48、女性達に食事とテントを提供する
クゥ、クゥ〜ッ
赤ん坊ドラゴンは、シルルが与えた肉を食べ終え、おかわりを要求しているようだ。女性達の方を見て、鼻をひくひくさせている。怪我人の血の臭いに反応しているのか。
確かにシルルは、今朝より小さめに切った肉を与えていた。今朝は、食べ過ぎて歩けなくなるほど、腹がパンパンになったためだ。
だが、コイツとしては、あの量が標準になってしまったらしい。食べ過ぎても、まぁ、寝るだけか。
「シルル、その子、もっと食べたいって」
「えー、また、お腹がパンパンで動けなくなっちゃうよん」
「でも、夜は寝るだけだから大丈夫だよ。じゃないと、腹を空かせて狩りに行ってしまうかもしれないよ」
「まだ赤ん坊だから、狩りなんかできないよん。今朝生まれたばかりじゃない」
「いや、ドラゴンは生後すぐに歩くし、腹が減ると狩りもするよ。親が子育てなんてしないからな。自分のことは自分でやるんだ」
「そうなの? でも、クゥちゃんは私が育てるから大丈夫だよん。よいこに育てるの」
「そ、そうか。とりあえず、もう少し肉を与えてやる方がいいと思うよ」
「うん、わかった。じゃあ、私達のご飯が終わるまでよいこにしてたらあげるよん」
奴は、まだシルルの言葉は理解できない。俺は、シルルの話を赤ん坊ドラゴンに念話で伝えた。
クゥッ、クゥッ
あとでまた肉をもらえると聞いて、やたらと元気になりやがった。食いしん坊だな。
挨拶に来ただけなはずの女性達は、まだ近くにずっといる。あー、そうか。泊まるテントがないんだな。それに腹も減っているのだろう。
「アークさん、晩ごはんの用意はもう終わったんですか」
「カール、鋭いな。テントの中を透視でもしたのか?」
「いや、僕が暴れていたときテントの中に居たようだから」
「なるほどな。簡単に、肉や野菜を切っていただけだ。ここは砂漠から風が吹いてくると、砂でじゃりじゃりになるからな。まぁ、焼くのは風避けを作って、外で焼こうと思ったが」
(砂漠の風が嫌なのか?)
人間は潔癖なのか、つまらぬことを気にするのだな。女性達も人間だ。彼女達も同じ感覚だろう。まぁ、そのあたりは、勇者に合わせてやってもよいか。
「アークさん、彼女達の分も追加できますよね。夜にここから帰れというのは、さすがにどうかと思うんですけど」
「あぁ、そうだな、追加しよう。お嬢さん達も晩ごはんを食べていきなさい」
赤い髪の勇者は、6人の女性に声をかけた。彼女達は、それを待っていたのだろう。全員ホッとした表情を浮かべた。
「ありがとうございます。私達、朝から何も食べてなくて」
「それは大変だな。それから、もしよかったらだが、今夜はこのテントで泊まっていくか? 俺は外で寝るから、変な心配はいらない」
「そ、そんな。私達はどこでも寝られますから大丈夫です」
「女性を外で野宿させて自分がテントというのは、やはり気がひける。テントは広いから気にしなくていい」
「広いなら、勇者さんもご一緒に」
「い、いや、広いといっても10人用だからな。俺も使うとなると距離が近くなるというか……」
(ふむ、なかなか起きないことを知られたくないのか)
「そうですか。なんだか申し訳ないわ。いいのかしら」
「気にしなくていいよん。みんな、リンゴジュース飲む? アプル村のリンゴを持ってるから、絞ってあげるよん」
「のどもかわいていたから、ありがたいわ」
シルルは、俺の目の前に手を出した。
「カール、噴水やって〜」
「はいはい」
俺は手洗い機か? 全くこの小娘は……。まぁ、仕方ない。手を洗わないとリンゴジュースを絞れないと言われるからな。
俺は、弱い水魔法を使って、手のひらからチョロチョロと水を出した。噴水というよりは、小便じゃないか?
シルルは、手を洗ったあと、俺をチラッと見た。催促しなくても、もう出してあるぞ。
「あっ! リンゴが浮かんでる?」
「魔法袋から出したけど、置く場所がないから……」
すると、赤い髪の勇者が、何かを広げた。簡易テーブルか。俺はその上に、リンゴをふわっと着地させた。
「すり下ろし器は……あっ、あった。みんな、ちょっと待っててね」
シルルは、リンゴをすり下ろして絞っていった。いい香りがあたりに漂っている。ガラスのカラフェのような容器は、リンゴジュースでいっぱいになった。
クゥ〜クゥ〜
おまえ、生肉、食っただろう。あ、のどがかわいたのか?
「ん? クゥちゃんも、飲みたいの?」
クゥッ!
赤ん坊ドラゴンはまだ言葉がわからない。なのに、何を嬉しそうにバタバタしてるんだ?
