剣の里
港町を出た僕は旅を再開していた。
彼らにはラヴと名乗る人物が現れた時だけ、ジンの居場所…といっても、これから通るだろうルートを伝えて欲しいと頼んでおいた。
これで僕の特徴とジークリンドという名前だけで探している人には教えない、と思いたい。
ま、その時はその時だね。
善悪関係なく、邪魔をするなら抵抗するしかないから。
それが逃走か武力抵抗かはその時にならないとわからないけれど。
「でも、遂に目的地らしい目的地が見つかったね」
これまではただ南下して、大陸を一周する予定だった。
そこには目的地なんて存在してなかったけど、道すがら寄れる場所に気になるところがあった。
それを教えてくれたのは漁師の一人。
『それだけ強いなら、剣も相当なもんだろう?
やっぱり、剣の里で修行を積んだのか?』
何だか心を擽ぐられるワードだろう?
僕はすぐにその剣の里の情報を求め、場所だけだけど手に入れることが出来た。
つまり、次の目的地は。
「行こう。剣の里へ」
そこでは将来の剣聖候補達が修行していると聞いた。
僕は剣よりもオーラの方が得意。
でも、男の子ならやっぱり剣でしょ?
そこに得手不得手なんて関係ないんだ。
ただカッコよく剣を振る。
その為に頑張れるのだから。
「まさかこんなに遠いなんて…」
異世界舐めてました。
はい。
遠いとは聞いてたけど、走って一月も掛かるなんて……
「でも、それも醍醐味だよね」
前世は便利だった。
丸一日あれば世界の何処へでも誰でも行けたし、会話をするだけならそれこそ片手間で済ませられた。
でも、便利過ぎた。
何事も過ぎれば…っていうけど、ここへきてそれをより実感出来ている。
「力や能力なんて、求める者だけが手にすればいい」
そう。難しいから人は夢や希望を持てるんだ。
それが簡単になると『目標』へと落ち着き、さらに手軽になると『時間潰し』にしかならない。
普通の人にとって、夢も希望もない世界。
前世はそうなりつつあった。
生きることが難しければ皆がそれに感謝出来たのに、生きて行くだけなら簡単だったから、それにさえも感謝出来ない世界になっていたね。
でも、ここは違う。
皆が皆一人では生きていけないことを当たり前に感じているから隣人達で協力し合える。
美味しいご飯を心から喜べ、家族とのひと時に幸せを感じられる。
そして、生きていることに感謝も出来る。
「紹介状を拝見いたします」
目的地である剣の里はもうすぐそこ。
剣の里は山の中腹にあり、今はその山の麓にいる。
そこにはそこそこの町があり、人通りも多かった。
その町の中にある剣の里行きと書いてある看板に従い並んでいると、僕の前に並んでいる人から順番に係の人と思われる人物が声を掛けていた。
「あ、いや…紹介状が必要なのかな?」
聞いてない…というか、漁師が剣の里のシステムなんて知らないよね。
「なければあちらからの入山になります」
「あそこだね。わかったよ。ありがとう」
列の先には整備された階段が見える。
そこを通るにはどうやら紹介状なるものが必要みたい。
早速、教えてもらった別の入り口へ向かおうとしたけど、その係の男性からまたも声を掛けられる。
「腕に覚えがあれば止めませんが、並であれば死にます。ですので、引き返すことをお勧めします」
「あー・・大丈夫、かな?」
そんな風に脅されると、なんて言えばいいのかわかんないよ……
自分が弱いとは思っていないけど、かといって最強かと問われると絶対に違うし。
レイチェルや剣聖にはまだまだ敵わない。
そんな自己評価だからね。
係の人に会釈して、教えられた道を進んで行く。
僕の前に四人の男の人が階段前で並んでいたけど、全員紹介状を持っていなかったようで、もれなく僕と同じ別の道へ向かっていた。
誰かは走っていって、別の誰かは周りの動きを窺いながら慎重に進み、さらに別の誰かは堂々と道の真ん中を進んでいく。
そして、最後の一人は・・・
「おう、坊主。ここは初めてか?」
坊主……よもや、僕のことではないよね?
