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扉を開けると、そこには上気した頬の隼人がいた。
ちょっと湿り気のある髪に軽く弾んだ息。
服装は先日のパーティーで着ていたスーツなのだがネクタイが歪んでいるところを見ると、シャワーを浴びてから急いでこちらに来たのだろう。
「隼人くん、マン・オブ・ザ・マッチおめでとう。
今日もとても見応えのあるいい試合だったよ。」
「ありがとうございます!!!」
隼人は嬉しそうな顔をした後に、勢いよく頭をさげる。
・・・・・・隼人が尻尾をブンブン振って喜んでいる犬に見えるのは気のせいだろうか。
「疲れただろう?隼人くんの好きなプリンを持ってきたからお茶にしよう。」
食事をとった部屋に戻りお茶をしながら話をする。
話題はもちろん先ほどの試合について。
一ノ瀬社長や裕一郎様がいるからかそれともサッカーの話題だからか隼人もそんなに緊張せずに話をしている。
なかなか聞くことのできない当事者視点の話は面白い。
「サッカーって初めてじっくり見たんですけど、面白いですね。
えっと、若宮さん・・・?ってとっても足が速いんですね。風みたいでした。」
ちょっと呼び方に悩んで止まる華穂様に一ノ瀬社長が悪い顔をしている。
「華穂さん、こいつのことは隼人って呼んでやってください。基本的にサッカーファンの間では『隼人くん』で通ってるんで。」
【女性】ファンの間でが抜けてるのはわざとなんだろうなぁ。
「わかりました。じゃあ、隼人くんって呼ばせてもらいますね。わたしのことは華穂って呼んでください。」
「・・・・はい、かっかかかか華穂さん。」
真っ赤な顔で下を向いたまま返事をする隼人の声は今にも消え入りそうだ。
「華穂、隼人くんも緊張しているようだし、いつも友達と話しているような砕けた感じで話しかけてあげたほうがリラックスできるんじゃないかな。」
あぁ、悪い大人がもうひとり。
「そっかな?隼人くんっていつからサッカー始めたの?」
「しょ、小学校からっ」
「昔から上手だったの?」
「いや、ぜっぜんぜん!!」
華穂様が質問して隼人は単語で返すという会話を繰り返す光景を生温かく見守るおじ様ふたり。
なんだか微笑ましい空間に癒される。
が、
いつまで経っても隼人の緊張が解けない。
だんだんと華穂様の顔が微笑んだまま困ったような顔になってきている。
「唯さん、唯さん。」
ずっと部屋の隅で控えていた私になぜかお声がかかった。
私の存在に今気づいたらしい隼人は『え?こんな人いたっけ??』みたいな顔をしている。
「唯さんってサッカーは詳しい?」
「詳しい・・・という程ではないですが、ヨーロッパではサッカーが盛んですのである程度は・・・・・。」
「じゃあ、それについて話してほしいな」
まさかの丸投げ!
だが、主人の要望ならば仕方ない。
「えー、ヨーロッパ・・・、私がいたのはイギリスなんですが・・・・」
ヨーロッパでは日本よりサッカーが盛んだ。
どの学校にもサッカーチームはあるし、アマチュアのプレイ人口も多い。
執事は主人のご子息のお世話をさせていただくこともあるので、学校でやりそうなことは一通り学ばされる。もちろんその中にサッカーもあった。
私はイギリスのサッカーについての日本との考え方の違いや子供たちがどのようにサッカーを学ぶかについて話してみた。
隼人の興味津々な視線が痛い。
「やっぱりヨーロッパのサッカーチームがすごいのは
みんな小さい頃からやってるからですか!?」
ついに質問まで・・・。
さっきまで赤くなってぷるぷるしていた隼人はどこへ行った。
その積極性が先ほどの会話でも出せれば・・・・。
「私は専門家ではないので確かなことはわかりませんが、あちらはサッカーを観る目が肥えた方が多いので、才能がある方を見つけやすいのではないでしょうか。
後はプレイ人口も多いので才能のある方も日本より多いですし、その中で激しい競争があるのでトップチームが精鋭になるのかと。」
ふむふむと頷く隼人を一ノ瀬社長がまた生温かい目で見ている。
私も隼人いじり用のおもちゃに仲間入りしてしまったようだ。
その後も隼人の質問をいくつか受け一通り話し終わる頃には随分時間がたっていた。
「いやー、今日も実に充実した時間だった。
一ノ瀬社長、隼人くん、それに唯くんもありがとう。」
「こちらも楽しい時間が過ごせました。
特に唯さんの話は隼人には新鮮だったみたいで、女性が話しているのに積極的に加わるなんて初めて見ましたよ。」
サッカーの話が終わったら正気(?)に戻ったのか、また隼人が赤くなる。
「唯さんならかっこいいし話も上手だし大丈夫だと思ったんだ〜。」
あぁ、私が丸投げされたのは隼人が女性を意識しないようにするための作戦だったんですね。
黒いスーツの私と白いワンピースの華穂様とでは女性らしさが圧倒的に違う。
華穂様は作戦成功にご満悦だ。
「さすが高良田社長のお嬢さんですね。人をよく見ている。ほら、隼人。こんなに長い間一緒に話してくれた貴重な女性なんだから連絡先聞いてこい!!!
「え?え・・・えぇっ!?」
隼人が戸惑っている間に華穂様は自分のバッグから携帯を出している。
「めんどくさいから、紙に書くんじゃなくて直接交換しちゃおう。ほら、唯さんも携帯出して。」
あれ?いつの間にやら私もメンバーに入っている。
ふたりで親密さを深めるのでは??
「隼人くんも唯さんも早く〜」
結局連絡先を交換しグループトークすることになった。
これでいいのか?




