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「いらっしゃいませ。どうぞごゆっくりご覧ください。」
来場されたお客様にパンフレットを渡す。
今日は宗純率いる花柳流の展覧会だ。
今回の展覧会は年に一回行っているもので、花柳流の展覧会としては新年に行われるものに次いで規模の大きな展覧会となっている。
私も華穂様も花柳流門下生として参加・・・・・・・はしていない。
華穂様はまだまだ出品できるレベルではないし、私に至っては言わずもがな。
綺麗なだけの作品は技術の上達に合わせて綺麗さこそ増しているものの、ますます作りもの感が滲み出る残念な出来栄えとなっている。
・・・・・・・・・・・・展覧会に出せるようになる気はしないな。
今日は華穂様と一緒に技術の足りない生徒として展示されている作品の勉強と受付の手伝いだ。
「こんな所で何をしている。」
「流!?」
パンフレットを渡そうと手にとった華穂様の目の前にいたのは、いつも通りダークグレーのスーツを着こなし無駄にイケメンオーラを振りまいている流だった。
あー、ここで絡んでくるのか。
今回はゲームにもあった宗純のイベントなのだが最近の傾向から流が絡んできてもおかしくはない。
「そんな格好をしているから誰か気づかなかったぞ。」
「・・・・・似合ってなくて悪かったね。」
花柳流門下生は今日は全員着物を着ている。
私と華穂様も例外ではなく、華穂様は薄桃色に控えめに蝶がついた訪問着、私は薄茶色で濃淡で川の流れを表現した訪問着をきている。
「何を言っている。似合いすぎていつものお前と繋がらなかっただけだ。」
かぁぁぁぁっと華穂様の顔が赤くなる。
ついでに一緒に受付をしていた他の門下生のおばさまも自分が言われたかのように頬を染めている。
「で、お前たちは何をしているんだ?」
流がこちらに視線を向けたので華穂様の代わりに答える。
「今日は花柳流門下生として展覧会の受付の手伝いです。」
「なるほど。では案内しろ。」
いや、受付の手伝いだって言ったんですけど。
「申し訳ございませんが、今日は受付ですので・・・・・。」
「あら、いいわよぉ。今はお客様も少ないし、ぜひ一緒にまわっていらっしゃい!」
先ほど頬を染めていたおばさま方がにこにこしながら受付から出てもいいという。
その目は明らかに『こんなイケメンと一緒なんて若い子っていいわぁ』と言っている。
パーティーと違い嫉妬の視線を向けられないのは年齢層の問題だろうか。
それとも『イケメンは鑑賞物』と割り切っているからだろうか。
「いえ、しかし・・・・」
「大丈夫大丈夫!みんな知り合いが来た時は抜けてるし、ふたりとも休憩を兼ねていってらっしゃい!!」
ここまで言われては断ることもできない。
結局3人で展覧会をまわることになった。
「お前たちの作品はどの辺りにあるんだ?」
「ないよ。わたしたちはまだまだ出品出来るようなレベルじゃないもん。」
「そうか。じゃあ次は頑張れ。」
ぽんっと華穂様の頭を優しげにたたく。
「・・・・・・う、うん。」
華穂様はちょっと照れたように俯いた。
ずいぶん丸くなったなぁ・・・・・。
自信ある大きな態度は変わらないが、華穂様への態度はずいぶん優しくなった。
華穂様も最初の頃のとげとげしい対応ではなくしっかり打ち解けているようだ。
華穂様争奪戦は隼人が現在トップかと思っていたが、流もなかなかいい成績のようだ。
今日の展覧会で宗純と流の好感度がどのくらい上がるか・・・・・・。
「しかし華穂はともかく、おまえが出品できるレベルではないとは意外だな。なんでもそつなくこなしそうだが。」
「わたしはともかくってどういう意味!?」
あーあ、またそういう余計なことを言う。
なぜこの男はイケメン発言だけで終わらせられないのだろうか。
「私には創作センスがないようです。何を作ってもコピーになってしまい面白みがありません。」
手本を真似れば手本そっくりになり、自分で一から活けても何処かで見たような『無難』の一言に尽きる作品になる。
「なるほどな。まあ、こういうものには向き不向きがある。気を落とすな。」
そういって私の頭もぽんぽんとたたいてくれた。
・・・・・・・・・・・・ほんとにこの男は。
華穂様の前でなにをしてくれるんだ。
華穂様と同じように頬が赤くなってしまうのがわかる。
大人になって頭を撫でられる機会なんてまずない。
親に撫でられた幼い頃を思い出してつい頬がゆるんでしまう。
流が好きなのは華穂様だ。
華穂様の前でそんなことをしていては華穂様に誤解されかねない。
私は一歩後ろに下がり頭に置かれた手から離れた。
「流様、好きでもない異性の頭を撫でるものではありません。」
「俺はお前のことは好きだが。」
どこぞの歌手と同じく好きが軽いことで。まあ、奴とは好きの意味合いが違うんだけど。
流の発言に華穂様はびっくりしている。
「交際したい、結婚したいという意味の『好き』です。人物として好ましいかどうかではなく。」
「・・・・・・そうか、わかった。」
私の言葉に流は微妙な顔をして頷いていた。