「シルルちゃん、人数分のコップ、セロファンを強化したものならあるけど、使うかな?」
「うん、あると助かる〜。セロファン袋のコップ?」
「見習い錬金術士が、プラコップと言って売っていたよ。使い捨てなんだ。すぐに火魔法で焼却できるから、旅には便利なんだよ」
「ふぅん、私は、旅でもいつものコップの方がいいな」
そう言いながら、シルルは、プラコップにリンゴジュースを入れた。そして、再び、リンゴをすり下ろし始めた。
「みんな、飲んでいいよ。絞りたては、美味しいよん」
6人の女性は、プラコップを手に取り、そっと口をつけていた。だが、誰もコップから口が離れない。みんな、一気にリンゴジュースを飲み干した。
「ぷはぁ、美味しいわ。こんな美味しいリンゴジュースは、初めて飲んだわ」
「ほんと! アプル村って有名なリンゴ園の村よね。たまに街道沿いで売っているリンゴジュースとは、全然違うわ」
「アプル村のリンゴは、一番美味しいんだよん。魔王様も、アプル村のリンゴから作ったリンゴ酒が好きなんだって〜」
(えっ……? なぜそれを?)
あ、あの元気な老婆が言っていたのだったか。リンゴジュースもいいが、リンゴ酒も飲みたい。だが、子供の姿でリンゴ酒は飲めないか?
シルルは、次のリンゴジュースを彼女達のプラコップに注いだ。今回は、俺とシルルの分もあるようだ。俺は、一気に飲み干した。美味いな、やはり。ん?
リンゴジュースを飲んでいた女性のひとりが、口を押さえていた。口の中を切っているのか? リンゴジュースがしみたのだろう。
あの魔族達は、彼女達を拉致するときに、殴ったのだろうな。顔に傷をつけると、商品価値が下がるのではないのか? アイツらは、ほんと、どうしようもないな。
「シルル、団子まだあるよね?」
「あるよん。どうしたの?」
「怪我人がいるよ」
「えっ? それは大変!」
シルルは、再び俺に噴水を要求した。ほんと、俺は手洗い機か。一度、ガツンと叱るか。
俺は仕方なく、水魔法でチョロチョロ水を出してやった。彼女達も、ジッとその様子を見ている。手を洗いたいのか。
「お姉さん達も、使います?」
「ありがとう、嬉しいわ」
彼女達は、順番に手を洗った。ふむ、人間とは妙な習慣があるのだな。あ、シルルは人間ではないが。
シルルは、手を洗った人に、順に、白い『魔力だんご』を渡していった。そして、ポーション効果があると説明している。ふむ、やはり、シルルに団子を預けておくと便利だな。
クゥ〜クゥッ
「クゥちゃんは、怪我してないでしょ! だめよん」
赤ん坊ドラゴンは、シルルの機嫌を損ねてはいけないと感じたのか、おとなしくなった。だが、シルルをジッと見つめている。何をしているのだ? シルルの真似をするための学習か?
「そんなにジッと見ても、あげませんからね」
クゥッ、クゥ〜ゥ〜
赤ん坊ドラゴンは、シルルに何か叱られたと感じたらしい。必死にシルルにすり寄っている。
シルルは、すりすり攻撃に屈したらしい。赤ん坊ドラゴンを抱き上げた。そして頭を撫でている。
「クゥちゃんは、甘えん坊なんだから〜」
赤ん坊ドラゴンは、シルルに撫でられて嬉しそうにしている。ふむ、確かに甘えん坊……ドラゴンのプライドは……なさそうだな。
(まぁ、元はトカゲだからな)
「さぁ、みんなで晩ごはんにしよう」
赤い髪の勇者が、切った野菜と肉を持ってテントから出てきた。そして、大勢での焼きながらワイワイと飯を食った。
赤ん坊ドラゴンは騒ぐかと思っていたが、シルルの近くにちょこんと座っている。ただ、口からは、だらしなくよだれが滴っていた。まるで、待て、をさせられているかのようだな。
まぁ、晩飯が終わるまでおとなしくしていれば、肉をやると言っていたから、待て、の状態で合っているか。
しかし、マヌケな顔だ。だが、完全にシルルに忠誠を誓った番犬のようでもあるな。おそらく、生まれた初日に築いたこの関係は、そう簡単には消えない。うむ、これも含めて、新種ドラゴンは成功だな。
いや、忠誠というより、完全にシルルを母親だと思い込んでいる。シルルに知られると、また絶叫だろうか。
シルルは、晩ごはんの後、忘れずに赤ん坊ドラゴンに肉を与えていた。まぁ、あれだけ、よだれを垂らしているのを見れば、与えるのを忘れることもないだろう。
赤ん坊ドラゴンは、ガツガツと生肉に必死に食べている。早食いは野生の本能だ。いつ敵に襲われるかわからないためだ。だが、コイツの場合は少し違う……何の警戒心もなさそうだな。
「かわいいですね。シルルさんのペットですか?」
「ん? クゥちゃんは、私の弟なの。尾が同じ色でしょ」
「えっ!? ドラゴンと姉弟なんですか」
「うんっ!」
彼女達は、シルルの話を信じたらしい。どう見ても違うとわかるはずだがな。
そして、その夜は、更けていった。
次回の更新は、2月17日(月)の予定です。
本日の更新遅くなりました。m(_ _)m




