新しい朝
2158年1月24日、火曜日。 午前9時47分。柔らかな光が清潔な白い室内を温かく照らす。
よし…………。
027は長い髪を軽く手で整え、来訪者の到着を待った。彼女は紺色のパジャマに茶色のカーディガンを羽織っている。
2回のノック。
「どうぞお入りください」
彼女の呼び掛けに答え、ドアが横へと開く。
「失礼しまーす」
満面の笑みでやって来たのは067であった。
「会いたかったよー。027ー。今日もホント、綺麗だね」
「フッ。ありがとう。067。そうやっていつも褒めてくれるのはあなただけ」
2人は優しく、互いの体温を交わらせる。彼女の匂い。手触り。包み込まれる感触が男の煩悩を容赦なく刺激してくる。
「褒めてるつもりはないんだけどね。俺はありのままの本心を伝えているだけなんだけど」
おかしいなぁと、067は彼女の艶やかな髪を愛おしげに撫で、その身をそっと抱き寄せた。
「それでもありがとう……。————愛してる」
彼女は男の胸にその身を委ね、体を深く密着させる。
あー…………。幸せだ―…………。
パジャマ越しの乳房という禁断の果実を前に067は多幸感に包み込まれた。
「やっぱり027にはパジャマが良く似合う……」
「なにそれ。でも、ホントにこの格好好きだよね?」
彼女は理解できないと言いつつも笑みを浮かべる。
「サイコーにエッチだったからね。あの時の恰好がさ」
「あんな状況で、私のことそんな目で見てたの!? サイテー」
口ではそう言いつつも彼女は離れようとはしない。
「ごめん、ごめん。全部俺のせい……。俺のせいさ……」
そう言いながらも右手は彼女の腰から臀部へと伸びていく。その小さく丸みを帯びた桃尻を優しく撫で回すのであった。
「さ、お客様。どうします? このまま抱き合って今日はおしまいにします?」
027の問いに067は即座に拒絶する。
「ちょっと待った、ちょっと待った。時間はまだまだたっぷりあるでしょ? いつも通りこのまま乳首も撫でさせてよ。ゆっくりと楽しもうよ。あ、あとお客様っていうのもなしで。俺はイチャラブものが好きなんだからさー」
ブーと文句を垂れる067に彼女はクスクスと笑い、すぐさま謝罪した。
「ごめんね。067。大好きだよ?」
「俺もだよ。027……。愛してる」
2人は視線を絡ませ、そして静かに唇を重ねる。白の世界は徐々に淫靡な香りを放ち始めた。
彼らが生まれたままの姿で互いの恥部を曝け出し、交じり合っている間、004は同じく白を基調とした部屋でさまざまな人と顔を会わせ、彼らの話に黙って耳を傾けている。彼はバクハンターという仕事を辞めて、クリーナーの仕事の一部でもあるバグになる前の人々のカウンセリングの仕事を従事していた。あの日、全てが壊れ、生きる意味すらも奪われてしまった彼は067に結果的に救われたのだった。
「さ、行こう027……」
「いや!! 行かない!! 004と一緒にいたいの!!」
彼女は叫ぶ。自身の思いを世界に訴える為に声を上げる。
「アマテラス」
「なんでしょう」
無機質な声が響き渡る。
「どうする? もう2人ともバクハンターは続けられないだろう。今回の件、どうカタを付ける?」
「そうですね。004は廃棄。027の処遇はあなたに一任します」
「だとさ」
「嫌!! 彼を殺さないで!! 彼がいないと私、生きていけない!! お願いします。なんでもしますから!! お願いします!!」
放心状態の004を必死に抱きかかえながら、027は目の前の処刑人に縋りつく。アマテラスの飼い犬であり、この世界の王に。
「なんでもするって言ったな?」
「はい」
「それはこいつの目の前で俺に抱かれろって言われたら、それを実行しなくちゃあいけないってことだぞ。本当にできるのか?」
067はしゃがみ、視線を合わせ、問い掛ける。彼女の覚悟を見定めるために。
「はい。もちろんです。それがあなたの願いならば…………」
彼女の瞳には強い意思が宿っていた。だが、それは067の美学に反する。
