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95、マルルがシルルをスカウトする

 俺は、彼らと別れ、巨大な雪だるまの店に戻った。


 爺もついてくるかと危惧したが、イストと打ち合わせがあるという。おそらく、酒を飲みたいのだろう。彼らの今夜の酒は、きっと美味い酒になるだろう。




「カルルン、ひどいっ!」


 なんだ? 待ち構えていたのか。


「遅くなったよね。晩ごはん食べる?」


「カール、晩ごはんは食べるんだけど、あの、大丈夫?」


「うん? 何が?」


「な、なんでもない」



 マルルが、覗いていたのか? いや、あの場所は覗けないようにしてあったはずだが……あー、このおもちゃか。


 俺は、腰につけていた小さなパラソル型の転移道具のせいだと気づいた。マルルは、すぐに物を散らかすから、探すために細工をしているのだろう。


 これを使って、話を聞いたのだな。それを、なぜシルルに言うのだ?



「マルル、覗いていたのか。それをなぜシルルにまで言うのだ?」


「だって、シルルちゃんが、カールが戻ってこないって心配してたんだから」


 あー、またその先の言葉が見えるな。シルルは、俺がまた迷子になったと心配したか。勇者の街で俺が討たれた件は、知らないのだったな。


「マルルに、念話で伝えたはずだけど」


「そう言ったんだけどねー。でも信じないというか、カルルンが弱いと思ってるみたいだから〜」


 マルルとしては、シルルが不安定になったから、仕方なかったと言いたいらしいな。クゥがそばにいてもダメなのか。


 シルルの様子を見ると、落ち着きがないようだ。クゥは、赤ん坊ドラゴンの姿に戻って、シルルの腕の中で眠っている。


 クゥがしっかりしないから、シルルの方が保護者感覚なんだな。シルルはまだ子供だ。不安になるのも仕方ない。



「どこまで話した? あ、いや、言葉にしなくていい。頭の中を見るから」


 俺は、マルルの頭に手をかざした。こんなことをしなくても見えるが、パフォーマンスだ。常に見えることがわかると、ストレスになるだろう。


 マルルは、俺の手から逃げるように、自分の頭を手で覆っている。まぬけな行動だが、シルルはジッとそれを見ている。まさか、手で防げると思っていないだろうな。


 一応、サーチ魔法を使った。マルルが、不機嫌な表情を浮かべた。近距離のサーチは不快だからな。


「うげぇ〜ぇえ、気持ち悪〜い」


「うるさいな」


「ほげぇえ〜ええ」


 マルルの奇声に、シルルはクスクスと笑っていた。



 ふむ、あの会話は、マルルはすべて聞いたようだな。


 そして、シルルには、カールは魔王カルバドスだということを再び告げ、そして、俺が、神シードルの使者によって、昔の記憶を強制的に思い出さされたと伝えたようだ。


 だから、大丈夫かと聞いていたのか。


 脳みそが小さいのに、たくさんの記憶を渡されたという説明か。マルルは、そういう言葉は逃さないのだな。


 まぁ、天使とはそういうものか。特にマルルは、天空の天使達が切り離したゴミから生まれた……いたずら心で、できているのだからな。



「マルル、黙っておくという配慮はできないの?」


「秘密はいけないんだよーっ。カルルンは、すぐに隠し事ばかりするんだからーっ。あたしは、覗けばわかるけど、シルルちゃんは、カルルンの頭の中を覗けないんだからね」


「普通は、僕も覗かないから」


「なっ? こほん。知らないと不安になるでしょー。カルルンってば、女の子の気持ち、ぜーんぜんわかってないんだから」


「マルルは、ババアじゃ……いてっ」


 何かが飛んできた。なんだ? おもちゃか? 投げるか? 全く……。


「あははは、カールってば、やっぱ、弱いよん。うふふっ」


 マルルの横暴な様子は、シルルには楽しいらしい。ふむ、まぁよいが……。


 確かに、爺が言っていたが、マルルはわがまま放題だな。何かを言っても、スルスルと逃げていくし、何の効果もないから、俺としては諦めたのだ。


 だが、それが甘やかしていたということかもしれんな。だが、こんな堕天使に、しつけなど不可能だろう。



「そうだ、カルルン、ひどいよっ!」


「何がだ?」


「どうして、あたしの部屋がどうのって使命にしたのよーっ。ひどいよ、ひどすぎるっ」


「は? それも聞いていたのか」


 だが、シルルにその内容は伝えていなかったらしい。自分に都合の悪いことは、黙っていたのか。


「カール、マルルさんにひどいことをしたの?」


「シルル、さっきマルルから聞いたよね? 伝達者のこと」


「うん」


「彼らはそれで、与えられた使命が終わったんだ。新たな使命がないと、生きられない。だから、新たな使命を与えたんだよ」


「ふぅん、でも、それはマルルさんが嫌がることなんでしょ」


(なんだと? シルルは完全にマルルの味方が)


