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「つっかれた〜〜〜〜〜」
そう言いながら、華穂様はだらりと背もたれにもたれかかった。
10日間ずっと一緒にいたおかげか、華穂様の敬語はいつの間にか消え随分くつろいだ姿を見せてくださるようになっていた。
秀介との挨拶の後もつつがなくパーティは進み、今は帰りの車の中だ。
「お疲れ様でした。しっかりご挨拶できていましたね。」
「ほんと?唯さんがそう言ってくれるなら大丈夫かな。最初はどうなるかと思ったけど、無事終わってよかったぁ」
・・・・・・最初って流と一弥のことだろうか。
「一弥と・・・槙嶋さんだっけ?あの2人の時はどうしようかと思ったよ。」
あぁ、やっぱり奴らですね。
「一弥はわかるんだけど、勉強した中に槙嶋さんの資料なかった気がするんだけど、どんな人?」
結局資料抜いたままでしたからね・・・・。
資料がなかったことを謝罪してから流の簡単なプロフィールを説明する。
「華穂様にプロポーズなさったのは企業規模拡大を狙ってのことでしょう。」
「政略結婚ってこと??」
「そうですね。裕一郎様は違いますが、残念ながら結婚をビジネスの手段と考えていらっしゃる方は多いです。」
「一弥もそうなのかな?」
「・・・・・・あの方はたくさんの女性がお好きなのかと。」
一弥に関してはそうとしか言いようがない。
『華穂様がお綺麗だからですよ』とでも言えればよかったのだろうが、私も連絡先をもらった以上そんなことは言えない。
「裕一郎様は恋愛結婚推奨とおっしゃっていましたし、華穂様は政略結婚のことなど考えずに自由に恋愛なさってください。もちろん好きになれそうな方が現れたら・・・ですが。」
「うん、お父さんが槙嶋さんみたいな人じゃなくてよかった。政略結婚なんて絶対嫌。」
華穂様のその言葉に若干複雑な思いになる。
・・・・・・・・残念なことに、その槙嶋さんの好感度が一番高いんですよ。
パーティでの攻略者の登場順は好感度が順になる。
ゲームでは誕生日と血液型はユーザーが設定でき、それによって初期パラメーターが若干だが変わっていた。
華穂様の誕生日だと流の好感度が1番高く、秀介の好感度が1番低いようだ。
さらに今日着ていたドレスは流の好みのものだったので、それでも好感度がプラスになっているはずだ。
「槙嶋様と皇様以外に気になる方はいらっしゃいましたか?」
「花柳さん・・・・・すっごく怖かった!!来週から本当にあの人から習うの!?今まで通り唯さんじゃだめっ!!??」
「そう言ってくださるのは大変嬉しいのですが、裕一郎様直々に花柳様に頼まれていましたし 、お断りするのは難しいでしょう。
それに私には華道の心得が全くございません。」
「え!?唯さん出来ないことってあったの??」
・・・・・・華穂様の中の私のイメージはいったいどうなっているのだろう。
「執事学校はイギリスでしたので、華道や茶道などの日本伝統の文化に関してはまったく触れたことがありません。」
「じゃあ、一緒習おう!そうしよう!唯さんが一緒にやってくれたらわたしも心強いし!!お父さんには私から頼んでおくから!!!」
華穂様の顔にはデカデカと『一人じゃ無理』と書いてある。
「・・・・・わかりました。裕一郎様と花柳様の許可がいただけましたら。」
なんだかおかしなことになってきた・・・・が、主人の頼みを断るわけにはいかない。
華穂様そばでゲームの進捗が見れるのは嬉しいが、そもそも私がそばにいてイベントは起こるのだろうか・・・・。
「あとは一ノ瀬さんかなー。お父さんと仲良さそうだし、面白そうな人だったね。」
その後も何人か華穂様は名前を上げたが、その中に隼人と秀介の名前は無かった。
・・・・・・インパクトの面であの3人に負けるのは仕方ない。
イケメン効果は華穂様には効かないし。
私は心の中で癒しをくれた隼人と秀介に感謝する。
特に秀介。華穂様への好感度は低いのかもしれないが、彼が攻略者最後でよかったと思う。
もし最後に流の宗純が来ようものなら、華穂様は順調にパーティを終えることができなかったかもしれない。
あのインパクトはちょっとしたトラウマになりうる。
あの2人と恋に落ちれば華穂様は穏やかな人生が送れるかもしれない。
私はちょっと2人を応援したくなった。
屋敷に着いてから携帯にメッセージが来ていることに気がついた。
『今日は華穂ちゃんと唯ちゃんに会えて楽しいパーティーだったよー。
また会えるのを楽しみにしてる。
今度はぜひプライベートでね。 ー 一弥 ー』
さすが女ったらし。マメである。
きっと華穂様の携帯にも同じ内容のメッセージが届いているだろう。
私はパーティーへの参加の感謝と、次にお会いする機会があればゆっくり話しましょうという社交辞令を打ってメッセージを返した。




