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67、創造の呪剣

「いやいや、あはは。確かに、私は神の代理を務めております。それを見抜くとは、さすがの血筋ですね。しかも、レイフィールドと繋がっていたとは驚きです。彼から何かを託されましたか?」


 シードルのフリをしていた男が、簡単に本物ではないと認めた。彼が偽物なのは、神父もわかっていたようだ。目が合うとすまなそうな顔をしていた。


 代理人の男の関心は、伝説の紫の勇者に向いているようだ。当たり障りのない話をしておこうか。



「いえ、別に。ただ、旅に出るときには魔法袋などを用意してもらいました」


「そうでしたか。彼は魔族に堕ちても、子孫との交流があるようですね。交友関係の広さには驚かされます。ですが、素性は明らかにしていないはずですが」


「そのような呪いでも付与しているのですか」


「えっ、い、いえ、そんなことはないと思いますよ」


 神の代理人だと明かした男は、隠し事が苦手なようだ。なるほど、コイツは、シードルの側にいる天使の一人か。


 しかし、神が呪いを使うとは笑えないな。あの宝物庫の番人は、ずっと何も言えずに毎日つまらない内勤をしていたのか。


 シードルが何をさせるために潜入させていたのか……いま、まさに何かをさせられているのかもしれんな。やはり、危険な呪具は持ち出しておいてよかった。



「旅をする中で、いろいろと噂を聞いたんですよ。それで、素性がわかりました」


「なるほど。しかし、あなたは、私と話していても全く動じないのですね。大人になる前に、ぜひ本物の神の洗礼を受けていただきたいものです」


 神の代理人は、口が軽い。わざとなのか? 洗礼は洗脳だと言っているようなものじゃないか。


「レーフィン様に聞いてからにしますよ」


 そう返事すると、その男は苦笑いをしていた。


 おそらく、マルルもこんなもんだろうな。話すつもりがなくてもペラペラと……。いや、待て。シードルは、わざとコイツを代理人にしたのか? 


 俺達を舐めているか、もしくは……人懐っこい天使を使って何をする? 俺なら……。



 ふと、二人の様子が気になった。二人は完全に、心を開いている。楽しそうに話を聞いている。それは、まるで……。


「シルル! アークさん!」


 思念バリアを張っていたのに、二人はふわふわとした表情だ。耳には聞きとれない高い音が鳴っている。そのわずかな振動を感じる。洗脳だ! 思念バリア越しにそのようなことができるのは、一人しかいない。


「ちょっと二人とも!」


 俺が叫ぶと、シルルはハッとした。


 クゥ〜ッ!


 赤ん坊ドラゴンの鳴き声で、やっと赤い髪の勇者は我に返ったようだ。



 俺は、神の代理人の男をキッと睨んだ。


「洗脳ですか。この場所で、意味のない長話をして、そして神が離れた場所から、直接、僕達を洗脳する気ですか!」


「何を急に怒っているのですか」


「僕達は、これで失礼します」


 俺はシルルの腕を引いて、礼拝堂から出ようとした。だが、出口の扉は、パタリと閉められた。


「ええっと、これはどういうことですか。彼らを閉じ込めるおつもりですか」


 神殿の教会の神父は、戸惑っていた。だが、他の者は、皆、俺達を取り囲んだ。神父だけが、理解できていないようだ。コイツは捨て駒か。



「あーあ、バレちゃった。だから思念バリアを外そうって言ったのにな〜。バリア越しだから、こんなに時間をかけても目覚めちゃったじゃない」


 神の代理人の男の言葉遣いが、急に変わった。


「いったい、この方達に何をなさろうと……」


「シードルさまが、危険だって。神父さんまで、この子達に悪い影響を受けちゃうでしょ」


「そんなことはありませんよ。彼らは、善人です」


「あーあ、シードルさまが、もう神父さんはいらないって。この人達と一緒に消さなきゃ。ごめんね、運が悪かったね」



 上から、次々と兵が降りてきた。いや、神殿の騎士か。かなり戦闘力が高い。一人一人が、勇者の数倍だ。


 この部屋の天井は、天空の神殿と転移で繋がっているのか。高い塔を使って移動させるのは大変だからな。


(マルルの未来予知は、やはりこっちか)



「ちょっと、これはどういうことですか。俺達が、なぜ神に消されなければならないんだ? 街を救ったじゃないか」


 赤い髪の勇者は、神殿の騎士に敵わないと察したのだろう。シルルを背にかばった。

 シルルは、恐怖に顔を引きつらせていた。シルルは血が怖いのだったな。だが、流血は避けられない。


 俺は、準備してあった魔法の確認をした。足りない。一掃するだけの準備はできていない。騎士の戦闘力は高い。これを一掃しようとすると、街が吹き飛ぶ。


(ふっ、面白い。だが、どうするかな)


 ここは、シードルの箱の中だ。天井から、何が降ってくるかわからない。



 騎士達は、赤い髪の勇者に返事をする代わりに、剣を抜いた。俺は絶対防御のバリアを、俺達3人と1匹に張った。


「おやめください。皆様、どうさ、れ……うぐっ」


 キャー!!


