第一話 “スタート・スクール”
終わった、俺の人生九割方死んだ。
あぁもう立ち上がれない。泣きたい。
「今日から学校か……」
俺こと“大野明人”は、憂鬱感に存分に浸りたくもないのに、存分に浸ってしまっていた。
そう、何故なら俺はあんな底辺高校“文学高等学校”に落ちてしまっていたからだ。
略称、文高は、学校を体調不良、家庭内の事情etc.で休むこと以外で、一回も休まなかった、『馬鹿』の通う、いいや無理やり通わせる学校である。
そして酷な事に、高校を卒業しても、この学校成立後、誰一人として真面な職業、大学に行けなかったらしい。
そんな学校に俺は落ちてしまった。
この学校に通うと、周囲からは白い目で見られるし、時々心の寛大な人なんて、優しく声をかけてくるんだぞ!? 泣きたい、大いに泣きたいね!!
と、まぁそんなこと思ってる暇があるなら下に行って、ご両親に毎日恒例の土下座をして、朝食を食べさせていただき、成績優秀の姉上を起こさせていただいて、制服に着替えて学校へ向かう準備をして……無性に泣きたいのは何でだろうか。
「あぁ、俺はどうしてこんなにも馬鹿なのだろうか……。神様、理不尽です」
俺の祈りは届くはずもなく、ため息をつき、俺はベットから降りる。さて、今回はなんて言おう。
何を言うかというと、両親に言う謝罪の言葉だ。
別名、命乞い。
これをしないと俺死んじゃう可能性があるもん。誰だって死にたくないさ、そりゃあ。
まぁ社会的にもう俺は生きていないも同然なんだけどね。
この学校は何故、サボったことのない馬鹿のみが通わされるのかというと、サボりばっかりの人も入れたら、出席する人少なくてこの学校潰れちゃうもん。
こんなことならワザとサボっておくべきだった。
今頃俺は昔(数年前)の自分の行いに苛立つ。
さて、俺の成績を発表したいと思う。
教えるのは、数学、国語、英語、理科、保健体育。
まず数学、最後のテストの時の点数が「三十二点」、国語が「二十六点」、英語が「十一点」、理科が「三十九点」、保健体育が「四十一点」。
俺は保健体育が得意なのだ。しかもこれ、中学時代どれも最高得点! 俺はそう大喜びで両親にそう告げたら、母はジト目で俺を見て、父はもはや無視。でも姉は優しかった、なんと慰めてくれたのだ! そう、姉は昔から俺に優しくしてくれた、とても優しかったのだ。しかし姉との学力の差は……フフフ、フフフフフ……泣きたい。
さて、そんな事ではないがそんな事はさておき、覚悟を決めて俺は階段を素早く降りる。
そしてリビングの扉を恐る恐る開ける。
そこには、寝間着姿で料理を作る母、こちらも同じく寝間着姿で新聞を読む父が、悲しいことに居た。
俺はそこで座り込み、ゆっくりと頭を下げていく。
「馬鹿な息子でスミマセンッした!!」
そう大声で叫ぶ。
この行為に、母は好ましく思っていないらしい、いつもいつも哀愁に帯びた瞳で俺をしっかり見ている。
しかしそれに対し、父は俺を全く見ていない。せめて見てくれ、俺の悲しい姿を……。
俺は何事もなかったかのように、立ち上がり、先ほど通ってきた道を戻る。今から姉を起こさなければならないのだ。
この仕事は、両親に命じられたのではなく、姉に命じられたのだ。姉は一度眠ると、有り得ないほどに熟睡する。もうホント。
俺は音を立てずに、姉の部屋へと侵入する。姉は案の定ベットの上で超熟睡。
うん、涎垂らしてやがる。
俺はベットの左側にある、小さな机の上に置いてある姉のティッシュを数枚取り出す。そして、姉の唇へと近づけ、拭いてやる。
