第092話 ジャーナリスト
「さっきの何?」
帰り道でアンジェラが聞いてくる。
「ヴィオラに彼氏の有無を聞いたやつか?」
「それ」
アンちゃんがジト目だ。
多分、このままではお菓子を作ってくれない。
「いや、ちょっとな……うーん、何て言えばいいのか」
他人の恋愛事情を言っていいもんだろうか?
「言って」
まあ、まだ恋愛と決まったわけではないか。
ローレンスもぞっこんっていうわけじゃないだろう。
「ローレンスがちょっとヴィオラを気にかけているっぽいんだよ」
「ほー。ローレンスさんがかー」
アンちゃんの機嫌が良くなった。
こういう話題が好きだねー……
「いや、ちょっとだぞ。俺とアーヴィンが飲みの場でさっさと結婚しろ的な話をした時に名前を出したらまんざらでもなかっただけだ」
「それは十分、気があるんじゃない?」
まあ……
「可愛いなーとか、スタイルが良いなー程度かもしれないだろ」
「最初はそれがすべてでしょ」
うん、まあね……
「余計なことはするなよ。ローレンスはちょっと繊細なんだ」
「ふーん……ノロノロしていると他所に取られると思うけどね。ヴィオラはモテるもん」
可愛らしいし、社交的だからな。
俺もそう思う。
「今度、ローレンスに会ったらもうちょっと聞いてみるかな……アンちゃん、アドバイスない?」
「先手必勝、速攻、早い者勝ち、迷わずゴー。私もメアリーも恋愛ものの本が好きでよく読んでいるけど、リアルであんなノロノロやってたらすぐに別の子に取られるからね。これは男女一緒」
うーん、何故か説得力がある。
さすがは皆が相談しに来るアンジェラちゃんだ。
「今度会ったら話しておくわ」
俺達は話をしながら歩いていき、店まで戻ると、店の前に1人の女性が立っていた。
「お客さんかな?」
女性は店の入口にかけられた【外出中】の看板を見ている。
「多分、そうだろう」
「すみません。今、開けるんでー……ん?」
アンジェラが声をかけると女性が振り向いた。
その女性をどこかで見たことがあるような気がする。
「あ、ご無沙汰してます」
あー……いつぞやにウチに聞き込みに来た王都の新聞記者のスージーだ。
「久しぶりだな。また来たのか?」
「ええ。取材です。ちょっと良いですか?」
まあ、いいか。
この子には恩があるし。
「ああ。中に入ってくれ」
俺達はスージーを連れて、店の中に入った。
「相変わらず、良いお店ですね」
スージーが店内を見渡す。
「どうも。それと水筒の件にも感謝だ。お兄さんに土産で買っていったやつが口コミで広がってな。おかげでスピアリング商会と取引ができた」
あのたった1本の水筒が3000万ミルドに繋がった。
「それはエリックさんの作った水筒が良かったからですよ。あ、取材もなんですけど、それを買いに来ました。王都に売っている水筒は高いんですよ」
「ウチは変わらず、5000ミルドだな」
値段を変える必要もない。
「王都は3万ミルドです。しかも、良くないことに偽物が出回り始めましたよ」
「そうなのか?」
「ええ。王都では保温水筒って呼ばれているんですけど、保温水筒という名の普通の水筒が出回り始めています。そのおかげでスピアリング商会の水筒なら間違いないって風潮になってますよ。私のジャーナリストの勘ではスピアリング商会の戦略のような気がしてますけどね」
うーん……それっぽいなぁ……
なんかランドルさんがイメージを植え付けたとかなんとか言ってたし。
「大手さんはすごいな。まあ、頑張ってほしい。あ、水筒を買うのか? いくつだ?」
「3つお願いします。自分の分と両親ですね」
「色は?」
「赤2つと青1つですね」
スージーがそう言うと、アンジェラが水筒を3つ持ってくる。
「1万5000ミルドね」
「ありがとうございます。いやー、仕事のついでに買えてラッキーですよ。王都では3つ買うと、9万ミルドですよ? 買えないっての」
高いよなー……
「まとめ買いの業者とか来ないかしら?」
アンジェラがスージーに聞く。
「いやー、微妙でしょうね。スピアリング商会が手を付けているわけですし、そもそも地方の個人店で量産は無理でしょ」
「無理ね」
うん。無理。
だから売ったんだ。
「ですよねー」
スージーが1万5000ミルドをカウンターに置く。
「どうも。それで取材ってのは?」
「あー、仕事をしないといけませんね。まあ、例の火事です。たいしたことないと思って、あれからすぐに帰っちゃったんですけど、結構な大事になったんですって?」
やっぱりそれか。
「ああ。ウチの娘とこのアンジェラは冒険者だから話を聞いている。オークの巣が焼けたせいでスタンピードの一歩手前だったらしい」
「怖いですねー。無事に食い止められたと聞きましたけど、実際はどんな感じだったんですか?」
「軍と冒険者が森に行き、オークや魔物を退治したな。犠牲者も出てないし、上手くいったっぽいぞ。町の人も不安がってたが、もう落ち着いている」
闇の三人衆のおかげ。
「エリックさんも不安でした?」
「俺はどちらかというと、メアリーやアンジェラが心配だったな」
「あー、それは確かにそうですね。奥さん、実際に戦ってどうでした?」
スージーがアンジェラに聞く。
「魔物自体はたいしたことなかったんだけど、さすがの数だったわね。倒しても倒しても森の奥から出てくるのよ。私は魔法使いだから後ろにいたけど、すごかったわね」
「ほうほう。それでも戦ったんですね。逃げようとは?」
「どこに逃げるのよ。私の家族も家もここにあるのよ? 戦うしかないわ」
かっこいい。
「さすがですねー。勇敢です。あれ? 娘さんは? お出かけですか?」
「あいつは冒険者の仕事だ。あいつにも話を聞くのか?」
「一番若かったらしいですし、目立って活躍してたとギルドに聞きましたので本人に詳細を聞きたいと思ったんですよ」
「そのうち帰ってくるんじゃないか? いつも16時から17時くらいには帰ってくる」
もう16時前だ。
「なるほど。でしたらもう少しお話を聞かせてもらっていいですかね?」
「どうぞ。今のおすすめはこのお風呂に浮かべるアヒルの親子だ」
メアリーが作った黄色のアヒル親子セットを取り出す。
「わあ、可愛い。でも、ウチには子供がいないのでいいです」
やっぱり子供用か。
「他に何を聞きたいんだ?」
「その火事による魔物事件の他にもちょっと前に領主の息子さんが襲われる事件があったらしいですね?」
それもか。
「らしいな。一時期、そういう噂が出回った」
「火事による魔物事件、さらには襲撃事件を救ったのは謎の仮面男という噂を聞きました」
あー……
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