閑話:女の子の楽しみ
『明日のライブ、来てくれるの楽しみにしてる。
終わったら楽屋に来てね。 ー 一弥 ー』
相変わらずマメな男である。
大量の女性が押しかけてきて楽屋が修羅場になったりしないのだろうか。
「ねー、唯さん。どれにしよう?」
華穂様はベッドの上に服を並べて明日のライブに何を着ていくか悩み中だ。
華穂様にも、もちろんメッセージは来ていて私と同じ内容+『明日は特別サービスがあるから目一杯おしゃれしてきてね』という一文が入っていた。
「一弥のライブだったらやっぱり色は黒だよね。
でも、この間のCM撮影も黒着て行ったし・・・」
「そうですね・・・挿し色としてこちらの赤いチェックアクセサリーを入れられたら印象が変わるのでは?」
考えるフリをしつつ、ゲームで見た服装を勧める。
今回はライブに合わせてパンク風だ。
穴が大量に開いた黒のTシャツには白ペンキで書いたような英文とペンキを飛び散らせたようなプリントがしてある。
スカートはアシンメトリーの巻きスカートで、右半分はくるぶしまで黒い布をマントのようにはためかせ左半分はミニの赤いチェックのプリーツスカートだ。
ミニスカートで露出した左足にはガーターベルトと透け感のある黒のストッキング。
首と手首にはスカートと同じ赤いチェックのチョーカーとリストバンド。
「・・・・・・・攻めすぎじゃない?」
「・・・・・・皇様のライブでしたらこれくらいでも目立たないかと。」
『マイスウィートレディ』はファッションアイテムの幅の広いゲームだった。
フェミニンからセクシー、パンク、スポーティまで大団円エンドを目指す場合、一体主人公の服の好みはどうなっているんだというくらいの振り幅だ。
ゲームで見たアイテムを一通り揃えた華穂様のクローゼットは混沌とした状態になっている。
「そうだよねぇ。一弥のライブだもんねぇ・・・これくらいでも有りかな。」
もちろん普通の格好をした人も大勢くるのだが、それは言わぬが仏である。
「唯さんはどんなの着ていくの?」
「私ですか?」
華穂様の質問に微妙な顔をしてしまう。
「空太様の店に行った時の服装で行こうかと・・・・」
う、『わたしにはこんなにすごいの勧めといて、自分はそれ?』という華穂様の視線が痛い。
「あの服装も唯さんに似合っててよかったけど、一弥に妖艶な格好で来てねみたいなメッセージもらってなかったっけ?
だったらそれっぽい格好でいこうよー!」
空太の店に行った時は水色のカッターシャツに白い7部丈のスキニーパンツという格好だった。
妖艶とは真逆の爽やかスタイルである。
「すみません、私、皇様のお眼鏡に叶うような妖艶な服など持っておりませんので・・・・」
・・・・・・・なんだろう。華穂様の目がキランと光った気がする。
「今日の午後って予定なかったよね?」
「はい。何も入っておりませんが・・・・・・」
「じゃあ、午後はわたしとデートしよ♡」
「は・・・・?」
満面の笑みを浮かべる華穂様がなぜか怖い。
「コーディネートはわたしに任せてね♡」
「は・・・・・・?」
30分後『ありえない!!』という不満の声が屋敷に響いた。
華穂様が私の部屋のクローゼットを開けてぷりぷり怒っている。
「唯さん!このクローゼットの中は何!?」
こうなることがわかっていたので『使用人の部屋に入るものではない』と、なんとか華穂様の訪問を阻止しようとしたのだが、30分格闘の末負けてしまって今に至る。
「仕事着ですが・・・・」
華穂様違いこじんまりした幅1メートルのクローゼットには燕尾服、スーツ、ベスト、シャツなど仕事着がきっちり詰まっている。
白いシャツ以外はほぼ暗色のため暗いクローゼットになっている。
「私服は!?」
「下の衣装ケースの中に。」
すぐさま中を検められる。
衣装ケースには空太の店に着て行った服以外にドレスが2着とパンツが1本、Tシャツ2枚、スポーツウェアくらいしか入っていない。
「・・・・唯さん、これでどうやって生活してるの?」
「基本的にいつも仕事着ですし、組み合わせを変えれば何パターンか着こなせますので。」
基本的に執事に決まった休みというものはない。
よって私服を着る機会などほとんどないの必要ないのである。
「・・・・・わたしにはあんなにたくさん服準備したのにぃ。」
「・・・・・私も仕事着はたくさん持っております。」
華穂様の私服とわたしの私服では全く意味が違う。
私服というが、華穂様は一歩そのまま屋敷から出ればそれはそのまま高良田財閥令嬢の服という仕事着になり、私の服はただの普段着である。
「とにかく!これじゃ絶対ダメ!!世界の損失!!!わたしが唯さんにぴったりの服選ぶからね!!」
なんだかとても熱くなっている華穂様に口を挟むことはできず、そのまま買い物へと連れて行かれることになった。
「これとーこれとー、あぁこれもいいなー。」
華穂様が次々とカゴに服を入れていく。
華穂様に連れてこられたのは海外に本店を持つファストファッションブランドだ。
「唯さんは背が高いから、海外の服もよく似合うよね。唯さんも気に入った服があったらカゴに入れてね。」
結局、上下合わせて15着ほど入ったカゴを持たされ試着室に入れられる。
そこからはひとりファッションショーである。
華穂様の指示に従って組み合わせられた服を着て華穂様に見せる。
そうやっているうちにいつの間にやら華穂様の隣に店員がどんどん増えていく。
店員と相談しながら私が着ている服を見つめる華穂様は真剣だ。
最終的に10着まで絞り込んだところでOKが出た。
華穂様と店員は仕事をやり遂げた達成感一杯の顔をしているが、私は疲労困ぱいである。
正直、服は着られればそれでいいと思っていたので華穂様や店員の熱意には気圧されてしまう。
が、よくよく考えてみるともし自分がゲームに関係なく華穂様の服を選ぶとしたら同じ事をしそうである。
ようは自分の服には興味がないが、人が着る服は気になるのだ。
大切な人には似合う服を着てほしい。
そう思うと今日の疲労もとっても良いことのような気がした。
お金はもちろん華穂が出しました。
華穂は施設で少ない衣服をやりくりして下の子たちにオシャレをさせたりしていたので着まわしコーデが得意です。




