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真夏のかぐや姫  作者: かなぶん


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最近の子ども

 小夜の介入のお陰か、卵型の容器についての話をしない約束で解放された行商人は、痛む顎を撫でながら姫へ手紙を差し出してきた。手紙と言っても封筒ではなく、時代劇でしか見たことのないような形状のモノ。

 少しだけ興味を引かれて姫の背中と腕の間から覗き見たが、達筆とでも言えばいいのか、小夜には読めそうにない文字が綴られていた。

 古めかしい手紙の形式に、古めかしい書体。

 話を聞く分には、この世界の人間ではないらしい姫に読めるのかと訝しむ小夜だが、手紙から顔を上げた姫は、こちらの姿が背後にあるのを知るなり、ため息混じりに首を振った。

「UMAからだ」

「えっ!? UMAって、姫が細切れにしたんじゃ」

 露の本体とも言うべきUMA。その存在がすでに手紙を書けるほどに回復していると知り、小夜の顔が青ざめていく。

 姫の想定より早いのではないか。

 そんな不安を余所に、行商人が「うんうん」頷きながら言った。

「凄かったぞー? 俺もまあまあ生きてきた方だが、あそこまで徹底してやられている、あのクラスの御仁を見るのは初めてだったなぁ」

 しみじみ言う行商人に対し、姫は鼻で笑った。

「言ってダメなら仕方ないだろう? それに、ヤツ自身も身体を動かして、少しは頭が冷えたらしい。多少驕りがあったと反省文を送ってきた」

「マジで!?」

 小夜を差し置いて行商人が驚く。

「ああ。小夜にも悪かったってさ」

「はへー……あの御仁が、ねぇ? 確かに前より清浄感はあったが……良かったな、サーヤ。この分なら、生きている内に奴さんと遭うこともないかもしれない」

「――って結論づけるのは、まだ早いけどな」

「おいおい」

 姫の付け足しに行商人から上がる非難。

「手紙だけならどうとでも言える。それに、露の発生はUMAが完璧に把握できるモンでもない。でなけりゃ、そもそも俺に頼む必要がないだろう?」

「それはそうだが……」

 不満ながら違うとも言い切れない様子の行商人が口を噤む。

 手っ取り早く安心させてやりたかったらしい行商人に、「まあまあ、とりあえずしばらくは安全だからさ」とフォローする小夜の耳には、

「……そう。本当に安心させたいなら――」

 ぼそり呟く姫の声は聞こえなかった。


* * *


 その後も三人で他愛のない話をしていたなら、

「おはよー! かーちゃん!」

 という子どもの声がかかる。

 明らかにこちらへ向けられた挨拶に見やれば、昨日、小夜に声をかけてきた三人組が手を振り駆け寄る姿があった。

「姉ちゃんも! 良かったな、仲直りできて!」

「仲直りって……」

 仲違いした覚えはないが、彼らの中ではそういうことになっていたらしい。 

(そーいや、姫に会うの気まずかったんだっけ。すっかり忘れていたけど)

 朝から元気な子どもたちの顔に眩しさを感じつつ、「うん、まあ、お陰様で」と軽く頭を下げたなら、

「おー、佐藤に鈴木、高橋も。おはよう。なんだお前ら、知り合いだったのか?」

 慣れた様子で調子を合わせる姫に、「知り合いじゃねーよ!」「昨日たまたま見かけただけ」「ラジオ体操、今日で最後だからさー」と口々に答える子どもたち。

 和気藹々と会話する面々を視界に入れながら、行商人の近くまで移動した小夜は、こっそり尋ねた。

「……姫への名乗りって名字が多かったの?」

「いいや。最近じゃないか? それにたぶん偽名だろうな、アレ。一般的に多いらしい名字だが、この近所にはあんまりいないだろう?」

「最近の子って……すごいね」

 あんなに親しそうなのに、警戒心が。

 小夜は自分の名前をそのまま姫に教えた昔をひっそり懐かしむ。

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