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コンサート当日、公演開始30分前に席に着いたが流はまだ来ていないようだった。
何も知らない華穂様は普通に席に座ると今日の公演について話始める。
「二階だからよく見えるねー。
クラシックって今まで音楽の授業でしか聞いたことなかったけど、好きな人多いんだね。
お客さんがいっぱいいる。」
「今回来日したオーケストラは特に有名で歴史ある人気のオーケストラなのでお客様も多いのだと思います。
特に今回の曲目は日本人もよく聞く親しみやすい曲ですし、私たちのように初めて聴きに来る方も多いかと。」
今日の曲目の前半はドヴォルザークの交響曲第9番。
日本では『新世界より』という名で親しまれ曲名は知らずとも誰しも1度は聞いたことがあるはずだ。
今回のコンサートは華穂様に指導している音楽の教師が勧めてくれたものだ。
人気のチケットもそのコネで入手した。
クラシック入門としては最適だという判断なのだろう。
「第二楽章に『遠き山に日は落ちて』という歌詞をつけたものと第四楽章が有名ですね。」
「遠き山にってクラシックだったんだ。知らなかった。
第四楽章ってどんなの?」
「・・・・・公演が始まればわかります。」
「ん〜、でもちょっと気になるからサビだけ教えて!」
「華穂様、クラシックではサビとは言わないと思います。」
「え、そうな・・・あぁっ!?」
会話の途中で突然大声を上げる華穂様。
上げた瞬間、まずいと思ったのか自分の両手で口を塞いでいる。
華穂様の視線をたどると黒いコートをなびかせて流が歩いてくるのが見えた。
流もこちらに気づいたようでにやりと笑う。
「な、なななななななななっなんで流がここに・・・・・・」
「もちろんコンサートを聴きに来たからここにいる。前を通るぞ。俺の席はお前の隣だ。」
「はぁ!?」
周りを気にして小声ではあるものの華穂様はあんぐりと口を開けている。
・・・・・・インパクトはあったようだ。インパクトは。
若干、罪悪感を感じながら『あくまで出会ったのは偶然です』というのを演出すべく流に話しかける。
「槙嶋様、先日のパーティーでは大変お世話になりました。」
「あぁ、俺も楽しませてもらった。」
「槙嶋様は華道だけでなくクラッシックもお好きなのでしょうか?」
「そうだな。
一般的に芸術といわれるものはどれも好きだ。
もっとも表現する才能はないから、鑑賞のみだが。」
ゲーム内でクラシックが好きだという情報はあったが、まさか芸術全般とは。
絵画書なども詳しいのだろうか。
「そんな顔をしてどうした?華穂。」
いつの間にか華穂様が困ったような納得していないような顔をしている。
「なんか流とクラシックが結びつかない・・・。」
「そうか?上流社会では芸術への理解も求められる。
だから俺は幼い頃から好む好まないに関わらず様々な芸術を見せられてきた。
それがたまたま俺に合っていて大人になってからは趣味になっただけだ。」
「子供の頃から苦労してるんだね・・・」
今現在、好む好まない関係なく色々なことを学ばされている華穂様は思うところがあるようだ。
「必要なことだ。
それに新たなことを学ぶのは楽しかったから、さほど苦痛ではなかったな。」
そんな話をしているうちに公演が始まった。
ずらり並んだオーケストラがもつ楽器たちはライトに照らされキラキラと輝いている。
指揮者がタクトを振ると流れ出す音楽。
華穂様は興味津々で舞台を覗き込み、流は自宅にでもいるかのように目をつぶりリラックスして音楽を聞いている。
「生ってほんとに全然違うね!!」
充実した時間というのは過ぎるのが早い。
気がつけば前半の新世界よりは終わり、休憩時間は流からクラシック講義を受け、後半は『ボレロ』などこれまたメジャーな曲数曲を聴いて2時間の公演は終わった。
初めてのクラシックコンサートを終えた華穂様は興奮気味だ。
「流の説明があったから、後半はより楽しめたよ!
ありがとう!」
満面の笑みを流に向ける華穂様。
その笑顔に目を見開いて固まっている流。
「・・・・流、どうかした?」
「え?あぁ、いや・・・お前が喜んでくれたなら何よりだ。」
若干、まだ魂が抜けたまま返事をしている。
・・・・・・流の攻略は順調に進んでいるようだ。
私としてはこの先苦労が増えそうで遠慮したいところなのだが。
「じゃあ唯さん、帰ろっか。流、またね。」
華穂様の中で流は『また』がある人物らしい。
流は流で、華穂様に見惚れてないで当初の目的である食事に誘わなくてもいいのだろうか。
「待て、華穂。もう少し先ほどの演奏について話がしたい。一緒に食事に行かないか?」
おぉ!?流が今までで一番まともな行動をしている気がする。
『行くぞ』ではなく『行かないか?』と相手にお伺いを立てるなんて大進歩である。流にしては。
「え?ん〜、わたしこの後約束が・・・・・」
流、『聞いてない』って顔で睨まないでください。
私もこの後華穂様に約束があるなんて聞いてません。
「あ、じゃあ流も一緒に行けばいいんだ!
もともとこの後ご飯食べに行くつもりだったんだけど、もう予約してるからそこでもよければ一緒に来てもいいよ。」
ヒシヒシと嫌な予感がする。
「あぁ、それで構わない。で、店はどこだ?」
「銀鱗軒!!」
華穂様、なぜわざわざ修羅場に!!!




