63
「ああああああああのっそのっ邪魔してごめんね!?」
真っ赤になったままどもりながら話す華穂様に疑問符を浮かべる。
別に邪魔された覚えなんてないのだが。
「いえ・・・それより、廊下でどうされました?」
「え!?いや、入っちゃまずいかなぁと思ったんだけど・・・・・・・。」
「???」
華穂様の言っている意味が全くわからない。
「入っても・・・・大丈夫?」
「もちろんです。宗純先生もどうぞ。」
ふたりを招き入れ、私は部屋に置いてあったコーヒーを入れることにした。
コーヒーを入れつつ、他の3人に目を向ける。
ソファーにかけたままの流と、その正面に少し離れて立つ華穂様。その後ろに宗純が控えている。
やはり気まずいのか重たい空気が漂っている。
「あの、おもいっきり叩いちゃってごめんなさい!」
華穂様が意を決したように勢いよく頭をさげる。
「痛かったよね!?ほんとにごめん!!」
扉を見に行く時に冷やしタオルは流に預けたので、華穂様たちには流の頬は見えないはずだ。
見えない分余計に痛そうに見えるのかもしれない。
タオルを外したら外したでくっきり紅葉色の手型がついているのだが。
頭を下げたまま動かない華穂様の肩に手を置き、宗純がその前に出る。
「私からも謝罪させていただきます。申し訳ございませんでした。」
「・・・・・それはなんについての謝罪だ?」
「まずは弟子の貴方への行為について。
それから・・・・・不甲斐ない作品をお見せして、気分を害させてしまった件について。」
宗純が頭を上げてまっすぐに流を見据える。
その雰囲気は展覧会が始まった時と違い、すっきりしているように感じる。
「あの作品には確かに迷いがあります。
それを誤魔化そうと小手先の技に頼り、見掛けだけの作品になりました。
すべて私の未熟さ故です。
・・・・・・私はまだその迷いを晴らすことができていません。
ただ、その迷いを隠すことなく出せばいいと言われました。
迷っている姿もまた『今の私』であると。
私はこの迷いが晴れるまで、それを抱えたまま精一杯花と向き合っていく所存です。」
宗純の言葉からイベントが上手くいったことを知る。
今回のイベントで宗純は迷いに向き合い、さらに進めていくと華穂様の支えで迷いを晴らすことができる。
「・・・・・・いい顔になったな。」
流が満足そうに口角を上げる。
「俺も悪かった。意見を違える気はないが言い方を考えるべきだった。」
ニヤリと笑いながら言ってもまったく謝っている気がしない。
むしろタオルあてながら笑ってる姿がちょっとマヌケで笑いたくなる。
顔に出さないように笑を堪えていると呆然としたつぶやきが耳に入った。
「あの流が謝った・・・・・・。」
華穂様が驚愕の眼差しで流を見ていた。
確かに普段の流を見ていれば謝っている姿など想像がつかないだろう。
私もゲーム内の流を知らなかったり、華穂様に殴られてショックを受けていた姿を見ていなければ、同じく驚愕していたかもしれない。
これも華穂様が流に与えた良い変化だ。
「あの、とはなんだ。あのとは。」
「だって流だよ!?自信過剰俺様男の流だよ!!??謝るなんて・・・・・・・はっ、わたしが叩いたのでどっかおかしくなった!!??」
驚愕のあまり本音がだだ漏れでずいぶん失礼なことを言っている。
・・・・・・それとも打撃だけでは飽き足らず精神攻撃に切り替えたのだろうか?
「・・・・・・・・・ずいぶんな言われようだな。華穂が俺のことをどう思っているのかよぉくわかった。」
「え?自覚なかったの??わたしだけじゃなくてみんな思ってると思うよ!?」
華穂様、まわりにまで被害を拡大させないでください・・・・・・。
「なんだと!?お前もそう思っているのか!!!???」
流がくるりとこちらを向く。
ほら、こっち来たー!
詰め寄るように流がこちらに近づいてくる。
「どうなんだ!?」
「いや、えーっと・・・・」
まさかこの空気で『思ってます』とは言えない。
しかし嘘をつくのも微妙だし、そうすると今度は華穂様が拗ねる。
「ぷっ、くくくくくくっっっ・・・・・・・・・」
場違いな笑い声に一斉にそちらに顔を向ける。
「「「笑った!?!?!?」」」
そこには体を折り曲げて笑う宗純の姿があった。
謝った流以上に驚愕映像だ。
正直、微笑む宗純はゲームで見たことはあったが、全身で笑いを表現する姿など見たことがない。
「花柳・・・・お前、笑えたのか。」
流が先ほどの華穂様と同じように驚愕の表情を浮かべている。
「私だって人間ですから笑います。ずいぶんな言われようですね。」
先ほどの流の言葉を借りてニヤリと皮肉ってくる。
・・・・・・一皮どころか皮が向けすぎた?
「今のお前と話すのは楽しそうだな。」
同じくニヤリと笑い返す流。
コーヒーは入れ終わった。
ここからは刺激のあるコーヒーブレイクになる予感がした。




