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ハーフタイムが終わって先頭の選手が出てきた瞬間、
こりゃダメだ。
そう確信した。
だから左手で華穂様たちに合図して、ピストル型の右手に装着されていた輪ゴムを躊躇なく隼人のコメカミ目指して放った。
「雛ちゃん、隼人くん気づいてくれてよかったね!」
「うん!!」
前の席で華穂様と雛ちゃんが笑いあっている。
こちらに向かって手を振った時の隼人の顔にはほんのり笑みが浮かんでいて、瞳には力が戻っていた。
『もう大丈夫。』
隼人の手はそれを伝えてくれているような気がした。
ハーフタイム中に華穂様や雛ちゃん兄妹と、体制の立て直しが出来ていないようならば強硬策に出ようと作戦を練っていた。
隼人のことだから、こちらの声さえ届けばなんとかなると思っていた。
ピッチ上の選手たちの動きは、いつもと比べればややぎこちないものの、ここ最近の試合や前半に比べれば格段にいい。
勘を取り戻せばもっと良くなるだろう。
つくづく自分は甘いなぁと思う。
本当はこの試合、ゲーム内では大敗して優勝を逃し、あの穏和な隼人が荒れに荒れるということになっていた。
そこに華穂様が助けの手を差し伸べて、隼人は救われる・・・・というストーリーだった。
しかし今回、ゲームと少し状況が違っていた。
本当は前節、ウィンズは辛くも勝利してリーグトップに勝ち点で並ぶはずだった。
そして、優勝を目の前で逃すという展開だったはずなのだ。
しかし実際には現在3位、勝っても優勝できるかどうか怪しい状況。
ここで苦しそうにプレーをする隼人の顔を見て『もう十分だ』。
そう思ってしまった。
隼人の心は華穂様にきちんと向いているし、苦しみも十分だ。
ゲーム通りに行かないこの世界では、華穂様の救いがあるとは限らない。
いや、ゲームの中であっても選択肢を間違えれば隼人は救われない。
そんな不確実なものに懸けるくらいなら、傷の浅いうちにすくい上げておいたほうがいいと思ったのだ。
私は隼人が好き。
隼人だけじゃない。流だって一弥だって宗純だって・・・・・・華穂様はもちろん、裕一郎様も攻略者もみんなみんな好きなのだ。
前世でプレイしたことを思い出すくらい好きなゲーム、どのキャラにも愛着があり、不幸になんてなって欲しくない。
華穂様はお一人だからみんながハッピーエンドを迎えられるわけじゃないけれど、できるフォローはしていきたい。
幸せじゃなくたっていい。暗く重く立ち直れないほど傷つくことさえなければ。
ひとつパスがつながると、そこから自信が広がるのかグンと動きが良くなる。そうすると余裕が出てくるのか挑戦的なプレーも増えて観客を湧かせる。
「やっと長いトンネルから抜けたみたいですね。」
「えぇ、あの子も自分がサッカーをしている意味を思い出したみたいでよかったわぁ。」
親世代も本人にこそ言わないが、隼人の苦しみをわかっていたようで穏やかな顔で走る隼人を見つめている。
楽しそうに走り回る選手たちと元気よく応援する子供と暖かく見守る親。
なんだかそれを見ているとほんわかした気持ちになる。
「ほら、唯さんもしっかり応援して!!」
メガホンを渡される。
どうやらこの光景に和んでいる場合ではないらしい。
私も声の限りに応援して、選手たちの力になろう。
スタジアムの電光掲示板に他のチームの試合結果が表示される。
それを見てサポーターたちがどよめいた。
1位チームの敗戦。
0-1で試合終了。
2位のチームは現在まだ試合中だが、1ー1とどうなるかわからない状況。
3位であるウィンズの試合状況は、1-0で1点をリードしている。
サポーターの間に期待が広がる。
もしこのまま2位が引き分ければ優勝ができるかもしれない。
応援により一層熱が入ったのがわかった。
『優勝』
この2文字がちらつくと、またプレッシャーで動きがぎこちなくなるのではないかと思ったが、杞憂だったようだ。
選手たちは変わらずのびのびとプレーしている。
「大丈夫だよ、唯さん。」
突然、華穂様に声をかけられる。
「隼人くんは同じところで何度もつまずくほど弱くないよ。」
私に向かって自信満々に笑う。
あぁ、やはり華穂様はよく人を見ている。
恋愛に鈍感なのはヒロインとしての特性なのかもしれないが、(恋愛感情に敏感で同時に6人も相手にしていたら、きっと高熱で倒れてしまう)それ以外に関しては華穂様はよく気がつくし相手の心情の添った言動ができる。
こういうところが多くの人から愛されるのだ。
攻略対象だけでなく、私のことも見ていてくれているのが嬉しい。
華穂様は本当に自慢の主人だ。
「おおおおおぉぉおぉぉおおおお!!!!」
歓声とともに会場が盛り上がる。
シュートの後キーパーに弾かれたボールをFWがダイレクトに蹴り返してゴールに突き刺した。
これで2ー0。
後半は残り20分。
もう1点。取れない時間ではない。
ここで2位チームが引き分けたと速報が入った。
会場のボルテージさらに上がる。
相手の目の色も変わった。
自分たちが優勝争いに関係なくてもやはり目の前で優勝されるのは嫌らしい。
もともと激しいスポーツだが、なんとしても相手を止めようと体全体を使って進路を塞ぎ、あちらこちらでファールがあったと笛が鳴る。
お互い必死だ。
もう選手たちに笑顔は浮かんでいないが、それでも前半のような息苦しさは感じなかった。
あるのは真剣さとあつさ。
いかに相手を出し抜こうか、どうやって相手を止めようか。
選手たちの駆け引きを彼らと同じ真剣さで見守る。
後半45分は過ぎた。
アディショナルタイムは7分。
惜しいところまで行くのだがシュートの態勢に入るとあっという間に囲まれて奪われる。
あと5分
あと3分
隼人にボールが渡った。
ゴールめがけて一直線に風のように翔けていく。
ひとり
ふたり
進路を邪魔する相手選手を華麗にかわしていく。
まるで足にボールが吸いついているようだ。
ゴールまであとちょっと。
そう思ったところで隼人の足からボールが離れた。
真っ直ぐゴールを目指して飛んでいく。
全員がボールの行方を固唾を飲んで見守る。
カーーーーーーーンッ
ピピィーーーーーーーーッッ!!
金属に物が当たる音とその直後に笛が鳴る。
「くっそおぉぉぉぉおおぉぉおおおぉ!!!!!」
静まり返ったスタジアム中に隼人の雄叫びが響き渡った。