 俺達を庇うように前に出た神父が、バサリと斬られて倒れた。致命傷ではない。演技かもしれんな。


 だが、シルルが恐怖に震えている。目の前でシルルをかばった男が斬られて倒れた。これはマズイ。シルルの封じられた記憶に大きなストレスがかかる。


 赤い髪の勇者が説得しようと、前に出た。騎士も、勇者には少し警戒しているようだ。神父のように簡単には斬り捨てられないからな。


「シルル、シルル! 聞こえる?」


「カール……死んじゃった。また、死んじゃった」


「神父さんは致命傷じゃないよ。団子ある?」


「えっ? う、うん、ある!」


「シルルにもアークさんにもクゥにも、強い防御バリアを張ったから大丈夫だ。落ち着いて」


「う、うん。うん」


『クゥ、シルルを守れ。ただし能力は見せるな。シードルがまた見ている』


 俺が念話を使うと、赤ん坊ドラゴンは珍しく頷いた。気持ち悪いな。まぁ、状況判断をしたのだろう。


 キン!


 赤い髪の勇者が剣を抜き、応戦している。騎士達は、俺達の防御バリアが普通じゃないことに気づいたようだ。


 奴らが使う剣は、光の剣ではない。俺も勇者だとシードルは信じているようだ。空高い場所からいくら見ても、俺が魔王だとは気づかないらしい。


(それなら、勇者ごっこだな)



 俺は、ペンダント型のアイテムボックスから、一本の古びた剣を取り出した。これは、趣味で作った創造の呪剣だ。だが、呪い属性ではない。無属性だ。


 別の言い方をすれば、現存するすべての剣に変わることができる。そして現存しない架空の剣に変わることもできる。


 シードルの光剣の再現度は高くはない。だが、それ以外のものは、完璧だ。ただ、使う者を乗っ取ろうとする悪癖があるのだがな。


『聖剣エクスカリバー!』


 念じると、呪剣は、その剣に姿を変える。絶対防御バリアがあっても、聖剣は少々辛いか。



「えっ? カール……その剣……」


「アークさん、シルルを守ってください。あのおじさん達の相手は僕がします」


「カールの剣、すっごい光ってる。あっ、そうだ、団子!」


 シルルは、白い『魔力だんご』を取り出し、神父の口に放り込んだ。シルルは、役割を与えると、シャンとする。だが、なるべく流血は減らそうか。



 俺は、剣に風魔法をまとわせた。そして、騎士達に向けて剣を横一文字に振った。


 ブフォン


 鈍い風切り音と共に、風の刃が奴らに飛んで行った。


 ぐわぁあ!


 反射神経の悪い奴は避けきれずに、風の刃を受けていた。傷口は光っている。聖剣に変化しているだけあって、聖魔法でも付与されているのか?


(なかなかの完成度だ)


 さらに身体強化魔法を重ね掛けした。奴らが振る剣は、俺の目には遅く見える。


 天井に強い魔力を感じた。


 俺は剣を上に振り上げた。剣から放たれた風の刃が天井の彫刻を砕いた。ふっ、楽しいじゃねぇか。ついでに壁の石像も砕いておくか。


「聖剣だ! 聖剣持ちだ!」


 神殿の騎士達は、慌てた。


「この攻撃力の急増はなんだ! 聖剣のチカラか」


 だが、奴らは向かってきた。逃げ道がないのだからな。


 キン!


 フォン!


 剣は、だんだん調子に乗ってきやがった。俺はまるで剣に引きずられるかのように、踊らされた。剣は、俺のシードルに対する怒りをどんどん吸収している。


「ガハッ……クッ」


 次々と、騎士は、呪剣に叩き斬られていった。残り二人になったとき、奴らはシルルを人質に取ろうと動いた。


 クゥ〜ッ!


 ボゥオッ!


 赤ん坊ドラゴンが、炎を吐いた。室内だぞ、おい。


 だが、おかげで間に合った。その二人も斬り倒した。



 あとは、神の代理人だな。


「ちょ、ちょっと待ってよ。いったん、落ち着こう。シードルさまが、もういいって。聖剣持ちだとわかっていたら、始末しようとはしなかったって言ってるよー」


「意味わかんない。僕達は、自分の身を守っただけだ。見逃して、妙な悪評をばら撒く気だろ」


「ちょっと落ち着いてよー。余興じゃん、ねっ? 降参してるのに、追撃するって勇者としてどうなの」


「僕は勇者じゃない。魔王だ」


 一瞬、シーンと静まった気がした。


「あははは! 坊や、面白いこと言うね。魔王が聖剣を持てるわけないじゃん。それ、エクスカリバーでしょ。血を求める剣の意思が伝わってくるようだよ」


「は?」


「聖剣なんて言われてるけどさ。血を浴びることで輝くんだよね。それを装備できるなら、魔王を殺せるじゃん。水に流してさ、手を組もうよ」


 シードルの姿で、そんな言葉を発する意味がわかっていないのか。バカな天使だ。


 確かに勇者ごっこを貫くなら、降参されたら追撃はできない。チラッと赤い髪の勇者を見ると、彼は頷いた。


 倒すべきなのはコイツではない。


(そう、神シードルだ!)



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