80、魔王、弱体化魔法の効果に気づく
「えっ? でも、オリジナルの型というか設計図がないとコピーできないもーん」
「ここに持ってきてくれたら、設計図を教えるけど」
「きらきらりーん! すぐに持ってくるーっ」
マルルは、バタバタと転移魔法陣へと走って行った。なるほど、あの転移魔法陣以外の場所から転移はできぬらしい。
この場所は、徹底的にリスク管理をして作られたようだな。秘密基地という言葉どおりか。
「カルバドス様、よろしいのですか?」
いつも俺の側に仕えている側近の一人が近寄ってきた。
「ゲインか、久しぶりだな」
「はっ。本当によくご無事で」
そう言うと、ゲインは仮面を外した。相変わらず、威圧的な顔をしている。コイツが魔王でもよかったか。
「何の話だ?」
「先程の、マルル様を魔王にするという話です。我々としましては、マルル様ではいささか……」
「ふむ、では、おまえがやるか?」
「とんでもございません。私はなおさら器が小さく……」
「ふっ、マルルでは器が小さいか」
「い、いえ……」
俺はまわりをぐるりと見回した。すると、呼んでもいないのに、配下達は、近寄ってきた。
「俺がシードルに討たれたことは、みな知っているな」
「生きておられます!」
「だが、完敗だ。アイツが油断しなければ、逃げられなかった」
俺がそう言うと、配下達はしんみりした。何か言いたそうにしている者もいるが、言葉にならないらしい。
そうだ、俺は弱体化した。調子に乗って、団子を作り過ぎたか。まさか、自分がそこまで弱くなっていることにも気づかないとは、笑い話だな。
(うん? 何だか違うか)
俺が歩くと、いつも以上に窮屈な感覚があった。自分にサーチ魔法を使ってみると、ガキの姿の能力値は少し上がっていた。それに、俺自身の能力は、再び測定不能となっていた。
身体も軽い。マルルの花栽培のおもちゃは、時間を進めるだけのはずだな。ということは、弱体化した後の成長が完了したのか。いや、これは、もしかすると……。
「おい、俺の付近に魔防バリアを張れ。全員で重ね掛けだ」
「えっ? はっ」
配下達はポカンとした顔で、だが、俺の周りを魔防バリアで囲った。何重にも重ね掛けされた。ふむ、余裕なはずだが。
「ゲインも、やれ」
「いえ、そこまでは……」
「ここが壊れてマルルが泣きわめいても知らんぞ」
「それは困ります」
魔王軍最強の魔導士も、魔防バリアを張った。よし、これで完璧だ。
「俺はちょっと実験をする。決して魔力を外へ出すなよ。必ず防げ」
そう言うと、配下達の表情は変わった。
(ふむ、やってみるか)
俺は長い詠唱を始めた。俺の究極魔法、天地を揺るがす闇魔法だ。俺自身、制御するのが難しい。制御にも膨大な魔力を使う。制御しにくいから放ったことはない。下手に使うと、この世界すべてが吹き飛びかねない。
詠唱を終えた。
ブォンブォンブォンブォンブォン
俺自身が台風の目になったかのように、俺の身体から闇の炎がわきだした。そして激しく黒い炎は回転を続けた。
俺の身体の中を闇の炎が駆け巡り、どんどん俺の戦闘力が上がっていくのがわかった。ふむ、そろそろ回転が乱れるな。
俺は制御のために、両手の手のひらに、別の種類の闇を浮かべた。乱れると暴走する前にこれで鎮火させる。
(やはりな)
回転は乱れない。さらに戦闘力が上がると回転していた闇の炎は色が変わった。黒い炎は、だんだん色素が抜けるかのように色を失っていった。
ドタリ!
バリアを張っていた配下がひとり倒れた。ふむ、マズいな。
俺は両手に用意した鎮火用の闇を使って、無力化した。行き場を無くしたマナは、俺の身体にスーッと吸い込まれた。ふむ、これもスムーズだな。なんの熱も感じない。完璧に制御できているということだ。
「もう、いいぞ」
俺がそう言うと、配下達はバリアを解除した。みな、疲れきった顔をしている。ゲインまであぶら汗をかいたようだ。
「カルバドス様、これはいったい?」
「ふむ、団子の効果だな。アレは弱体化魔法の産物だ。弱体化だけではない。弱体化することでそれを補おうと活性化し成長するのだ」
「全く弱体化どころか……」
「あぁ、成長した分が上乗せされたようだ。おそらく眠ることで、弱体化魔法で下がった分は回復するようだな。俺は変身の呪具が解けるから眠らないようにしていた。だからずっと成長し続けていたようだ」
「なんと!」
「いまは、全く成長していない。全回復状態だと当然成長しない。ふっ、団子屋でも開くか。だが、あと1回眠ると、この変身の呪具は解けてしまうんだがな」
配下達が、歓声をあげた。
そんなに団子が嬉しいのか? ふっ、いや違うな。俺の能力が上がったことが嬉しいのだろう。
とりあえず、俺は作り慣れた『魔力だんご』を配下達に作ってやった。うん? 色が増えたか?
