第101話 深夜
メアリーがテントに入り、しばらくすると、カトリーナとシャーリーが出てきた。
そして、俺の対面に並んで座る。
「寝られたか?」
「すぐに眠れましたけど、何回か起きちゃいました」
「暑いし、狭いですよ……」
それはそうだろうな。
「今日は俺がいるからその配置でいいが、2人だったら正面に向き合って座れよ。お前らは気配察知が得意じゃないだろうし、死角をなくすんだ」
そう言うと、2人がきょろきょろと辺りを見渡す。
「あ、ホントですね。後ろから来られたらわかりません」
「何も考えずに座っちゃった……」
まあ、これは仕方がない。
「俺がいるから問題ない。今度からはそうしろ。ただ、どうだ? 次もやりたいと思うか?」
「まだ1日だけですけど、ちょっと辛いですね」
「眠いし、慣れてないことが多すぎます……それと思った以上に体力を消費しますね」
馬車でずっと座っているだけでも辛いもんだ。
「飯もあれだぞ。言っておくが、干し肉はまだマシな方で例のクッキーは口と喉が拒否するから無理やり水で流し込むもんだ」
正直、俺もあれは苦手。
「どうしよ?」
カトリーナがシャーリーを見る。
「当分は町の近くの仕事でいいでしょ」
それでいい。
「東の森に休憩用の小屋があるだろ。アンジェラに聞いたが、あそこは泊まれるらしいし、ああいうところで練習するのも良いと思うぞ。ちょっとしたキャンプ気分で楽しみながら練習ができる」
小屋なら襲われる心配が大幅に減るし、ベッドもある。
割かし町に近いし、色々持っていっておけば失敗してもどうにかなる。
「あ、それ良いですね」
「確かに楽しそう」
2人が笑顔になる。
「3人で相談するといい。お前ら、メアリーのことをどう思う?」
そう聞くと、2人が顔を見合わせる。
「真面目にやってますよ」
「うん。頑張ってます」
あー、子を心配する親父からの質問と取られたか。
まあ、間違ってはいないんだけどな。
「そうか……冒険者としてはどうだ? Cランクになったそうだな?」
「うーん……なんというか、すごいよね」
「うん。すごい」
カトリーナとシャーリーが頷き合った。
「お前らの目から見てもメアリーはCランクか?」
「正直、私は早いかなって思います」
カトリーナが意外にもはっきりと言う。
「なんでだ?」
「実力面はすごいです。動きは速いですし、剣術も魔法も使えます。見ていて、安心感があります。ただ、今日のこともですが、経験が圧倒的に足りていません。もちろん、それは私達もですが、始めてからずっと一緒にやってきたわけですし、だからこそ、わかるんです」
カトリーナはやはり地に足を付ける子だな。
昔から一歩一歩進んでいく堅実な子だった。
「シャーリーは?」
「私も経験が足りていないと思う。というか、冒険者になって数ヶ月ですからそれは仕方がないです。でも、メアリーはちゃんとしているなって感じがします。昔から何をやっても器用にこなす子でしたけど、冒険者も無難にこなしているし、成長も早いなって思います。はっきり言えば、私らルーキーと組むより、ベテランのパーティーに入った方が伸びるんじゃないかって思いますね。もっと大きい町に行った方がメアリーのためです。それこそ伝説を作れますよ」
シャーリーはそう思うわけか。
「メアリーは町を出る気がないそうだ」
「それは聞いてます。別に出ろって言ってるわけじゃないですし、私達も別の町に行く気はないです」
「私は教会があるから絶対に無理だよ」
3人共、地元志望なわけか。
「シャーリーは騎士になりたいんじゃなかったのか?」
「それを目指していますが、結局はこの町に戻ることになるんじゃないかなって思ってます。私、一人娘なんで」
家業の肉屋があるか。
「そうか……今を楽しめよ。冒険者の引退は早い。後悔のないようにやれることをやれ。多分、お前らもすぐにランクが上がる」
「そうですかね?」
「Dランクに上がれるかなぁ……」
2人は自信がなさそうだ。
「カトリーナは回復魔法が使えるうえに槍も使える。シャーリーの剣術も見事なもんだ」
「見たように言いますね」
覗いたからな。
「何年もお前らを見ていたらわかる」
「エリックさんってすごく強い雰囲気がありますね」
「わかる、わかる。今日のナイフもすごかったしね。何あれ?」
隠せないか、ふっ……
「強いんだよ。俺のことよりもギルドはお前らに期待しているんだから頑張れ」
「そうなんですか?」
カトリーナが聞いてくる。
「じゃなきゃ、ルーキーに緊急依頼なんか出すか。あの魔物の群れにも対応できる能力があると判断したから連れていったんだよ。焦らずに堅実にやれ。そして、メアリーを抑えろ」
「わかりました」
「頑張ります」
その後も3人で話をしながらすごしていくが、空がわずかに明るくなり始める頃には2人の口数も少なくなり、うつらうつらしだした。
「もう無理だな」
そう言うと、2人がはっと起きる。
「あれ? あ、寝てた」
「眠い……」
だろうな。
メアリーも最後の方は完全に上の空だった。
「最初から完璧にできる奴はいない。今日はもう寝ていいぞ。頑張ったからちょっとしか寝られないがな」
「エリックさんは眠くないんですか?」
シャーリーが聞いてくる。
「これくらいは問題ない。それに俺はアンジェラが起きたら寝る。お前らは昼間も見張りだぞ」
「すみません……寝ます」
「このままでは昼間に見張りをするのは難しいです……」
「ああ。依頼を出したが、練習のためだ。最初にしては頑張った方だし、もう寝ろ」
2人は立ち上がり、テントに入っていった。
そのまま一人で焚火を見ていると、徐々に辺りが明るくなり、アンジェラのテントの明かりがつく。
そして、さらに少し経つと、アンジェラがテントから出てきた。
「あー、よく寝た。あれ? 見張りがいないわね」
アンジェラが笑う。
「さっきまでは頑張ってた」
「何点?」
「45点」
合格点は上げられない。
3人共、後半は寝ないようにと考えすぎであまりにも注意が散漫だった。
あれなら焚火を消し、テントで寝た方がマシだ。
「初めてにしては頑張ったわね」
「そうだな。帰りにアンジェラもやるか?」
絶対にやらないだろうけど。
「やんない。私は最初から無理ってわかっているからこういう仕事は受けないようにしてるの」
「他所のパーティーに入れてもらっているんだろ? 他の者に任せればいいだろ」
「他所の男の前で無防備に寝ろって? 無理無理。仲間の冒険者でも信用できないわ」
それがあるか。
「もし、そういう依頼を受けざるを得ない状況になったら陰から守ってやるよ」
そう……正義のダークヒーローが!
「いや、その時はエリックとして、ちゃんと一緒についてきてよ」
フルフェイス・マスクマンは嫌らしい。
「そうだな。そうするよ」
「ええ。エリックも仮眠を取って良いわよ。後は私がやっておくから」
「頼むわ」
いくら俺でも眠いは眠いのでテントに入り、敷いてある布団に倒れ込むように眠った。
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