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唐突に、  作者: 紅
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アルセルドの日記、5

 ぼくは卑怯だ。けどそれのどこが悪い?皆生きる為に、姑息な真似を、手荒に他者を欺いて来たじゃないか。一体、僕一人のどこにそれほどの罪が隠れていると言うのさ…。だから、ずっと弟は嫌いだ。過去を一層しやがった、たぶん纏わりつく長く患っていたものを棄て払ったのだろう。彼の心神の為にも必要な作業だった、

 けど、けれどそれじゃぁ。御前が解決したら次の帳尻は僕だ、母の据わった目が僕を捕らえた。今まで見逃されて叱責されない事に憤りを感じていたときもある、だがいざ矢面に立たされるとへこたれて起き上がれなくなる惨めな僕は何なのだ。


 何時も僕は悲劇の役者気取りだ。でも、そうしていないと心が、均衡が、諸々危うかった。正義を愛しても間違いじゃない世界が欲しかった。未来に光明きぼうを掲げられる安直で安寧に委ねられた土俵ぶたいが欲しかった。今の境遇以外の環境が欲しかった。欲しがりの自分は何を得ても渇きが潤いを憶えることを拒否していた。


 すまし顔で問題視されない子、それが僕だった。


 確かに担任の興味を引きたい気持ちもあった、それはとっくに藻屑と化して意味を成さなかったが。確かに“真面目ちゃん”その汚名でもないそれが疎ましく、課題をサボってみた。一回きりの心算が元々の惰性と雑ざって成績を思わしくない方向へと引っ張って行った。しかし、自分の足を引っ張っていったのは紛れも無く自分自身だ。

二重人格とか、邪心とか曖昧に暈す気は無い。唯一無二僕そのものだった。


 よく“口から先に生じたのだ”なんて揶揄からかいがある。


 僕の場合で真に受けると『なみだから先に生じた』のではないのか、本気でそう思う。奇しくも泣いてしまうのだ、一時期親の為にと封をしていた涙だが。ふとした拍子に毀れてしまう。当時、母の心労を労わる気持ち程度は備えていたわけだ。


 感情移入なんぞ、絶対。絶対に好都合なわけは有るまい。邪魔だ、邪魔なだけだ。


 敵に対して同情するのか?容赦しない瞬間に慮ることが有るか?害意を持つ相手にまで心配だの、配慮だの。美点でなく、汚点だ、欠陥だ。実際、そこまでで無くとも僕は甘い。精神構造は馬鹿に単純で脆いくせに、ひたすら我慢と忍耐しか選ばなかった。間抜けだ、阿呆だ、とんだ大馬鹿者だ。最後挫折を択一したとき不満値が爆発してしまったのだが。


 母に『理解して欲しい』と言われた。何故か此れが限界リミッターだった。


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