第110話 再会1
宿屋の中は木材が多く使われており、温かい雰囲のある落ち着いた内装だ。
そして、奥の受付には暇そうにしているおばさんが座っていた。
「いらっしゃい。泊まりかい? 言っておくけど、ウチはそういう宿屋じゃないよ?」
アンジェラを見て勘違いしているな。
まあ、場所が場所だし、アンジェラは身体つきがよくわかる服装でさらには足にスリットが入っているからな。
さっきの悪ガキ共も娼婦とか言ってたし、そう思われても仕方がない。
「すまん。客じゃない。俺はミルオンの町のエリックという者だ。この宿屋にローレンスという冒険者が泊まっていると思うんだが、そいつと会う約束をしているんだよ」
「ローレンスさんねぇ……ちょっと待ってな」
おばさんはそう言って立ち上がると、階段を上っていった。
そして、しばらく待っていると、おばさんと共にローレンスが下りてきた。
「おー、エリック! やっと来たか!」
ローレンスが手を上げる。
「ああ。一昨日、着いたんだ」
「そうか、そうか。アンジェラちゃんも久しぶり」
ローレンスがアンジェラを見る。
「久しぶり。元気そうで何よりね」
「元気、元気。おばちゃん、食堂を借りてもいいか?」
右の方には食堂が見えている。
「いいよ。暇だし、コーヒーでも淹れてあげるよ」
「サンキュー」
俺達は右にある食堂に入ると、他に誰もいなかったので適当なテーブル席に座る。
そして、すぐにおばさんがコーヒーを持ってきてくれた。
「ごゆっくり」
おばさんが去り、コーヒーを一口飲む。
「良い宿屋だな」
「だろ? 値段も安いし、質も悪くないんだ。ギルドに紹介してもらったんだよ」
ふーん……
「そりゃ良かったな。とはいえ、場所が良くないぞ。ここに来る時に悪ガキに絡まれた」
「そんなもん適当にあしらえ、あしらえ」
あしらったな。
「まあいい。お前、王都に着いてから何してたんだ?」
「仕事をしながら王都を回り、色々と情報を集めてたな。10年振りだが、意外にも変わってないもんだ」
確かに街並み自体は変わってないな。
「隊長は?」
「あー、それな……うん」
ローレンスが気まずそうな顔になった。
「歯切れが悪いが、どうした? 王都にいないとか? もしくは、会えなかったか?」
「いや、王都にいるし、会うこともできた」
え? マジ?
隊長が王都にいるのはいいが、ローレンスが会えたのか。
俺とアンジェラの予想が見事に外れた。
「今は何をされているんだ?」
「えーっと、ご結婚され、主婦だそうだ。お子さんもおられる」
あー……結婚してたか。
いや、隊長は綺麗な人だったし、35歳なら結婚していても不思議ではない。
ただ、どうしても上官であり、怖いイメージが大きいからちょっと想像ができない。
「相手は?」
「軍部の人らしい」
へー……同僚だった人かな?
「そりゃちょっと気まずいな」
「どうしてもな……」
アーヴィンもそう思うだろう。
「話はできたか?」
「ああ。最後の暴言を謝った」
「どうだった? 殴られはしなかっただろ?」
軍属も離れているし、そこまではしないだろう。
というか、気にしてなさそう。
「ああ。『いまさら何言ってるんだ?』と『今か? もう10年も経っているぞ』と『お前、今まで何をしていたんだ?』と呆れられた」
そりゃそうだ。
俺もアーヴィンもそう思っているし。
「何にせよ、これですっきりしただろ」
「まあな……あ、それで話をしている時にお前やアーヴィンのことも話した。アーヴィンはともかく、お前が王都に来ることを言ったら会いたいって言ってたぞ」
「そうか? 俺も会えたら会いたいと思っていた」
俺はローレンスと違って、普通の別れだったから別に気まずいと思うこともない。
「じゃあ、行くか? 多分、家にいると思うぜ?」
「いきなり行っていいもんか?」
「暇って言ってたから良いと思う」
うーん……
「どう思う?」
アンジェラに聞いてみる。
「行くだけ行ったら? それで都合が悪かったらまた後日にすればいいんじゃない?」
それもそうか。
「ローレンス、行くか」
「ああ。案内しよう」
俺達はコーヒーを飲み終えると、立ち上がった。
そして、おばさんにコーヒーの礼を言い、宿屋を出ると、通りに出て、中央の方に歩いていく。
「隊長の家はどこなんだ?」
「南の方だな。探すのに苦労したぜ。何しろ、名字が変わっていたからな」
それでも探せたのは元暗部だからだな。
「ノクスの亡霊については?」
「わからん。噂自体はここでも流れているし、やはり黒影団の名前は出てきた。ただ、王都でそういった事件は起きてないし、噂止まりだな」
さすがに王都でそんな事件は起こさないか。
当たり前だが、一番警備が厳重な町だし、あまりにもリスクが大きすぎる。
「これからも調査していくのか?」
「どうかな……ちょっと考え中だ」
王都で隊長に謝り終えたら今後のことを考えると言っていたが、まだ、結論は出てないようだ。
「時間がかかりそうか?」
「うーん……いくら考えても結論が出るかどうか。実は俺、優柔不断なんだ」
知ってる。
「期限を決めたらどうだ? その期限の時に一番良いと思った行動をするんだ。もし、その時に王都に残ろうと思ったら残ればいい。それ以上は考えない」
「それがいいかもな……いつまで経っても決まらない可能性がある」
お前はそういう奴だよ。
だから10年も姿を見せなかったんだ。
「期限を俺が決めてやろう。俺達が王都を出るまでな」
どうするのかを聞いておきたいし。
「それが良さそうだな」
「おすすめはミルオンの町だぞ」
「それも思っている。うーん、ちょっと考えてみるわ。住むところもだが、そもそもとして、俺に何ができるかを考えたいんだ」
ローレンスも32歳だ。
ずっと冒険者というわけにはいかないからな。
ローレンスが悩みだすと、中央の広場に戻ってきた。
そこから南の通りを進んでいくと、さらに左に曲がり、住宅街を歩いていく。
さっきの西区とは違い、普通の町民や子供達が歩いている平和な道だ。
「あの隊長がこんなところに住んでいるんだな。しかも、主婦」
「あのひねくれ者のお前が魔道具屋でお父さんになっている衝撃よりマシだ」
うっさい。
「ローレンス、隊長にメアリーのことは話したか?」
ローレンスはメアリーが帝国のホワイトウェイ家の娘であることを知っている。
「娘がいるとだけ伝えてある。それ以上は何て言ったらいいかわからなかったから伝えてない。『どんな子だ?』と聞かれたから『元気な子』って答えたが……」
出た、元気な子……
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