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華穂様が熱を出した。
通常であればもっとしっかり華穂様の体調に気をくばるべきだったと反省すべきところだが、おそらく時期的に秀介のイベントだろう。
秀介と華穂様は最初に秀介が屋敷にやってきてから2週間に一度、世間話や英会話の授業をしながらゆっくりお茶を楽しむ仲だ。
そろそろ好感度の数値が上がってイベントが発生してもいい頃合だろう。
すぐに私は秀介に連絡を取った。
「華穂様。」
ベッドの上で赤い顔でぼんやりしている華穂様に声をかける。
「秀介様は12時過ぎにいらっしゃるそうです。」
「わかった・・・。ごめんね、迷惑かけて。」
申し訳なさそうな顔をする華穂様に逆にこちらが申し訳ない気になる。
イベントならば華穂様にも避けようがないことだ。
華穂様のせいではないと伝えられないのが辛い。
「気になさらないでください。
秀介様がいらっしゃるまでもう一眠りしましょう。
お飲み物はこちらに置いておきますので、ゆっくりおやすみください。」
「ありがとう・・・」
小さな声でお礼を言うとよほど辛かったのかそのまますっと寝入ってしまった。
秀介は約束通り12時過ぎにやってきた。
挨拶もそこそこに華穂様の部屋に案内する。
ノックをして返事を待たずに扉を開くと華穂様はまだ眠っていた。
「華穂様、秀介様がいらっしゃいました。起きてください。」
声をかけると子供のように目をこすりながら目を覚ました。
「こんにちは、華穂さん。寝たままでいいから少し診せてくださいね。」
「・・・・お願いします。」
「熱は電話をもらった時から変化はありましたか?」
「秀介様に連絡をした後眠ってしまわれましたので計っておりません。」
「じゃあ、まずは検温をしましょう。」
サイドテーブルに置いていた体温計をとって華穂様に渡す。
華穂様が体温計を脇に挟むと、それほど時間はかからずにピピっという音がした。
「39.1度・・・。電話をもらった時より上がっていますね。 喉をみてみましょう。・・・・・なるほど。では、次は胸の音を。」
華穂様の上から掛け布団をはがし、聴診器を当てやすいようにパジャマの裾を引っ張って浮かせる。
「うん、前は大丈夫。背中からの音も聞きたいから少し横を向けますか。」
ころりと背中を向けた華穂様に聴診器を当て診察終了。
「胸の音は綺麗ですから肺炎の心配はありません。
扁桃腺が腫れてますから喉からくる風邪だと思います。
2、3日ゆっくり休めば元気になりますよ。」
コンコンッ
診察の終了と同時にタイミングよく扉がノックされた。
お手伝いさんがお願いしていたものを持ってきてくれたようだ。
「わぁ・・・桃だぁ。」
熱でぐったりしている華穂様がへにゃりと笑う。
お手伝いさんが持ってきてくれたお盆の上にはガラスボウルに盛り付けられた桃の缶詰が載せられていた。
「秀介様からのお見舞いの品です。」
「風邪の時に桃缶を食べるのは医学的にもオススメなんですよ。今、食べられそうですか?」
コクリと頷く華穂様背中を支えて、秀介が華穂様を起き上がらせる。
そのまま自分の胸にもたれ掛からせるような体勢をとり桃缶のボウルを手にする。
・・・・・このイベントのためにどうやって退出しようかと悩んでいたが、その場に他人がいても秀介はちっとも気にならないらしい。
感覚としては医療介助のようなものなのだろうか。
「はい、華穂さん、口を開けて。」
小さく潰した桃をスプーンですくって華穂様の口に持っていく秀介。
華穂様は後ろからほぼ抱きしめられたような状態での『あーん』に目をうろうろとさまよわせている。
華穂様と目が合った。
そんな熱で潤んだ殺人的に可愛い目で助けを求められても、申し訳ありませんがイベントなので手出しできません。
「ほら、華穂さん、早く食べないと溢れてしまいます。」
華穂様の顔が先ほどより赤くなっている気がするのは気のせいだろうか。
ドキドキして熱が上がっていたらどうしよう。
意を決したようにぎゅっと目をつぶりパクッと勢いよく口に含む華穂様。
「おいしい・・・・・・」
腫れた喉に冷たいものが流れていくのは気持ちがいいのだろう。
華穂様がうっとりとした表情になる。
「喜んでくれたみたいで良かった。まだありますから、食べられるだけ食べてゆっくり休んでください。」
背中の存在は無かったことにしたのか無心に桃を口にする華穂様。
ボウルの中身が空になる頃には、満腹からか再びうとうとしていた。
秀介が子供を寝かしつけるようにトントンと華穂様のお腹の部分を優しく叩く。
「おかあ・・・さん・・・」
「そばにいるからゆっくり眠りなさい。」
「うん・・・」
安心したように眠りについたその顔はまるで子供の寝顔だった。




