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序盤からなかなか白熱した試合展開だ。
双方ともパスワークがよくシュートぎりぎりまで持ち込んでから、ボールを相手に奪われる形で攻守がぽんぽんと入れ替わりとてもハラハラさせられる。
特に隼人の動きは際立っていた。
味方にボールが渡るや一気に敵陣深くに走り込んだかと思うと、ボールを相手に奪われた瞬間にはあっという間に自陣に戻りボールを奪い返す。
とにかく足が速い。風のようだ。
ボールを持って前線に走っていく隼人をなんとか相手選手が止めようとするが、ぐんぐん引き離されてボールがFWに渡る。
そこでFWがボールを奪われたりシュートを外したりするのが悔しい。
裕一郎様はソファーから立ち上がって『いけ!いいぞ!!』『あー、外れたーーーー!!』と華穂様そっちのけで子供のように盛り上がっている。
華穂様はその隣で解説を受けながら静かに座って観戦しているのだが、表情を見る限りしっかり試合を楽しまれているようだ。
前半は双方5本のシュートを放ったが無得点の0-0で終了。
前半のアディショナルタイム終了直前の隼人のシュートはクロスバーに直撃し、惜しくも入らなかったものの大いにスタジアムを盛り上げた。
「最後の隼人くんのシュートは惜しかったなぁ。」
「本人も悔しそうでしたね。きっと後半は決めてくれるはずですよ。今日は勝利の神様が見てますしね。
華穂さん、半分見終わってどうでしたか?」
「すっごく興奮しました!手に汗握るってこういう感じなんですね。ところで、勝利の神様って??」
「高良田社長のことですよ。
高良田社長が見に来る試合はここ2年負けなしなんです。ジンクスみたいになっちゃって、試合前に高良田社長が見にきてることを伝えると、選手たちも気合が入るんですよ。」
「へー、お父さんにそんな効果が・・・・」
便利アイテムみたいな言われようである。
「私が見に来た試合では隼人くんが大活躍するからな!!」
「本人は無意識なんでしょうが・・・」
2年前に加入した隼人が裕一郎様が見にくる試合だと無意識にいつもよりテンションが上がり大活躍。
それにつられて他の選手もいい動きをするようになり、結果裕一郎様が見ている試合では勝利。
それを繰り返すうちにジンクスのようになり、さらに選手たちの意識がアップし負けなしになるという好循環が発生しているという状態らしい。
スポーツ選手にはゲンを担ぐ者も多い。まさに裕一郎様は便利アイテムなのだろう。
「高良田社長には今年もたくさん観に来ていただかないと。さあ、そろそろ後半の始まりです。」
後半は圧倒的だった。
陣形を相手ゴール付近にコンパクトにとって、とにかく相手にボールを渡さない。
自陣に入りそうなボールが来た時には複数でマークに当たるなど徹底していて、相手がゴールに迫ってくるというシーンはほとんど無かった。
押し込められた相手チームがゴール前に張り付いていたため得点こそ伸びなかったが、シュート9本中ゴール3本という危なげない試合展開だった。
マン・オブ・ザ・マッチ・・・・サッカー版MVPに選ばれたのは、もちろん隼人だった。
1ゴール2アシストの大活躍だ。
インタビュアーが隼人にマイクを向けている。
「若宮選手、勝利おめでとうございます。」
「あ、ありがとうございます。」
「前節に続き今回の試合も大活躍でしたね。好調の要因には何が考えられますか?」
「よ、要因!?え、いや、俺は監督の指示通りに・・・え?」
さっきまで厳しい顔でピッチを全力疾走していたとは思えない動揺ぶりである。
スタンドから『隼人くーん、頑張って!!』という黄色い応援が飛んでいる。
試合後にも頑張らなければならないとは不憫。
「えっと、今日は大切な人が見に来てくれて」
そこまで言ったところで客席から女性陣の悲鳴が上がる。
その悲鳴の負けないようインタビュアーも必死だ。
「大切な人というのは恋人でしょうか?」
「こっここここここここ!?」
あ、隼人がオーバーヒートした。
一ノ瀬社長が裕一郎様に『今日は華穂さんも来るって言ってあるんですよ。』とにやにやしている。
「わ、若宮選手??」
固まってしまった隼人を前にインタビュアーが困っていると監督がフォローに入った。
時間がないためこのまま監督インタビューにはいるようだ。
「いやー、今日は隼人のサッカーの恩人が見に来てるんですよ。それであいつ気合が入ってて。
女性ファンの皆様、安心してください。恩人はナイスミドルのおじ様ですから。
あぁ、でもせっかくだからこの機会に私のファンに乗り換えてくださってもいいですよ?」
・・・・・・・・・一ノ瀬社長といい東京ウィンズ関係者は茶目っ気のある人が多いらしい。
隼人は監督に『恩人に挨拶してこい』とポンっと背中を押されて退場。気を取り直したインタビュアーはそこから試合の話に切り替え、無事インタビューは終了した。
「もうプロになって3年目なのに隼人くんは相変わらず初々しいねぇ。」
「そうですね。記者泣かせで困るんですが、それで女性ファンを掴んでるところもあるので痛し痒しで・・・・。」
「グラウンドではあんなに自由に走り回ってるのに、インタビューだとすごく緊張してて別人みたいですね。」
クスクス笑う華穂様に一ノ瀬社長がぽんと手を叩く。
「そうだ。華穂さん、隼人と友達になってやってくださいよ。
あいつインタビューもちろんなんですが、女性は特にダメで・・・。
女性誌の記者がインタビューに来た時なんて、パニックになって何言ってるか全くわかんなくて、結局後日FAXで質問に回答したなんてことが・・・・・。
今からあいつ来ますんでよろしくお願いします。」
そんな話をしている時に、扉がノックされた。