「カルバドス様、この緑色の団子は、以前には頂いてませんぞ?」
「こちらには、黄色い団子が。白い団子かと思ったら味が違うので驚きました」
「ふむ、なぜか新しい色が増えたようだな。味と効果を言ってみろ」
そう言って、俺は緑色と黄色を意識して、団子をこねた。新作は、作るのが遅く、少しイライラしてくるが。
「緑色は、バリアなどの緑魔法力が上がるようです。草餅のようで、大変美味ですよ」
「黄色は、体力が増えますね。きなこもちのようで美味しいです。かなり甘いので、マルル様がお好きなのではないでしょうか」
「ふむ、なるほどな。黒は黒魔法が上がり、白は白魔法とポーション効果、赤は攻撃力だったな。そこに、緑の緑魔法、黄の体力が加わったか」
「五色団子ですな」
配下達は、団子を食って楽しそうに笑っていた。ふっ、なんだか、戦乱終結の祝宴の日を思い出すようだな。
あのときは、酒が入っていたが……。
「こらー! なんで、あたしが居ないときに団子パーティーしてるのよーっ」
(うるさい奴が戻ってきた)
マルルは、口をとんがらせて手のひらを出し、ヒラヒラさせている。俺は新作の二つを作ってやった。
「あれ? 変な色」
「嫌なら食うな」
「カルルンのいじわるー! 食べるに決まってるでしょ」
そう言って、俺の手のひらから団子を奪い取り、パッと俺から離れた。まるで野生の動物のようだな。
「わっわっわー! みんなたくさん持ってる。ズルい〜っ」
なんだか騒がしいが、無視しておくか。
俺は、マルルが放り出した呪具を手に取った。
マルルは、コピーロボと呼んでいるが、兵器製造の呪具の量産版だ。あの呪具の妹分として作ったものだ。
新たな兵器を創造する能力はない。だが、設計図の情報を与えれば、その製造能力は高い。
だから、兵器製造の呪具で作り、この量産版で大量生産するのが効率的なのだ。何より、コイツは原材料はなんでもいいのだ。その辺の砂からでも、金属製の兵器を作り上げる。
俺は、兵器製造の呪具量産版を起動させた。
『うにゃっ! カルバドスさま、こんにっちは〜』
コイツ、随分とマルルに毒されているな。
「あぁ、久しぶりだな。設計図の情報を送るから準備をしろ」
『はいはいのはーい!』
コイツは、少女の声だ。あの野太い声ならイラつくが、少女の声なら、マルルに毒されていても我慢できる。
俺は、ペンダント型のアイテムボックスから、兵器製造の呪具を取り出した。
『あっら〜ん、カルバドス様、大丈夫かしらぁ?』
「あぁ、なんとかな。カシャンコセットの設計図を量産版に与えるぞ」
『ええ〜っ? あ……量産版がいるのですね。かしこまりました』
(なんだ? コイツ)
コロッと態度を変えやがった。そして、いつもは、壺状のケツをフリフリしながら歩いていたくせに、スーッと音もなく移動した。
そして、妹分に指示を与え、設計図のコピーをしている。この雰囲気は、城に居たときのコイツの姿だ。会話ができるようにしてやったのに、愛想も愛嬌もない。ただの無口な道具だ。
『カルバドス様、完了いたしました』
「うむ。量産版の方はどうだ?」
『はいは〜い。カシャンコセット、ばっちりで、いい感じですぅ』
『おまえ、カルバドス様に対する態度がなっていないな』
『きゃん? いやん、おじさんこわーい』
『なんだと?』
ふむ、妹分がいれば、コイツの病気は治るのか。だが、これは、マルルのものだからな……。
「もう、うるさい。おまえの任務はここまでだ」
すると、呪具がすり寄ってきた。
『いや〜ん、そんな、捨てないで〜』
(治ったと思ったのは気のせいか……)
俺は、呪具をむんずと掴み、封印をして、アイテムボックスに収納した。
『おじさん、変な話し方してたよーっ、きゃはは』
「あぁ、最近、ひどくてな」
そこに、やっとマルルが戻ってきた。手には団子を握っている。配下から強奪したのか。やはり、マルルが魔王で良さそうだな。
「設計図はー?」
『マルルちゃん、ばっちりんこだよ〜』
「偉いよ、さすがロボだね。いいこ、いいこ」
なるほど……こうやって毒されていくのだな。
「マルル、素材は、あちこちの廃材を使え。あちこちゴミだらけだからな」
「はいはーい。で? どこにカシャンコ屋を作るの?」
「神都は順調か?」
「うん、完璧だよーっ。スラム街がリッチ街になってきたよ。神都に大型店を作るの?」
「いや、別の場所だ。神都から勇者の街へ向かうときに立ち寄る場所があるだろう。あそこなら、北部の都会からも人が流れてくる」
そう言ってやったが、マルルは首を傾げている。
「もしかして、寒い街のこと?」
「あぁ、温泉街だ」
「えー、あそこ、寒いもん。嫌ーい」
「おまえが遊ぶわけじゃないだろ。魔王軍が密かに管理している食べ物屋の、横の空き地を使え」
「うん? 武器置き場?」
「あぁ、自由にして構わない。マルルの理想の店にしても良い」
「うにゃっ、ラジャ!!」




