第111話 再会2
平和な通りを歩いていくと、ローレンスがとある家の前で立ち止まった。
立派な玄関があるそこそこ大きい平屋の住宅だ。
「ここか?」
「ああ。この時間はいると思う」
ローレンスはそう言って、敷地に入ると、玄関の扉をノックする。
『はーい?』
中から女性の声が聞こえ、その瞬間、ドキッとした。
もちろん、恋の予感ではない。
「おー……背筋が伸びる」
「な? ローレンスです」
ローレンスは苦笑いを浮かべた後、家主に答える。
すると、すぐに扉が開き、長い黒髪の女性が現れた。
かつて、軍服を着て、鋭い目つきで俺達に命令していた黒影団の隊長である。
しかし、その10年前の面影が多少あるものの、柔和な笑みを浮かべていた。
「お久しぶりです、隊長。エリック・ローウェルです」
「お久しぶりですね……元気にしていましたか?」
隊長が優しい声色で聞いてくる。
「ええ。もう会えないかと思っていました」
「私もですね。まあ、中に入りなさい」
隊長がそう言って、家に招いてくれたので中に入ると、部屋はリビングになっており、まだ5、6歳くらいの女の子がテーブルでお絵かきをしていた。
さらには赤ちゃん用の柵が付いたベッドがあり、そこで赤ん坊が寝ている。
「だーれ?」
少女が手を止め、首を傾げながらこちらを見る。
「ローレンスのおじさんはわかるでしょ。挨拶しなさい」
「おじさん、こんにちは」
隊長に促され、少女が挨拶をした。
「はい、こんにちは」
ローレンスが笑顔で挨拶を返す。
「こっちもお母さんの友達のエリック。それと……その奥さん」
隊長が俺とアンジェラも紹介した。
「エリックだ。こんにちは」
「アンジェラよ」
「シャーロットです。こんにちは」
シャーロットという名前らしい。
しっかりした子だな。
「シャーロット、お母さんはお友達と話があるからあっちで絵を描いてきなさい」
「はーい」
シャーロットはテーブルを片付けると、お絵かきセットを持って、奥の部屋に入っていった。
すると、隊長がどかっとテーブルにつき、先程までの柔和な笑みを消してこっちを見てくる。
「夜に来いよ、バカ共。旦那がいない時に人妻の家に来んな。近所に噂されたらどうするんだ?」
あ、隊長だ。
「すみません。ローレンスがいつでもいいだろって言うもんで」
「お前、ずるいぞ」
「ふん。お前らに言っても無駄か……で? そいつは誰だ? 自己紹介を受けてないから適当に答えたぞ」
隊長がアンジェラを見る。
「あ、妻……妻? 一応、妻のアンジェラです」
「は? 何だ、その失礼極まりない紹介は? そいつに悪いと思わないのか?」
すごく思っている。
「すみません。自分の中では妻なのですが、正式にはまだ教会で祝福をもらっていないんです。ミルオンの町に帰ったらもらう予定です」
「あー、はいはい。そういうことね」
隊長は納得し、立ち上がると、アンジェラのもとに行き、じーっと見る。
「エリック、どこまでしゃべった?」
この質問はどこまでしゃべっていいのかわからないからだろう。
「ほぼ全部です」
「そうか……元上官としてはしゃべるなって言いたいが、私も旦那には全部話している。今後、そういうパートナーを見つけるかもしれないローレンスは覚えておけ。隠し事をするとロクなことにならんぞ」
そうそう。
俺もアーヴィンも悪くないぞ。
「肝に銘じておきます」
ローレンスが一礼した。
「よろしい。アンジェラ、私はこいつらの上官だったメイベル・ヘミンズリーだ。旧姓はシンフィールドだがな」
「アンジェラです。エリックと共にミルオンの町で魔道具屋をやっています。また、Cランク冒険者です」
アンジェラが丁寧な言葉遣いで自己紹介し、頭を下げた。
「魔法使いか……ふむ。歓迎しよう。また、結婚おめでとう。実にめでたいことだ。座ってくれ。お茶を淹れよう」
隊長が勧めてくれたのでテーブルについた。
すると、隊長がお茶を用意しだす。
「隊長、さっきの優しい感じは何ですか?」
「子供の教育のためだ。というか、私は近所にも元軍人であることは隠している。こんな軍人しゃべりだったらすぐにバレてしまうだろ」
あ、そうか。
「俺も隠してますね」
「良いことだ。それこそロクなことがないからな。エリック、元気だったか?」
「ええ。色々ありましたが、アーヴィンを頼ってミルオンの町に行きました。そこで多くの人に支えられ、なんとか生きてこられました」
本当に町の皆には助けられた。
そして、何よりもアンジェラがいてくれた。
「良いことだ。アーヴィンは元気か?」
「元気ですよ。隊長によろしくと言っていました」
「元気ならいい」
隊長は頷くと、お茶をテーブルに置き、席についた。
「ありがとうございます」
「どもっす」
「いただきます」
俺達はお茶を一口飲む。
「ふむ……エリック、嫁さんを大事にしろよ」
「そうしますよ」
「結婚おめでとう。悪いが、一番結婚しないだろうなって思っていたのがお前だった」
ひねくれ者だからかな?
「こいつは?」
ローレンスを指差す。
「そいつはどっかの女にハマってデキ婚をすると思っていた」
しそう……
「ねーっすよ」
あるある。
「隊長もご結婚されたんですね。おめでとうございます」
「やはりエリックは人間が出来てるな。このバカは目を見開いて嘘認定してきた。実に失礼だ」
うん、失礼。
でも、俺はあらかじめ知っていたから驚きがないだけだ。
「俺達は上官のあなたしか知りませんからね……」
「普通に恋愛をして、普通に結婚しただけだ。それで娘と息子ができた」
あの赤ん坊は男の子か。
「軍を辞めたとアーヴィンに聞きましたが、あれから何を?」
「うーん……そこは後で話そう。それよりもお前の話を聞かせてくれ。よくわからんが、大きい娘がいるんだろ? いつ仕込んだんだ? やることやってたんだな、お前」
確かに娘の教育に悪いわ、この人。
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