アルセルドの日記。記録
あれ以来、沈みがちな先生(通称)が私たちの部署で一服するように為りました。そんなに先輩に叱られたのが堪えたのでしょうか?義務を争奪された私が現在御相伴の役目を頂いているのですが。如何にも悲嘆に暮れる相手を励ますのは向かないようです。ずずっと、先生が苦い抹茶を啜る音と静かに借りた猫をかぶって対する私。
手持ちの陶器の中身がもう少しで空々に、項垂れる心境を億尾にも出さない私でしたが。さすがにもう限界です「先輩」小声の救難信号に快く持ち場を変わってくれました。普段はあれだけ憎たらしい書類が、今は何故か後光差す貴い何かに見えます。錯覚でした、
「実は、君の友人と話す機会があって、ね」ぎこちなく細々と語り出した先生に先輩は頬を染めるでもなく唯、耳を傾けていました。さすが大人です、私情の話が出ても一切反応しません。いや。それどころか寧ろ恋人の話にしては冷淡過ぎませんか?
ダンッと重厚な音が目の前に響きました。片手で持ち切れなさそうな書類を勤続歴28年の中堅、機械人形が私の机に振り下ろしたのです。一瞬、皆、ビクッとしました。けれど、雑音を走らせたのが彼女だと知ると何事も無かったかのように作業を再開します。「若手は活力が有り余ってそう、ね」
暗によそ見して滞っていたのを注意+追加業務でしょうか。自業自得なので文句は言えません。潔く謝罪して、作業を開始しました。
酷く気に掛かるのだろう新人に溜息を吐きつつ鱒は自席に戻った。
パーテーションで改めて区切った空間。簡易応接間で先生と私がコーヒーを啜る、後輩はこの香りが大の苦手らしく年配のこの人は遠慮していたのだ。換気扇を廻せばと思ったが、それでも無理ですと言い切る必死さに笑えた。「それで彼と談笑したのですよね、一体何を。と御聞きしても構いませんか?」あまり減っていないコーヒーは未だ湯気を立ち昇らせている。
彼女に尋ねられてやっと自分が何を言い出したのか、理解したような心地がした。
冷や汗が首を伝う。
如何しよう、年甲斐も無く焦った。全く、考えていなかったのだ…。




