37 優柔不断への対処法
長いけれど後悔はさせないので、人がいないところで読んでね♡
「よし、こんなもんじゃろ。しばらく無理はしちゃいかんぞ」
「はい、わかりました。ゴードン先生、どうもありがとうございます」
心を込めて頭を下げると、レナは治療を受けていた自分のベッドから、すぐに立ち上がろうとした。それを見たゴードンは苦笑いで彼女を止める。
「今、無理をしちゃいかんと言ったばかりじゃろ? 気遣いは不要じゃ。……さて、ワシはこれで失礼するからな」
そして退室する間際、ゴードンは何事かをラフィールに耳打ちした。ラフィールはレナを見ながら頷くだけで、彼女にはその会話の中身はわからない。
静寂が落ちた部屋で、ラフィールはレナの隣に腰掛ける。
ダンスのときはあんなに密着していたのに、宴から離れれば、この距離でさえも恥ずかしい。
シーツが僅かに動く音。ベッドが軋む小さな音。
聴こえる周りの音すべてが、レナの鼓動に重なって大きくなる。
「大変だったな」
優しく手を包まれ、そっと彼の方に引き寄せられた。
服越しに伝わるラフィールの固い太腿の感触。自分とは違う筋肉質の身体は、レナの全身を心臓に変えてしまう。
「いえ、そんなことは、ないです……。ラフィールさまが助けてくださったので……。こちらこそ、本当にご迷惑をおかけしました……」
途切れ途切れの言葉を何とか繋ぐと、レナは落ち着かなく視線をさまよわせた。
琥珀色の双眸はきっと自分を映している。それがわかるから、彼の方を向くことができなかった。
窓際にある簡素な机と、椅子に掛けられたラフィールのマント。
レナの胸がちくりと痛む。
他の女性と踊っていたら、ラフィールは今もまだ夜を楽しんでいたかもしれない。年に1度のお月見の宴。その貴重な休憩時間を、彼は楽しむことはできたのだろうか。
「仕事とは言え、1人にした俺が悪かったんだ。失敗した」
レナをシルバー席まで送り届けるべきだったと、ラフィールは後悔していた。
けれど彼女はそう思わない。
隙があった自分が悪い。すべての責任も原因も自分にある。そう思っていた。
「そんな……! ラフィールさまのお相手が私だったのがいけないんです……」
ショボくれて肩を落とすレナに、ラフィールは呆れるしかなかった。
「……お前、相当残念だな」
「そうですよね、私も自分が残念です」
「そういう意味じゃない」
「?」
大体ほかに踊りたい女がいたならば、ラフィールは誰に遠慮することもなく、その女を誘うだろう。レナなんかに要らぬ配慮をされるほど、彼は女に困っていない。
気位の高い女には腹が立つが、自己評価が低すぎる女にも苛ついた。
今日のうちに、彼女にはある決断をしてもらわなければいけないのに。
レナは人前でその類い稀なる美貌を晒した。恋人にうつつを抜かす門番に見られたのとは訳が違う。明日にもきっとレナの噂は領主館中に広まるだろう。
ラフィールはチラリとベッドサイドの時計を見た。時間がない。休憩時間は限られている。彼は間もなく任務に戻らなければいけなかった。
「レナ」
ラフィールは包み込んでいる華奢な手を、再度強く握り直した。
「はい」
そらしていた瞳を合わせれば、忽ち彼の眼差しに囚われる。もうレナは、目を離せない。
「このまま俺の女になれよ」
「え……」
直接的な物言いは、彼女をどうしようもなく戸惑わせた。
愛の告白よりもわかりにくくて、そこに気持ちがあるのかさえもわからなくなってしまう。
「俺なら、お前を守れる。怖かったんだろう? 俺の姿を見ただけで、泣いてしまうくらいには」
それは間違いのないことだった。ラフィールが来ただけで、レナは希望に満たされたから。
「ラフィールさま……。でも……」
近いうちに確実に来る別れは、期間限定の恋人ごっこに他ならない。
(好きだけど……。好きなのに……。こういう場合、どうしたら……)
レナはここまで来て、ラフィールの胸に飛び込めなかった。
いつか訪れる別れのときに、お互いが傷つかない方法がわからない。
カチコチカチコチ……
時間がなくなっていくのに、続く沈黙。
(これ以上は、もう待てない)
遂にラフィールはレナを見切った。
優柔不断な彼女は、結論を出した後もきっとグダグダと悩むだろう。ならば決断する前の悩みは無駄なこと。切り捨てても特に問題はないはずだ。
「早く返事をしろ。5秒以内に答えないと、受け入れたと見なして、このままベッドに押し倒す。5……」
「えっ?!」
突然のカウントダウン。
恋の迷宮に入り込んだ思考は、迷宮ごと破壊されて出口まで引きずり出されようとしていた。
「断っても、罰としてお前を押し倒す。4……」
「ば、罰……?」
「早く決めろ。3……」
「確かにラフィールさまのことは嫌いじゃないですけど……でも私にも……事情が……」
「こっちは時間がないんだ。どうせ大した事情じゃないだろ。2……」
「わ、わかりましたから、もう数えるのを止めてくださいっ……!」
「何がわかったんだ。はっきり自分の口で言え。1……」
「私、ラフィールさまの女になりますっ! だから数えるのを止めてください……!」
ラフィールはニヤリと笑った。
「わかった。もう数えない」
(私、つい……)
レナは顔を手で覆い、それからおそるおそるラフィールの顔を見た。そこにあったのは彼の意地悪で完璧な笑顔。
「俺の女になるって、言ったな?」
「はい……。言いました……」
「これからよろしくな」
「はい……よろしく、お願いいたします……。でも、あの、押し倒すのだけはちょっとまだ心の準備ができていなくて……だから……それだけは待ってください……」
ラフィールは冷たかった。
「却下する」
「!」
(何を選んでも、結局押し倒されるってこと……?!)
混乱していたら、ラフィールにかき抱かれた。
首筋にかかる熱い吐息。愛の言葉を囁かれて耳を食まれ、凄まじい男の色気にくらくらした。
「このまま進んだら、あなたのことを……本当に……本当に好きになってしまいます……」
「そうじゃないと困る」
顎を掬い上げ、優しくレナに口づける。
「……初めてだろう?」
腕の中にいるできたばかりの愛しい恋人。
口づけただけで薄桃色にそまる頬と、潤んだ瞳が可愛らしい。
「俺に任せてくれれば良い」
レナを労るように、フッと表情を和らげると、次は深く口づけた。
長老「この物語は清く正しいR15なので、全力全開の脳内補完が必須じゃぞ?」
レナ「そんな無茶な……」
長老「かぁぁぁつ(喝)! ここに集いし読者さまはなぁ!『初めて』の3文字を見ただけで大興奮しちゃうくらいの、優れた妄想力をお持ちの方々じゃっ! 舐めた発言をするでないぞっ!」
レナ「……し、失礼致しました(。-∀-)」
☆ 作者は読者さまの鍛え上げられた妄想力を信じております。本当に詳細は書きません。




