第3章-3
ロウバイはぽんぽんとアサノハの背を叩く。そのいつもの仕草が少女を落ち着かせた。
「どなたがいらっしゃらないと? 嬢様がお探しはあの方ではございませんか」
そう言って、ロウバイは窓際を指し示す。そこに、少女が探していた鋼色の髪の若者が微笑みを浮かべて立っていた。アサノハはロウバイの腕をすり抜けると、守護精の腕の中に飛び込んだ。
「いなくなってしまわれたのかと……」
「そのようなはずはありません。ずっと側にいるとお約束しましたよ、アーシャ」
守護精はアサノハを抱き上げると、安心させるように額を合わせる。守護精の整った貌が迫り、アサノハは驚くより先にどきどきした。両親やロウバイを除いて、これほどまでに近づいた人はいなかった。そして、昨夜は彼の胸の中で泣いたことを思い出して、ばつが悪くなる。
「アーシャ?」
そんな彼女の気持ちの動きに気づいたのか、守護精が心配そうに見つめてくるのに気付いて、アサノハはほっと安堵した。このまなざしが、これからはずっと傍にある。それだけで嬉しくて、アサノハは微笑みを返した。
「ごめんなさい、寝台に隠したのにいらっしゃらないから、少し不安になっただけなの」
昨日の葬儀の後だ、まだアサノハ自身が不安定なのだろう。アサノハは恥ずかしがりながらも甘えるように守護精にすり寄った。
「ええ、あなたが私を隠したがっていらっしゃるようでしたので、少し隠れておりました。そもそも、私を誰だと思っておられます」
そう言って、守護精はくすくすと笑う。
そうだ、彼は宝剣の守護者、波動の生き物だ。波動師のように波動が扱えて当然だった、とアサノハは思い返す。
「アサノハ様」
そんな二人を遮るように、ロウバイが声をかけてくる。後ろに控える侍女二人は信じられないような表情であっけに取られていたが、ロウバイは落ち着いたものだった。そういえば、アサノハは人の足音が聞こえて来た時、とっさに「次代さま」と叫んだのだった。その一言で、ロウバイはすべてを察したのだろう。
アサノハはゆっくりと守護精の腕の中から滑り降りた。それを見やってから、ロウバイは守護精に向かって静かにゆっくりと一礼する。
「お初にお目にかかります、次代さま。アサノハ様の侍女を務めまするロウバイと申します。後ろに控えますのはサクラとミズキにございます。ふたりもまたアサノハ様に使えておりまする。以後、よろしゅうお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします、ロウバイ殿。アーシャがとても頼りにしているようですね。サクラもミズキもどうぞよろしく」
守護精はその麗しい顔に微笑みを浮かべて三人にそれぞれ頷いてみせた。サクラとミズキが慌ててお辞儀をした。
「サクラにございます」
「ミズキです。よろしくお願いいたします」
若い二人は何が起こっているのか、まだわからないようだった。とにかくロウバイに倣っている。それを見て、アサノハは少しおかしくなって小さく笑ってしまった。




