第4章-4
「アーシャのお身内ですね。クオンと申します。こちらこそよろしく」
次代の守護精は鋼色の髪を軽く揺らして二人に対して一礼した。アサノハは彼を見やってから新当主に向きなおった。
「彼のことを陛下にお話ししなければなりません」
「そう、そういうことだったのね」
少し考えこんでからハナビシはほうっとため息をついた。
「参ったわ。まったく、次代さまが現れるとはね。」
ハナビシは降参するかのように両手を肩の高さにまで上げた。それから手を下げるとアサノハに向きなおる。
「このことを陛下はご存じなの? だからあなたを庇護すると仰せだったのかしら」
「いいえ、陛下はご存じありません。クオンは昨夜遅く、私の元に現れたのですから。ですから、陛下にこのことをお知らせせねばなりません」
「そう、すでに名を次代さまにつけたのね」
呟くように、ハナビシはささやいた。それから考えるように言葉を紡ぐ。
「陛下はご存じでない……。まったくあの男ときたら。なにを考えているのかしらね」
「ハナビシ」
ハクギンがたしなめるように、奥方の名を呼んだ。それにちらと視線を走らせて、だが意に介さずにハナビシは吐息をつく。
「はいはい、不敬だというのでしょう。もちろん、ここだけの話よ。私だって当主になったのですもの、場はわきまえているわ」
ハナビシは少女のほうに向きなおると、まっすぐに顔を見つめた。
「本当にね、参ったわ。こうなったら話はまったく変わってくるわ。……アサノハ、申し訳ないのだけど、先ほどの養女の話はなかったことにして頂戴」
え、と今度はアサノハが驚く番だった。突然の話で驚いたのに、今度はさらに驚かされる。また見捨てられたような気がして、少女の表情が曇る。それに気づいたのか、ハクギンが伴侶を咎めた。
「ハナビシ、アサノハの話を聞かずに話を進めたのは君だろう。アサノハが困っている」
そう言われて、ハナビシは少女に目を向けるとこちらも困ったように吐息をついた。アサノハの隣で彼女を睨みつけている存在に気づいたからでもある。
「ごめんなさいね、アサノハ。そうね、あなたの話を先にちゃんと聞くべきだったわ。ただ、理由があるの。聞いてくれるかしら」
新当主の口調に真剣なものを感じて、アサノハはうなずいた。いつのまにか少女を励ますようにクオンの手が置かれ、そのあるかなきかのほのかな温度に励まされる。
「その様子だとあなたは知らないようね。次代の守護精に選ばれ次期さまになった子供は何処の家のものであれ、その家を離れて王家の子供になるの」
「王家の子供に?」
アサノハは初めて聴く話だった。そもそも候補者になるための勉強もしていないし、候補者についての話を両親からあまり聞いたこともなかった。
「でも、陛下のお子たちがいらっしゃるでしょう」
戸惑いながら、アサノハは言った。それにハナビシがうなずく。
「そうね、対外的には国王の子供が王子や王女といった立場になるわ。けれど、次期さまが現れればその子たちは王家を外れて両親の家の子になるの。父親と母親の家が違えば、どちらかを選ぶこともできるわ。現にあなたの父であるキサラギも前王の子であったけれど、次期さまが、つまりムラクモさまが選ばれてからは、前王の出身であるこのジュオウ家に入り、当主になったでしょう。あなたも次期さまに選ばれたからにはこの家を離れて、王家の子供になるのよ」
「どうしてですか」
「家の影響を排除するためね」
アサノハの疑問にハナビシは鋭く応えた。あまりに簡潔ではっきりとした応えに、アサノハは目をしばたたいた。




