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結局、華穂様は私と相談して『お疲れ様でした。気をつけて帰ってきてください。』という当たり障りのないメッセージを隼人に送った。

私はそれに『来週は隼人様のお好きなプリンを持っていきます。』と付け加えておいた。

隼人からは『ありがとうございます。』という一言だけ帰ってきた。

その簡潔な返答がまた敗戦のダメージの深さを感じさせる。

来週の試合、大丈夫だろうか?

ゲームの通りならば・・・・・・。






1週間が過ぎるのは早い。

あっという間に最終節の日になった。

隼人とは先日のメッセージ以降、特にやりとりは無かった。


「華穂、唯くん、今日はこれを着なさい。」


裕一郎様から渡されたのは東京ウィンズのユニフォームのレプリカだった。背番号は隼人のものだ。


「今日はVIPルームじゃなくてピッチの側で選手たちを応援しよう。

私たちの声援がみんなに直接届くように。」




ユニフォーム姿の華穂様はとても可愛らしかった。

用意されたユニフォームは女性用で、Tシャツの丈は短く立体縫製をしてあるから女性らしい体のラインが表現されている。

下はホットパンツなのだが、少し裾が広がっておりミニのキュロットのようにも見える。

・・・・・・・・試合前に隼人が見たら鼻血出して倒れるかもちょっと心配になった。




スタジアム到着後、案内されたのは観客席ではなくなんとピッチの上だった。

スタジアムにはいつもはないはずの特設の“芝かぶりシート”が出来上がっていた。

選手の入場ゲートすぐ側。オーナー企業用特別席の真下というベストポジションだ。

すでに何人か先客がいる。


!!!!!!!!!


も、もしかしてあれは・・・・・!!


「おや、いらっしゃってたんですか。」


「あらぁ、高良田さん。ご無沙汰しております。」


裕一郎様が声をかけたのはおっとりした優しい雰囲気の漂う美人だった。

そしてその横には、彼女と同じ顔をした子供たちが4人。

一番上が高校生・・・下は幼稚園くらいだ。


「お父さん、もしかして・・・・・」


「あぁ、すぐわかっただろう?若宮さん、こちらは娘の華穂です。」


「あらあらぁ、綺麗なお嬢さんで。いつもお父様には息子がお世話になってます。」


こ、これが!!!

ゲーム内ではテキストのみでイラストの無かった隼人の家族!!

確かにそっくりだと文章では書いてあったが、本当にそっくりだ。

年齢さえ合わせればお母さんまで合わせて六つ子でも通りそうだ。

父親の遺伝子どこいった。


「はっ、はじめまして!!こちらこそ隼人くんにはいつもお世話になってます!!」


「あらぁ、そうなんですかぁ?あの子も他の人のお世話ができるようになったなんておっきくなったのねぇ・・・」


て、天然・・・・・・?


「うちの華穂はサッカー初心者なんで、いろいろ隼人くんには教えてもらっているみたいで。

そのおかげで華穂もすっかりサッカー好きになってくれて、こうして親子で楽しんでます。

今日はご家族お揃いで隼人くんの応援ですか?」


「はいぃ。

『今年は絶対優勝するから見に来て』って、しばらく前に言われましてぇ。

でも、わたしはよくわかってないんですけど、なんだか勇人ゆうとによると勝っても優勝できないとかぁ・・・・・』


まさかの息子の現状わかってない発言。

隣で勇人くんと思われる高校生が母親の発言に頭を抱えている。

・・・・・・・若いのに苦労してそうだな。


隼人の弟妹たちは皆礼儀正しく可愛かった。

子供好きな華穂様はすぐに打ち解けて末っ子の雛ちゃんが話すお兄ちゃん自慢を楽しそうに聞いている。

その話を後ろで聞いているのは、キャラクターの裏話を聞いているようでちょっと面白い。


そうこうしているうちに選手の入場が始まった。

選手たちが入ってきた瞬間、空気が一気に引き締まる。

緊張が空気を通して肌にピリピリと伝わる。


「あ、お兄ちゃん!!」


入場ゲートのすぐ隣の席だから雛ちゃんの声は聞こえたはずだ。

隼人はちらりとこちらを見ることもなく強張った顔のまま進んでいった。


「お兄ちゃん・・・・・」


雛ちゃんは大好きなお兄ちゃんに無視されて華穂様の膝の上でしょげかえってしまう。


「雛ちゃん、お兄ちゃんは大事な試合の前だから緊張して雛ちゃんの声が聞こえなかったんだよ。

だからそんなに悲しまないで。

いつもお兄ちゃん、あんなに怖い顔してないでしょう?」


「うん、お兄ちゃんとっても優しいの。」


「そうだね。隼人くんとっても優しいよね。

早く隼人くんが笑ってくれるといいね。」


いつもは遠目から見ているから気がつかなかっただけかもしれないが、いくら試合前でも緊張しすぎだと思った。

手をつないでいた子供たちが明らかに怯えていた。

過度な緊張は動きを妨げる。

前節の嫌な試合が思い出される。

不安な空気をまとったまま、試合は開始された。


本編再開です。

更新ない間もブックマークいただきありがとうございます。


先日いただいた拍手コメントにドキっとしました。

返事不要との事でしたので詳しいお返事はないんですが、読者様はよく見ていてくださってるなぁとしみじみ。

最近書きつつ悩んでいたところをズバリと指摘され、一瞬『これ、寝てる間に別人格のわたしが書いたとかじゃないよね!?』と思ってしまうくらい今の心情とピッタリのコメントでした。

やっぱり書き手の悩みって作品に出てしまうんですかね。

とても参考になりました。ありがとうございます。

他の皆様もご意見があればぜひ感想なり拍手なりで教えていただけると嬉しいです。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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