第4章-5
アサノハの疑問にハナビシは鋭く応えた。あまりに簡潔ではっきりとした応えに、アサノハは目をしばたたいた。
「まあ、まったく影響がなくなるとは言えないけれどね。でも、次期さまが出身の家門と繋がっていれば、どうしたってその家の力を受けるでしょう。能力を無視して出身の家のものばかりを重用するかもしれない。各家は王のためにあるのであって、その家のために王があるのではないのですもの。そう言った例がないわけではないのよ。それゆえ、次期さまはその家を離れて、どの家とも等しく距離を置くの。公平であるためにね。一つの家に肩入れすれば、国が乱れる元だから。とはいえ、実際は難しいわね。時に出身の家の力が必要になることもあるし」
それからハナビシはふっと吐息をつく。
「まったく。あなたが何も知らないのは、キサラギに責任があるわね。知っていて、アサノハ。彼、キサラギはね、あなたが可愛いばかりに私たちがあなたに候補者としての勉強を始めたほうが良いのではないかと何度も行ったのに、まだ早い、まだ早いと言って、先延ばしにしてきたのよ。万が一、あなたが次期さまに選ばれて自分の元を離れてしまうのを恐れて、その可能性すら避けて回ろうとしていたの。困ったものよね。囲い込んだとしても、こうして次代さまは現れてしまうのに」
ハナビシはさらに大きなため息をつく。
「あなたが年頃になったら、絶対嫁には行かせないと言っていたわね、キサラギ。あの頭のいい彼が、こと妻と娘のことになると思考停止していたわ。どんなに頑張っても、子供は勝手に親の手の届かないところに行ってしまうのにね」
そして、アサノハににっこりと微笑んでみせる。
「愛されていたわね、アサノハ」
その言葉に、アサノハははっとしたような表情を浮かべ、それからはにかんだように微笑んだ。
「はい、本当に……」
ああ、本当に。父様からも母様からも私は愛されてきた。私も愛してきた。もう二人はいないけれど、二人の愛は私の中にあるし、これからも私が両親を愛さなくなることはないだろう。その愛が、いつかきっと私の中からはるか遠くまで世界を巡っていくことだろう。
そんなアサノハの思いを見抜いたかのように、ハナビシは手を伸ばしてアサノハの腕をぽんぽんと軽くたたいた。アサノハはハナビシの顔を見て、泣き出しそうな顔で、でも微笑んでみせた。それにこたえるように、ハナビシもまた笑みを返す。
「でも、アサノハ、あなたはこれからジュオウ家を出てしまうけど、ジュオウ家とすべてのつながりが切れてしまうわけではないわ。あなたがジュオウ家の出であることは周知の事実。私はずっとあなたのことを思っていてよ」
「ハナビシ様」
その言葉を聞いて、ハナビシは小さく笑った。
「あら、ダメよ、私のことは呼び捨てにしなくちゃね」
アサノハは驚いて、それからフルフルと首を振った。
「ハナビシ様のことを呼び捨てになどできません」
ジュオウ家の当主でもあり、アサノハにとっては大叔母に当たる人でもある。それでもハナビシは首を横に振る。
「あなたは次期さまになったのだから、私のことも呼び捨てにできるようにならなくてはね。まあ、今はまだよいわ。でも、王になった時に臣下に対して『様』付けはおかしいでしょう。慣れなくてはね」
ハナビシにそう言われては、アサノハはうなずくしかない。そんな少女を愛おしそうに微笑みながら見つめて、ハナビシは視線を少女の後ろに立つ守護精に移した。




