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ビュ=レメンの舞踏会 ―はじまりの招待状―  作者: 滝沢美月
第1章 旅は道連れ世は情け
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第4話  国境の街



 節約のため徒歩の旅と決めていたが、ジークベルトの勧めで彼の愛馬に荷物を乗せての旅となり、予定よりだいぶ楽な旅となり順調に国境を目指して進む。

 道中、旅をするにあたって不要な騒ぎを起こさないためにいくつか決めたことがある。一つは、ティアナがイーザ国の姫であるという身元を隠すこと。一つは、エルが人前で人語を話さないこと。

 イーザ国内は農村といくつかの街を繋ぐ街道が東西南北に伸びている。節約のため、夜は街ではなく農村で少しのお金を払い民家に泊めてもらう。親切な人に出会うと、ただで泊めてもらえたこともある。



 無事に国境を越え、ドルデスハンテ国の国境の街ザッハサムに到着する。まず、古着店に行きイザベルが作った服を見せると、しばらくして奥からの店主と名乗る男が出てきて満面の笑みで言う。


「この服はもしや、一級裁縫師が作られた服ですか?」


 男は左右の手のひらをすり合わせ聞く。ティアナとイザベルは顔を見わせ、イザベルが答える。


「この服はすべて私が作りましたが……一級裁縫師ではありません」


 裁縫師とは、ドルデスハンテ国の裁縫組合が定める裁縫師階級試験に合格した者をいう。階級には下から四級、三級、二級、一級、更にその上に特級裁縫師というのがあるが、一級や特級裁縫師は数人しかおらず、そのほとんどが王宮か位の高い貴族の専属裁縫師である。また、階級試験を受ける前に裁縫組合で修業をしている者を見習い裁縫師という。


「では、見習い裁縫師の方かな?」

「いえ、私は……」


 店主の質問に口ごもるイザベル。なぜならば、裁縫協会や裁縫師階級試験が存在するのはドルデスハンテ国のみで、隣国であるイーザ国から出たことのないイザベルが、階級うんぬんと問われても分からない話だったからだ。すかさず、ティアナが助け船を出す。


「私達は裁縫組合の階級試験を受けにイーザ国から来たのです」

「イーザ国、それでか!」


 店主が納得したように頷く。


「この服はどれも、素晴らしく精密に作られている上に、流行を取れ入れつつも見たことのない斬新なデザインだと思えば――隣国の裁縫職士の方でしたか」


 裁縫職士は、裁縫組合の定める裁縫師と区別するための呼び名で、主にドレデスハンテ国以外の裁縫をする人のことを言う。


「ええ」


 ティアナは笑顔で頷く。


「とても上質な服だったので、もしや一級裁縫師の方かと思いましたよ。しかし、裁縫師の作品じゃなくても、これは売れますよ! これくらい、でいかがでしょうかね?」


 そう言って店主が紙に書き出した数字は、予想をはるかに上回る大金だった。



 イザベルは革袋にぱんぱんに詰められた服の代金を抱え呆然と歩く。


「こんなに頂いてしまって、よかったのでしょうか?」

「いいんじゃないか」


 にやにやした顔でジークベルトが言う。


「この国で裁縫師の肩書がない者の服を破格の値段で買い取ったということは、あなたの裁縫職士としての腕が認められたということですよ。よかったですね」


 ティアナに抱かれたエルが目を細めて言う。


「よかったね、イザベル」


 そう言ったティアナを、イザベルが涙を浮かべて見つめる。


「うぅ……、ティアナ様のお伴をしてこうしてドルデスハンテ国に来ることができて、私は幸せ者です。王宮で侍女として働きながら、いつかドルデスハンテ国の首都ビュ=レメンにある裁縫組合で裁縫師になるのを夢見てこつこつと裁縫をして……その夢に少しでも近づくことができて、私はとっても嬉しいです」


 イザベルは言って、腕の中の革袋を抱きしめた。




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