「僕が与えたのは、マルルが部屋を散らかさないように監視し教育するように、ってことだよ」


「うん? それだけ?」


「そう。それだけなのに、マルルは怒ってるんだ」


「マルルさん、それなら片付けていたらいいだけだよん。魔物の大群が押し寄せてくる方が大変だよ」


「魔物の大群?」


「うん、魔物の大群に襲われるよりもひどいことだって言ってたから……」



 すると、マルルは、何かを思いついたらしい。小悪魔的な笑みを浮かべた。ロクなことじゃないだろうが……はぁ? 全くコイツは……。頭の中が見えたことは、バレないようにしないとな。


「ねぇ、シルルちゃん、カルルンとの旅が終わったらどうするの?」


「えっ……うーん、アプル村に戻るかなぁ」


 マルルは、シルルが落ち込むことがわかって、こんな話し方をしている。シルルは、また捨てられるかのような不安定な状態だ。


 そして、タイミングをはかっている。シルルの不安が最も大きくなり、諦め納得する直前のタイミングを待っている。


 シルルの瞳が揺れ、諦めかけたときに、マルルは口を開いた。


「シルルちゃん、お片付けナイトにならない?」


(は? ナイト? 騎士か?)


 シルルも意表を突かれたらしく、キョトンとしている。


「お片付けナイト?」


「うん、カルルンが使命を与えた監視係は、二人なの。だから、あたし一人では撃退できないの」


(撃退するなよ)


「うん?」


「だから、シルルちゃんが、お片付けナイトになったら、二対二の勝負ができるのよーっ。これなら勝てるの」


(何の勝負だ?)


「うーん?」


「つまり〜、シルルちゃんは、魔王軍に入るのよーっ」


「ええ〜っ!? 私が? そんな、戦えないよん」


「お片付けナイトは、お片付けバトルを戦うの。シルルちゃんならできるよっ」


 マルルは、シルルを手元に置いておきたいのだな。シルルの母親シルビアは、マルルと親しい。だからかもしれんな。


 それに、俺としても、今の不安定なシルルは放っておけない。シルルは、魔族だ。人間ばかりのアプル村では、困ることもあるだろう。


 突然のスカウトに、シルルは驚いている。だが、俺達と離れなくていいという安心感もあるようだ。マルルが不安を煽ったことで、提案を受け入れやすい心境になっているようだ。


 マルルは、俺をチラッと見た。ふむ、何か言えということか。知らぬふりをしていたら、身振りが加わった。はぁ、仕方ない。これを無視すると、またうるさいことになるからな。



「シルル、別に、今すぐ決めなくていいよ」


「えっ? うん」


「ちょっ、カルルン!」


 マルルは話が違うと言いたいようだ。ふっ、せっかちな奴だな。今すぐ結論を出したいらしい。


「シルルが勘違いしてるといけないから、マルルの陰謀を教えておくよ」


「陰謀?」


「ちょっ、カルルン!」


「うん、マルルはね、片付けの才能が全くないんだ。シルルも気づいていると思うけど、すぐに床を足の踏み場がないほど、とっ散らかすんだよ」


「ふふっ、うん、そうかも」


「ちょっ、違うよっ。それは狭いからだよー」


「部屋の広さは関係ないんだ。昔ね、アプル村よりも広い場所を、奇妙な玉で埋め尽くしたこともあるんだ。そのせいで集会場を変更することになった」


「えっ? アプル村ぜんぶを散らかしたの?」


「ちょっ、違うよっ。ガラス玉の海を作ったら綺麗だと思って……みんなも笑ってたよーっ」


「マルル、あれは、苦笑いだ」


「あはは、マルルさん、面白い〜」


「コイツは散らかし魔獣のようなもんなんだ。だから、マルルは、シルルを片付けの責任者にとスカウトしているんだよ。マルルを叱る爺から守って欲しいんじゃないかな」


「あー、それでナイトなんだ」


「ち、散らかし魔獣!? カルルン、ひどいっ!」


「事実だろ。シルルは断ってもいいよ。それに、今すぐ決めることじゃないよ。ゆっくり考えればいい。シルルの居場所の候補が一つ増えたと思っておいて」


「ふふ、カール、わかったよん」


 居場所という言葉がよかったのか、シルルは落ち着いた表情を取り戻していた。


 マルルは、プンスカ怒りながらも、優しい目をしていた。やはりマルルは、シルルの保護者のつもりのようだな。




 そして、マルルに連れられ、晩ごはんを食べに行った。飯となるとクゥは目を覚まし、人化していた。


 その後、魔王軍が経営する宿屋に泊まった。


 シルルとクゥが眠った後、俺は部屋を抜け出し、宿屋のバーへと向かった。



「カルバドス様、戦後復興の作業が、立ち入りを拒否された勇者の街以外は、ほぼ完了しました。次のご指示を」


 バーには、俺の主要な配下達が集まっていた。


「うむ、俺は、神シードルを討つ。そのための準備を始めているな?」


「はい、洗脳された信者が暴走しないようにですよね。カシャンコは、新規店も含め、絶賛稼働中です」


「そうか、ふむ。シードルから徹底的に信者を剥ぐぞ。何かを信仰しなければ生きていけない者は、教典教に改宗させる。信者を剥げば、シードルは荒れる。俺は、狂った邪神を討つ!」


「はっ!!」



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