政務を投げ出して行ってしまわれたのでね。私とツユシバは後始末に追われていましたのよ」
そう言って、アサアケはムラクモ王のほうに冷ややかな視線を送る。ムラクモは悪びれたふうもなく、肩をすくめてみせた。
それにさらに冷たいまなざしを投げかけてから、アサアケはふうとため息をついた。そして、再びアサノハに向きなおる。
「あなたのお部屋は私が承っています。数日中には支度ができると思います。それとは別に、あなたは候補者であるにもかかわらず、学び舎にまだ入っていないそうですね。そちらも手配しています。部屋に入ると同時に学び舎にも入れるようにしますので、それまでに準備は整えておくように」
「はい、かしこまりました、アサアケ様」
アサノハは再び一礼する。




