第4章-6
「次代さま」
突然呼びかけられて、クオンは驚いたようだった。彼を見つめるハナビシのまなざしはやさしくも厳しいものだった。
「これはジュオウ家の当主ではなく、アサノハの大叔母としてお訊きいたします。アサノハを守ってくださいますか」
一瞬、守護精は目を見開いたが、すぐに真摯なようすでうなずいた。
「もちろんです。私はそのために生まれたのです。我が選びし主と共に生き、守り、共に逝くために。我が波動のすべては主たるアーシャのもの。常に共にあるためにあるのです」
鋼色の瞳は真摯な色をたたえ、まっすぐにハナビシに向けられている。そして、アサノハの視線を感じたかのように、まなざしを主たる少女に移した。先ほどまでの厳しさは消えて、どこまでもやさしい。クオンは少女の手を取るとその甲に軽く口づけた。まるで誓いのように。
あてられたかのように、ハナビシが苦笑を浮かべた。
「ありがとう、その言葉がきけて良かったわ。でも、アサノハを泣かしたりしたらこのハナビシがあなたを殴りに行きますからね。それは覚えておいて」
「重々承知しております」
クオンはハナビシ夫妻に優雅に一礼してみせた。
「アーシャにあなたのような身内がおられてよかった」
「ありがとう。その言葉は素直に受け取っておくわ」
ハナビシは悪戯っぽく微笑むと、ゆっくりとアサノハを見やる。
「安心したわ、アサノハ。これからあなたがジュオウ家を離れることになっても、あなたを守ってくれる人がいることに」
ハナビシは立ち上がるとアサノハの元に向かった。そして少女の手を取ると立ち上がらせて、上座に立たせる。当然のように守護精がその隣に移動した。
ハナビシは少し距離を置くとまじまじとアサノハを無言のまま見つめた。ややあって膝を折り、最上級の礼を取る。それに驚いてアサノハが大きく目を見開いたことも気づかずに。
「アサノハ、いえ、次期さまたるアサノハ様にジュオウ家当主ハナビシがご挨拶申し上げます。これより以降、ジュオウ家は次期さまに仕えますことをここに誓約し、いついかなる時もご助力いたします。次期さまと次代さまを良き波動がお導きくださいますことを、お祈り申し上げます」
「ハナビシ様……」
すっと顔を上げると、ハナビシは軽く片目をつむり、たしなめるように少女を見やった。
「駄目よ、アサノハ、いえ、アサノハ様。ここはちゃんと次期さまとしてあいさつを受けなさい」
その言葉に、アサノハはすっと背筋を伸ばした。先ほどまでのおろおろと狼狽したようすは見られない。昨日の葬儀の場にいた少女がそこにいた。
だが、昨日のどこかうつろで、生気のないからくりめいた表情はなく、紫水晶の瞳はきらきらと輝き、晴れやかな顔をしている。隣に立つ守護精が少女を精神的にも支えているのがうかがえる。
凛として咲く花の如く、守護精を従えた次期国王。
まさにそのものであった。