「はぁ……。分かったよ……。俺が2人とも面倒を見るよ」
「あ、ありが」
「ただし!!」
067は優しく彼女の両頬を押し、唇を縦に引き延ばす。
「もう2度と、どんな理由があろうとなんでもするなんて言うのは禁止な? 俺は女の子が可哀そうな目に合うヤツは嫌いなんだ。約束だよ」
「は、はい……。解りました……」
「敬語。敬語はなしね」
「はい……。あ、うん。解った……」
「よしッ!! んじゃ、アマテラス!!」
「処遇は決まりましたか」
機械は問う。
「ああ、決まったよ。2人とも、俺が助ける。抜けた穴はーそうだな。俺一人じゃあ、無理がある。028」
「は、は、はい!!」
予期せぬ問い掛けに声が上ずってしまった。
「バクハンターになりたかったんだって? どうする? やる?」
彼女は迷わずその問いに答える。
「私は今の仕事で満足しています!! 時折仕事を手伝うのは構いませんが……今まで通りの生活を続けたいです…………」
「だとさ。俺一人で2つの町を見るのは無理だよ。アマテラス。待機状態の誰か、連れて来れない?」
「そうですね。では、2名のPシリーズの凍結を解除。現時刻からセクター23へ配属させます」
「そりゃ助かる。で、この場合、この2人はどうすりゃあいいの?」
「それはあなたが決めることです。067。004と027はあなたが助けると言いました。その時点で私の関与する問題ではありません」
「いや、それは解ってるけど……。医学的な知恵を貸して欲しいっていみだったんだけどさぁ……。まあいいや。今日俺、ここに泊ってっていいの?」
「駄目です。あなたは今すぐにでもセクター22に戻って頂かなくてはなりません」
「えーマジかー……。どうすっかなぁ……。027。027はこの家が好き?」
「うん」
「このままここに住みたい?」
「うん!!」
「004がこんな状態でも?」
「うん!!」
「解った……」
彼女の頷きを受け、067は立ち上がる。
「よし!! とりあえず今後の話し合いは後日!! ということで。004を入院させるかどうかも含めて明日にでも話し合おう。それでいいかな?」
「うん。それでいい……」
虚ろな目をした004を彼女は力強く抱きしめる。
「そんじゃ、今日は解散!! なんか俺もこの後仕事があるっぽいんで、一旦帰らせてもらいます!! なんかあったらすぐ呼んでね。1人で抱え込んじゃ駄目だよ」
「うん……。ありがと。067……」
彼女の頬に涙が伝う。
「気にすんなよ。今まで横の繋がりなんてほとんどなかったけど、同じ日に生まれて、同じ釜の飯を食った仲だろ? もっと助け合っていこうよ」
「うん……。うん……」
彼女は頷くことしかできなかった。
「私も027を支えるよ。004は私にとって家族みたいなものだから……」
「そうして貰えると助かる」
優しい目を028へ向けてから067は004の方へ目を向ける。
「おい、004!! 聞いてたか!! そう言うことだからな!! また来るぞ!!」
返事はなかった。先程からピクリとも動かない。まるで人形のようだ。
これからどうなることやら…………。
しかし、考えていても仕方がないと067は素早く切り替え全員に指示を出す。
「それじゃ、解散!!」
パンと両手を打ち、067は急いでセクター22へと戻るのであった。
こうして004は入院し、027は毎日通い続ける。それを028、067が支え続けた。チップを入れてしまえば話は早いのだろうが、それはアマテラスが許可をしない。これこそが望んでいた不測の事態だからである。だが、何かが上手く噛み合い、004は劇的に回復。そして2人は白崎愛への贖罪として、彼女の欠けた穴を埋めるべく、027は風俗嬢として働く道を選ぶのであった。067も同意する。
セクター23は、今日も平和だ。
完結までお付き合い頂き、誠にありがとうございます。
ページ下部の評価一つが、『2157』の次の弾丸になります。
皆様の反応次第では、また別のPシリーズの話が動き出すかもしれません。
何卒よろしくお願い致します。




