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誰が為に戦う

「ヨシロー様?」

ミレディが去って、部屋に戻ったリタが質問した。

「ヨシロー様、あの」

リタは戸惑いながら言葉を整理できないでいた。


「首飾りは、戻ったよね」

ヨシローが重い口を開いた。

「はい」


「じゃあ、これ以上関わることはないんじゃないかな」

「そんな…」

リタがしょんぼりした。


「アンヌさんの依頼は達成したんだよ。それでいいんじゃないかな。権力者の争いまでは首を突っ込めないよ」

「そうですけど…」



エメラルドパレスに場面は変わる。

「名は何という?」

「はっ、冒険者マイトと申します。英雄、竜殺しの異名を持つネイリング将軍の数多ある武勇を耳にし、一度お目にかかりたいと思ってました」

「そうか、遠路はるばるこの片田舎へよく参った。なかなかの鍛錬を積んだとみる。強き者は歓迎しよう」


ネイリングは舌舐めずりするかのようにマイトという男を見た。被験体には申し分ない。

部下に命じてエメラルドパレス内を案内させた。


 扉が開き、給仕の者がアンヌを連れてきた。

「ほう、首飾りが其方をより美しく際立たせている」

アンヌは内心ホッとした。


つつがなく枢機卿拝任式が始まった。

大聖堂が大歓声に包まれた。リシュリーは手を振り民衆の支持を集めた。

ネイリングは退屈そうに座っていた。隣でアンヌは心臓を握られるかのような気分で息苦しく感じていた。



「セシリアさん!」

リタが手を振ってやって来た。

岩場に座っていたセシリアが軽く手を振って応えてくれた。

「ノラは?」

ヨシローが荷物を降ろした。

「退屈だって言って飛んで行きました」

ドラゴンはそういう性格なのだろうか。気分屋な性分がひとつどころでじっとできないようだ。


セシリアにエメラルドグレイスでの出来事を話した。

「わたくしもヨシローさんと同意見です。お二人とも次の旅路に向かうべきです」

セシリアの言葉にリタは仕方なく頷いた。

「リタさんは誰と戦うのですか?」

リタは迷った。確かにそうだった。守るべき相手もいない。脅かされる脅威もない。


 リシュリーの命によりミレディは女給になりすまして、ネイリングからの贈り物である首飾りが盗まれた。アンヌはリシュリーが、怪しいと睨むが証拠がない。ネイリングはアンヌが不義を働いていると吹聴されるがミレディの方から首飾りを返しに来た。

ネイリングの立場なら不義を働いたアンヌは処刑になるであろう。

はずだった。


リシュリーはネイリングの浅はかな嫉妬を理由に失脚を狙ったが失敗に終わる。

ネイリングは首飾りの本当の理由を知ることになり、リシュリーとの対立は激化する。

ミレディの狙い通りになった。


「今の僕たちが推測できるのはここまでだね。リシュリーは枢機卿になった」

納得がいかなさそうなのでヨシローは現状を整理してみた。


枢機卿とは王都では宰相として、国王補佐の権限を得た地位である。もちろん教皇補佐団の一員としての役目も果たす。


「つまり、リシュリー枢機卿はネイリング将軍より上の地位にいるんだよ」


はたから見ると、司祭と将軍は立場の違う二人はどっちが上なのかという不安が民衆にあったかもしれない。そこが解消されただけなのだ。


「どちらも悪政を、働いてるようではなかった感じだからね。僕たちは世直しの旅をしてるわけじゃないんだよ」

リタは頷いた。

「アンヌさんは無事でしょうか?」


「首飾りが戻ったので大丈夫なはずですよ」

セシリアも会話に参加した。


ネイリングは爵位はわからないがアンヌは町娘だ。貴賤結婚という言葉を耳にしたことがあるが、問題にはなってなさそうだ。

「アンヌさんが選んだ道だ。いいんじゃないかな」


ヨシローたちの話しはこれで終わった。

「リタさんの歯痒い気持ちもわかりますよ」

セシリアの言葉がリタを優しくなだめてくれた。



 アンヌは静か祈りを捧げていた。エメラルドグレイスに危機が迫ることを憂いていた。


「こんにちは、アンヌさん」

ドートリッシュの扉を開きリタが元気よく入って来た。

「こんにちは、元気ね」

アンヌも挨拶を返した。


「その後、大丈夫ですか?」

ヨシローが何も役立てず申し訳ないという顔で伺った。

「ええ、まあ」

アンヌは小さく微笑んだ。


二人はアンヌの神妙な面持ちに気づいた。

「お二人に話したいことがあります。聞き流してくれても結構です」

アンヌは二階の二人が寝泊まりした部屋へ案内された。


「わたくし、王都ベリルの隣国の王女でした。アンヌ・ドートリッシュが本名です。亡命してここに妹として匿ってもらってるのです。昔、祖国の舞踏会で夫ネイリングと出会いました。亡命後、再びネイリングに出会い半ば強引に結婚させられました。わたくしの出自は夫も秘密にしてくれています。もちろんわたくしのお願いでもあります」

アンヌの告白に二人は驚いた。


「枢機卿と夫の争いは街の人なら、旅人のおふた方ですら異様に感じるものに見えるはずです」

「そうですね」

ヨシローのこたえにリタも頷いた。


「二人はこの国を地獄に落としてでも争うつもりです。わたくしには悲観するしかないのです」

アンヌは各々が良からぬ陰謀を企てていることに涙した。


「ヨシロー様。敵が見えました」

リタが胸のつかえが取れたように言った。



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