「んん~」
俺の姉の名前は“大野真美”で、成績優秀、スポーツ万能、家庭的で、愛想よく、皆に平等で、何より家族の俺でさえ見惚れてしまうほどの美人だ。
本当に俺とは、真逆だなぁ、と俺は改めて思い知らされる。
姉弟でここまで出来が違うと、もちろんの事周囲の目は俺を見下すかのようだった。
ま、別に良いのだが。
「おい、起きろ朝だぞ」
俺は、姉さんの頬をペチペチ叩きながらそう言う。
「うぅん……、おはようのチュ~」
……またかよ、何で俺が起こしに来る時にいっつもそんな馬鹿らしいことを言うんだよ。うん? この姉は成績が良くても精神年齢は俺よりも年下なのか? 馬鹿か、幼児か。
「うん、じゃあバイバイ」
「分かった、起きる起きます!! だから行かないで!!」
うん、やっぱりこの方法が一番いいや、俺の為にもなるし、姉さんの為にもなる。一鳥二鳥。
あれ、何て言うんだっけ、一つの事をして同時に二つの利益をあげること。
う~んまぁいいか。
俺は自分の記憶を掘り返すのが面倒になり、姉を見る。
「早く着替えろよ」
そしてそう言って俺は退室しようとする、が、突如俺の腕が姉さんに掴まれた。
俺はそのまま姉さんに引っ張られ、ベットへと倒れる、も頭が着陸したところは妙に柔らかかった。
そして俺の頭上には、姉の悪戯っぽい笑顔。あぁ、この柔らかいものは姉の太ももか、いわゆる膝枕……。
「何やってんだよアンタ!?」
即座に、姉の太ももから頭をどけて、姉の面と向かってそう指摘する。
「膝枕?」
「イヤ、分かってんだよ! だから何で弟にンな事してんの!? しかも何故に疑問形!?」
「もぅ、そんなこと気にしないの! ねぇね気にしてないよっ」
「気にするよ!! それに何でねぇねなんだよ!?」
俺は言い終え、肩で息を整える。
姉は一度きょとんとし、
「昔はよくわたしのこと『ねぇね』って呼んでたよ? あぁ、あのころは可愛かったな~」
姉は恍惚とした表情で、語り始める。
フ、こうなった姉をもう誰も止められやしないのさ。
俺の幼稚園時代の云々。
小学校の時の喧嘩云々、恥ずかし屋さん時代云々。
中学の時の思春期云々。
特に可愛かったのが中学時代と、幼稚園時代だったらしい。つーかよくそんなころの事覚えてますね。さすが成績優秀の姉さん。尊敬尊敬。
「あ、もちろん今もすっごい可愛いよ」
「今可愛かったら怖いわ!」
俺は大きなため息をついて、自室へと着替えに行く。
すると、部屋の右側、姉の部屋の方から何かが外される音がした。俺は怪訝に思いそちらを見る。
「……」
思考停止。
あれ、俺の目はおかしくなったのかな、なんだか幻覚が見えるぞ、姉が俺の部屋の壁に小さな穴を開けてこっちをじーっと見てるぞぉ。
漫画見たく俺は目を擦る。
再度大きなため息。現実だ。
俺は自分の今着ている上着を脱ぎ、その穴へと近づく、そしてその穴に自分の服を突っ込む。
すると壁越しに、『あれ、急に見えなくなったぞ? あ! 明ちゃんの匂いがする』と幻聴がした気がした。うん幻聴だ。
『うわ~! いい匂い!!』
「ぶふぅ!?」
俺は吹き出し、自分の上着を引き抜こうとする、しかし中々引き抜けない。
え、どうしたのだろうか?
だが俺の疑問は、壁越しに聞こえる姉の声で消し飛んだ。
『このっ、絶対にこの服はあげないんだからなっ!』
手の力が抜け、俺の上着は隣室へと消え去って行った。
「……」
今日一日の始まりは、上着一つ無くなって始まった。