周りを見回すも、この人の近くには僕しかいなかった。
「初めてだよ。お兄さんは?」
「俺は四回目だ」
四回?
ということは、この人は剣の里に何度も行ったことがあるってことかな?
男の人は黒に近い茶髪で、背は僕と変わらないくらいだから170後半かな?
歳の頃は25歳前後くらい。
「へぇ。ベテランだね。じゃあ、着いて行こうかな」
「おう!今回こそは剣の里まで生きて辿り着いてやるからな!大船に乗った気でついてこい!」
……それ、ダメじゃん。
「や、やっぱり。一人で行こうかな…ははっ…」
「何言ってんだ。成人したてのガキを見殺しにしたとあっちゃあ、寝覚めが悪いからな。
着いてきな」
「…はぃ」
こうして、僕は半ば強制的に泥舟に乗せられることになってしまった。
係の人が指し示した方角へ町を進んでいくと、山へと続いている獣道に毛が生えた程度の登山道入り口が見えてきた。
「アレがあの世へと続いている道だ」
「…縁起でもないことを言わないでよ」
「ははっ!前の奴らは死ぬかもしれんが、俺の後を着いてくれば問題なしだ!任せておけ」
信用ならない……
こういうお調子者は、すぐにやられるって相場が決まってるもんね。
でも、何故か死なないのも。
道を知っているんだろうね。
アインと名乗った彼はどんどん進んでいく。
「ジンは何処で修行してたんだ?」
何と答えればいいのか……
「因みに俺は天地無双流だ」
ああ、出身じゃなくて流派ね。
「剣の師匠は一閃確殺流だよ。でも、僕は基礎までしか教えてもらえなかったけど」
一閃確殺流の基礎はテリトリー。
そこから先は一切教えてもらえなかった。
確殺流は門外不出でもあるし、僕の身体がまだ出来ていないからとは言われていたけど、実際のところはわからない。
単に僕に剣聖が自らの時間を割いてまで教える程の才能がなかっただけかもしれない。
大人はすぐに言葉を隠すからね。
僕もそうだけど……
「はあっ!?じゃあお前、なんでこんなところに居るんだよ!?」
「え…っと。どういう意味?」
流派を伝えただけでこの反応。
失敗した?
「は?知らねーのか?上で教えている流派こそ、一閃確殺流なんだぜ?…そんなことも知らないし、紹介状も持ってねえなんて……
ジン。お前、師匠に騙されてないか?」
「いや、それはない」
「そ、そうか。ならいい。行くぞ」
剣聖は度々呼び出しがあるって言っていた。
もしかしなくても、ここへ来ていたんじゃないかな?
一度国を出たら数ヶ月は留守にしていたし。
何を納得したのか、息を巻くアインに遅れないように僕はその背中を目指して進んでいく。
「ひぎゃあああっ!?」
二時間ほど進むと、山の何処かから悲鳴が聞こえてきた。
「ありゃ罠に掛かったな」
「罠?何のための?」
山の中には罠があるんだね…おぉ怖っ。
「魔獣と俺達を撃退する為だな」
「僕ら?何の為に?」
え。僕達って魔獣と同列なのか?剣の里って…一体……
「そりゃ、引っ切り無しに弟子にしてくれって言われたら面倒だろ?
才能があれば別だろうが、それを一々確認するのも手間だ。
達人達の時間は有限だからな」
「ああ。篩にかける為、か」
「そういうこった」
つまり、紹介状を持っている人は外で有望だと思われた人。
それ以外はこの道を通って自力で剣の里へ辿り着くことで、その力を示せってところかな。
「さっきの人は助けないの?」
「もう死んでる。ここの罠は掛かった時点で死ぬ。柔な考えは捨てないと、ジンも死ぬぜ?」
篩じゃなかった……
修行の邪魔をする邪魔者は消す。
ここはそんな場所だった。
ここからは罠だけじゃないだろうね。
罠だけだと剣の技量は測れないし、ここがただ害虫を殺す為だけの場所になってしまう。
違うよね…?




