第115話 契約
俺達は立ち上がると、そそくさと応接室を出た。
そして、顔を近づけ、内緒話をする。
「え? ちょーヤバくない? 激ヤバっしょ。私、500万が上限だと思ってた」
「俺も、俺も。どうする?」
「どうするって? 受ける一択じゃない?」
いや、受けるは受ける。
「交渉とか?」
「あーね。でも、エリック、そんなことができるの? 私、金額が大きすぎてよくわかんないんだけど?」
俺もわからん。
相場もわからんし、なんでそんなに評価してくれているのかもわからない。
「マージンを取るのは?」
「マージン?」
「売り上げの何パーセントとか……」
「いける? スピアリング商会がいくら儲けたのかとわかんないし、簡単に誤魔化されそうじゃない?」
調べようがないもんな。
水筒にしても売り上げがいくらだったか知らないし。
「多分、俺達が思っている以上にランドルさんにメリットがあるんだろうな」
「だと思うよ。じゃなきゃ、大手の商会長さんが地方の一商店を相手にしないでしょ。ましてや、かなりの好待遇」
いや、ホントに。
宿屋もそうだが、VIP待遇だ。
「欲はかかない方が良いか?」
「普通に勝てないと思う。ウチら、商人というより技術屋じゃん。無理無理、かたつむり」
うーん、かたつむりは置いておいて、確かに欲張るところではないか。
将来の貯蓄ができるし、2号店を建てられる予算もできるかもしれない。
「よし、契約するか。ウチにデメリットはない。この考えでいこう」
「うん」
相談を終えた俺達は部屋に戻った。
「いやー、悪いな」
「いえいえ。構いませんよ」
俺とアンジェラはソファーに腰かける。
「それでランドルさん、アンジェラとも相談したんだが、せっかくの申し出だし、受けようと思うんだ」
「おー! そうですか! それはありがたいです! それに助かります!」
ランドルさんがオーバーなリアクションで喜んだ。
「それで本当にコンロとアヒルさんを買うのか?」
「ええ。コンロの需要も確認しましたし、アヒルに関してはすぐにでも売り出したいです」
そういや、コンロの需要を調べるって言ってたな。
売れそうだったってことだな。
「じゃあまあ、どうぞ」
設計図を取り出し、テーブルに置く。
ランドルさんと話すということだったので一応、すべての商品の設計図は持ってきているのだ。
まあ、アヒルに関してはたいした設計図じゃないけど。
「ありがとうございます。すみませんが、額が額なので支払いは後程でも構いませんか? 今日中には用意して【蒼瑠璃の宿】の方までお持ちします」
「それは構わない。別に急いでもないしな」
今、1800万ミルドをもらってもね……
「それでは契約書の方と共にお持ちします。それでエリックさん、早速ですが、今後、作ろうと思っている商品等がございましたら聞いておきたいです。せっかく来ていただいているわけですしね」
それもそうだ。
「あ、そうだ。ウチの娘が売り込んでくれと言っていた商品があったわ」
「ほう? それは?」
空間魔法からクッションを取り出す。
「お尻守るくん。馬車の振動が辛いってことでメアリーが作ったクッションだ。結構、すごかったぞ。馬車に慣れてないウチの子達でも平気だったし、俺もそれで寝たが、かなり良かった」
「ほー……独特な感触ですな」
ランドルさんがクッションを触ったり、曲げたりする。
「スライムゼリーが入っているから衝撃を吸収するんだ。普段使いもできるし、痔にも良いんじゃないか?」
俺は痔になったことがないので知らんが。
「どれどれ」
ランドルさんがお尻守るくんをソファーに敷き、感触を確かめる。
「なるほど。悪くないですな。馬車は確かに辛いものがありますし、良い商品だと思います。ただ、売り出し方がどうでしょう? おっしゃるように普段使いできるし、ベッドにも良いかもしれない。馬車だけでなく、そっち方面で売り出した方が需要は大きいです」
ベッドは良いかもな。
帰ったら作ってみようかな?
「どうする?」
「すみません。良い商品なのは間違いないのですが、売り出し方を考えないといけない商品です。買取はすると思いますが、少し考えさせてください」
すぐに結論は出ないわけか。
「わかった。それまではウチでも売らないようにしよう」
まあ、この商品こそ、ウチで売っても売れないわ。
馬車を使う人なんて限られているし。
「助かります。他にはありますか?」
「これから夏に向けて、涼しいをテーマに考えてはいる。ただ、具体的な案はまだだな」
クーラーでも作りたいなって思っている。
ただ、これがちょっと難しい。
部屋全体を涼しくするにはかなりの量の魔石がいるのだ。
「なるほど。では、また次の機会にでもお話しさせていただければと思います。このお尻守るくんについてもその時にでも話をしたいですし、近いうちにそちらに伺わせてもらいますよ」
「それは構わないが、いいのか? ランドルさんは忙しいだろう」
手紙でもいいし、こちらから訪ねてもいい。
「忙しいですが、定期的に南部にある町の支店に顔を出す必要があります。その際に寄るのがミルオンの町ですからついでですよ。あそこは肉料理が美味しいですし、ちょっとした休憩です」
忙しいゆえにか。
「わかった。じゃあ、その時までに新商品を詰めておこう」
「ありがとうございます。せっかくですし、王都で材料等を買われては? こちらで負担しますし」
それもそうだな……
「これから町を回ってみるよ」
今日も買い物だ。
「それが良いと思います」
「では、早速だが、行ってくる」
「ええ。こちらも契約料を用意します」
「頼む」
俺達はランドルさんと握手をし、店を出る。
そして、魔石や部品を売っている店を回っていった。
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