第二話 “レッツゴー・スクール”
さて、今日から俺の、エンド・ザ・スクールライフの幕開けだ。俺は文高の真新しい制服を身に着け、家から一歩踏み出す。
近所の皆さまはそんな俺を見てひそひそ話を始めた。泣きたい、軽く十回ほど泣きたい。
文学高等学校は、頭の悪い生徒らを、よき生徒に変換させるために作られた制度に則り、建てられた高校だ。
頭を良くし、良き社会人への変換。骨が折れる仕事だなぁ。
「お~い、明人!」
すると、横から声をかけられた。
まだ距離が有ったので、俺は目を凝らして、それを凝視する。
「げ」
自然と、反射的にそんな声が漏れた。
そう、奴は俺の幼馴染で、俺とほぼ同じ頭脳で、これから同じ学校で過ごす仲間で、最強の女たらしの“深山冬香”なのだ。もちろん女性だ。
彼女はよく女の子を自宅に連れ込みまくっている。彼女は一人暮らしで、俺の家の隣だ。そして彼女の部屋は俺の部屋のちょうど隣。俺の部屋から、冬香がカーテンが閉めて無かったら、冬香の部屋は丸見えだ。しかも冬香は部屋のカーテンは閉めない。しかも何と耳を澄ませば声も聞こえてくるのだ。
そういえば、冬香は俺の家と同じ敷地で一人暮らしだったな、凄いもんだ。
「もう、つれない奴だなァ」
俺は頬を冬香に指で触られながら、冬香の通ってきた通路を見る。
やっぱり居た、女の子が。……しかも超絶な美女じゃねえか!?
「ちょっ、お前何あんな可愛い子連れ込んでんだよ!?」
「いやいや~、あの先輩が私の家に来たいって言ったの~」
「しかも先輩って!?」
「うん、大文学園の娘。一つ年上」
「お前何超天才高校の美人先輩と一つ屋根の下で過ごしてんだよ!? 羨ましいな、ちくしょう!!」
大文学園とは、俺達の通う文高とは真逆の超エリート天才高校の事だ。毎年、偉い会社に卒業生を社員にさせているそうだ。最強の実力……。すげぇ。
姉もその学校に通っており、大文の事はよく知ってる。まさか、こいつ、そんな女の子を家に連れ込ませるなんて……。
何てフラグの神なんだ!? 羨ましすぎるっ。俺なんて年上はおろか、女の子(冬香以外)を家に上げたことすらないんだぞっ。くそっ、なんて理不尽な世の中なんだ!!
「男の俺よりモテるなんて……、お前何もんだ?」
「私は貴方の知っているように冬香ですけど? ま、モテないのはアンタが悪いの」
「……そういう自分だって男と付き合ったことないくせに」
俺は事実を冬香に聞こえないように、ぼそりと呟く。
「な!? アッアンタね!! それを言うなバカっ!!」
してやったり。
俺は満足げに、そして少しの同情をこめ、冬香の肩に手を置き、もう片方の手で、ナイス、とジェスチャーする。
そして冬香の怒りの平手打ちが俺の頬に飛んできた。
桜舞い散る春の日に、大きな痛そうな音が響いた。そしてもう一つ、俺の痛みに悶絶する声。
・・
「終わった~、終わった~、俺の人生終わった~。ついでに冬香の人生も終わった~」
俺は頬を赤く腫らせながら、奇妙な歌を歌いながら、冬香と共に登校していた。あの美女は、途中に分かれ道で別れた。あぁ可愛い娘だったなぁ。
放課後冬香にあの娘のこと教えてもらおう。
「ちょっと、奇妙な歌を歌わないでよ。しかも何で私の人生が終わるのがアンタのついでなのよ?」
「お前は俺の付録だ」
「何? アンタ自虐的趣味に目覚めたの?」
冬香は拳を震わせながら、俺を睨みつつそう言う。
こんなこと言うのもなんだが、本気で命に危険が感じる。あやそう、何とか。
「じょ、冗談ですよ~」
俺は引き攣った顔をしている冬香を恐怖に引き攣った顔で、何とか落ち着かせた。
しかし、学校に到着するまで、冬香はずっと俺を睨んでいた。
そんな事はさておき、此処が俺達が今日から通う、文学高等学校だ。
真新しい素材に、綺麗な花壇、汚れのない校舎、広い敷地……。
何て大文学園みたいだったらいいなぁ。
俺の夢とは引き離された、薄汚い校舎、枯れに枯れた茶色の花。これが文高の真の姿だ。しかも落書きが所々に書かれている。うわぁ汚い。
隣の冬香を見ると、彼女もこの校舎の汚さに改めて引いたようだ。
「汚すぎでしょコレ……」
冬香は何故か、俺に向けるような軽蔑な目で校舎をじっくり見ていた。え、俺校舎と同じ扱いなの? 冬香にとって。
「ま、俺達の学力じゃこんなもんさ」
「知ったような口きくな!」
俺はのんびりと、文高の敷地へと足を踏み入れた。
「あ、待ってよ!」
冬香はそんな俺に律儀について来た。
狭い敷地には草が生え放題。校舎の壁には落書きし放題、そこら辺に部活で使用したのだろう、バット、ボール、グローブその他が転がっている。俺が言うのもなんだがこの学校、本当にどうかしてるだろう。先生も掃除とかさせろよ……。
俺はため息をつき。足を速めた。こんな運動場見ていたくなかったのだ。
「ちょっと!」
本当に冬香は俺に律儀について来るな。
ま、こいつはこいつで優しいからな。
俺はそんな事を考えながら、学校の下駄箱へと向かった。欠伸を何回かしながら。




