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「俺だ。
華穂と食事に行くから、華穂が好きなものを教えろ。」
・・・・・・・・・・・・・・。
おれおれ詐欺か何かだと思って電話切っていいかな。
と、考えてしまう私は悪くないと思う。
いや、ディスプレイには名前出てたし、こんなこと言い出すのはあいつしかいないけど。
「・・・・・・・・守秘義務がございますのでお教えできません。」
「そうか。では店はこちらで勝手に決めるぞ。土曜の19時に迎えに行く。」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
そもそも華穂様の了承を得ているとは思えないのに、なぜ行くことが決定しているのか。
華穂様から『行かない』と断られるということは全く考えていないらしい。
そういえば流とふたりで食事に行くイベントがあったなぁと思い出す。
確か庭を散策中の華穂様を流が突然拉致して高級料亭に連れて行くというイベントだったはずだ。
・・・・・・それを考えれば約束どおり事前連絡をくれる分だいぶマシなのかもしれない。
「申し訳ございませんが、その日は予定がありますので華穂様はご一緒できません。」
「主要なパーティーなどはなかったはずだが。」
「パーティー以外の予定があります。」
「何の予定だ。」
「守秘義務のためお教えできません。」
「わかった。華穂に直接聞く。」
え、ちょっと待て。いつの間に華穂様の連絡先を手に入れた。
「華穂様の携帯番号をご存知だったんですか?」
「いや、華穂の番号は知らんな。
高良田社長の番号はしっているから、そちらにかけて華穂につないでもらうつもりだ。」
まさかの祐一郎様経由!!!
ほんとに怖いもの知らずだな。
そして祐一郎様も面白がって華穂様の番号を教えそうで怖い。
「・・・・・・華穂様は土曜日はオーストリア国立オーケストラの来日公演を聴きに行かれるご予定です。」
緊急事態である。
祐一郎様に迷惑をかけるなどもってのほかだ。
そしてそのあとがさらに怖い。
「あぁ、あれか。俺は日曜に聴きに行くつもりだったが・・・。席はどこだ。」
「二階中央最前列の予定です。」
「ふむ・・・、また後でかけ直す。」
言うだけ言ってさっさと切れる電話。
何だか嫌な予感しかしないが、電話を待つしかないだろう。
流から折り返しがかかってきたのは1時間後だった。
「隣の席が取れた。俺も土曜に行ってやる。」
・・・・・・完売したはずのチケットをどんな手段を使って入手したか怖くて聞けない。
「17時半に迎えに行く。」
「あー、槙嶋様。当日は会場で落ち合うということではいかがでしょう。」
「なぜだ。」
素直に華穂様に流も一緒に行きたいそうです。 なんて伝えたら断られる可能性があるし、何も言わずに不意打ちで迎えに行ったら家から出るまでに一悶着あるのは間違いない。
それだったら偶然を装って会場で鉢合わせする方がいいだろう。
「事前に知らされるより 偶然会場で出会った方がインパクトがあるのではないかと。」
「なるほど。お前の言う通りにしよう。では、当日会場で。」
「はい。かしこまりました。」
ベッドに寝転がり天井を眺める。
本日の業務は終了。いつもならリラックスタイムでゆっくり本でも読むのだが、今日はとてもそんな気分ではなかった。
最近、ゲームと違うことが多すぎる。
先日のパーティーで秀介や宗純が出てきたこともそうだし、一弥のライブに隼人がいたことも。
ゲーム内では攻略対象たちの横のつながりというものはなかったはずだ。
華穂様を巡ってライバル関係になったりはするものの、それはあくまで華穂様を通してのことだった。
もともと知り合いだったわけではないはずなのだ。
・・・・・・・・私のせいだろうか。
Wデートなんて、私がいなければそもそも人数が足りず発生するわけはないし、今度のコンサートもそうだ。
もしかしたらゲーム内で流に強引に連れて行かれた日。実はその日に華穂様はコンサートに行く予定だったのかもしれない。
それを私が事前に予定があると教えてしまったため、コンサートにいくことになってしまったとしたら・・・・・・
私の行動関係なく私という存在がいることで、ゲーム内に歪みが生じて攻略対象者たちが知り合いになっていたりしたとしたら・・・
ため息が漏れる。
私はいない方がいいのだろうか。
それともゲーム通りでなくても良い方向に進んでいるのだろうか。
ノーマルエンドルートへは・・・・・
あの人へも何か影響があって悪い方に進んでいたら・・・・
私は暗澹たる気持ちで天井を眺めていた。
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