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発情中のうさぎメイドは狼騎士に食べられちゃう?!  作者: つきのくみん
第2章 恋する気持ちを通わせて
35/88

35 暖かい場所

甘い展開の序章です(*ノ▽ノ)

 隔絶された世界にたった1人、自分だけが取り残されてしまったようで、レナは俯いて唇を噛む。


 そのとき。

 止まっていた時計の針がにわかに動き出した。


「どけ!」


 人垣の向こうから聞こえてきたのは、よく響く鋭い声。いつもは感情を抑制しているテノールの声は、今は怒りをたぎらせていた。


 この声を、レナは知っている。

 出会ってからずっと支えてくれた彼の声。


 救いを求めてレナが顔を上げるのと、潮が引くように人垣が割れたのはほぼ同時だった。人の道ができたその奥に、均整のとれた長身のシルエットが浮かび上がる。


(助けに……来てくれたの……?)


 レナの目にじんわりと温かいものが溜まっていく。鼻の奥がつんとして、孤独だった心にともる。


「ラフィール……隊長……!」


 それはまさしく希望の光。

 彼女の騎士ナイトが今ようやく現れたのだ。


 人目があるにもかかわらず、レナは待ちわびた人の名前を叫ばずにはいられなかった。

 彼女の声はこんなときでさえ澄んでいて、そして安堵と恋しさと惨めさと、色々な感情が溶け込んだ涙がただただ溢れて止まらない。


「ラフィール……さま……」


 好きになった人は、自分を保護してくれた部隊の隊長だった。でもレナはそんな肩書きじゃなくて「ラフィール」に付いてきたのだと思い知る。


「レナ! 大丈夫か?」


 真珠のような涙が顎まで届いて落ちる頃には、ラフィールはレナのもとに辿り着いていた。


 濡れるのも構わずに、彼は水の中にいる大切な少女を力強く助け起こす。


「動けるか? 怪我はないか?」


 真剣な眼差し、矢継ぎ早の質問。どれだけ心配をかけたのか、レナにもこの一瞬でわかってしまった。


 ラフィールは「もう安心して良い」と囁くと、彼女を優しく抱き寄せた。そしてレナの視界を青で塞いだタイミングで、絶対零度の殺気を放つ。


 凄まじい殺気に完全に気圧けおされた狼藉者ろうぜきものの狼たち。


 彼らは情けなくも尻尾を丸めて後退し、その不甲斐なさはかえってラフィールを苛立たせた。舌打ちしたい気分で彼らの所属部隊と名前を脳内で読み上げる。


 この落とし前はきっちりつけなければ気が済まない。たとえそれをレナが望まなかったとしても、聞いてやるつもりは毛頭ない……。




 噴水の縁に座らせてもらったレナは、微かな夜風にさえ体温を奪われてしまった。ぷるぷると震えながら、メイド服からしたたる水気を絞っていると、頭上からふわりと温もりが降ってくる。


「あ……」


 レナはあえかな声をあげた。


「少しは温かいだろう?」


 手に取って確かめてみれば、それはラフィールのマントだった。


「でもラフィールさまの大切なマントが、私のせいで濡れてしまいます」


 レナは申し訳なくて、すっぽりと被せられたマントの中からラフィールを仰ぎ見る。本当はこの温もりに、ずっと包まれていたいけれど。そんな本音は心の引き出しにしまいこんで。


「気にするな。あのままでは風邪を引く」


 そこでなぜかラフィールは一呼吸置いた。そしてマントに隠されたレナの頬に、指先でそっと触れる。


「それに俺が……今のお前を誰にも見せたくないんだ……」

「ラフィールさま……」


 そこまで言ってくれた彼の好意に甘え、レナはそのままマントを借りることにした。

 マントは温かいし、何よりも彼の匂いがして安心する。散々乱れていた心でも、呼吸をする度に落ち着きを取り戻していった。


「ありがとうございます……。ラフィールさまに抱きしめていただいているみたいで……すごく安心します……」


 レナは無防備な仕草で彼のマントにすりすりと頬を寄せる。これには流石さすがのラフィールも苦笑せざるをえなかった。彼女は間違いなく、何もわかっていないから。


 悪い人間たちにより水に落とされた月の妖精と、その彼女を救いだした勇敢な騎士。

 絵画のように美しい光景に目を奪われた観客たちは、見やすい位置へと移動したため、ラフィールが作った人の道は早くも崩れかけていた。


 そこにメアリ婆さんとゴードンが息を切らしてやってくる。


「「レナ!」」


 小柄な2人にとっては、人の波をかき分けるだけでも重労働だ。既に疲れている様子なのは、心労も1つの原因だろう。


「大丈夫かいっ?!

「レナよ、可哀想になぁ……」

「メアリお婆さま……ゴードン先生……」


 そんなに速くもない足で一目散に駆け寄ってくる様子は、レナを不謹慎にも感動させた。


 領主館ここでできた新しい家族とも言える存在。

 姉カタリナの手掛かりすら見つからないが、寂しさに曇った心を磨き直して周りを見れば、既にレナは独りぼっちなんかではなかったのだ。


「今から俺が部屋まで送る」

「うむ。ワシもいくぞ。念のため診察したいからの」

「それならその子の残りの仕事は私がやっとくから、早めに休ませてやりな。このままだと風邪をひいちまうし、もう充分頑張って疲れただろ?」


 3人の思いやりに溢れた会話のせいで、また泣きそうになってしまったのは内緒の話。


 そんな泣き虫レナの膝裏に、ラフィールは突然手を差し込んだ。


「え?」


 ふわりとした浮遊感がして、レナはラフィールにすがり付く。つまりはマントごと、彼女は横抱きにされていた。

長老「3バカ狼、終わったな……。レナに手を出そうとするからじゃ」

レナ「どうなってしまうんですか?」

長老「ラフィールは自ら、奴らに稽古をつけてやるつもりじゃ。3バカ狼は皆の前でボッコボコのメッタメタのギッタギタにされるぞ。

奴らが所属する部隊の隊長も、酒の勢いとはいえ、3人がかりで嫌がる女の子に無体を働いてしまったことは重く受けとめているからの。厳しい稽古も黙認じゃ」

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