最終話 剣術部員Aの報告
どうも。
剣術部員の、あ~、名前は諸事情によりAということでよろしく。
今日、俺は先輩から今話題のティールームに呼び出されたんだけど。
「相方はどしたの?」
「あいつ今日、彼女の家の茶会に呼ばれたんですよ」
「そっか。ちゃんと優先順位分かってるんだね。感心、感心」
ほんとノアさんは、いつ見てもカッコ良い。
学院の時と違って前髪を後ろに流しているからか、めっちゃ大人の男っぽいし、スーツ姿もよく似合ってる。
ただこの人、笑いながら何考えてるかわかんないし、会えばいつだってめちゃくちゃ緊張するんだけど、基本、呼び出しには応じるの一択だ。
だって俺もあいつも好きな子と婚約できたの、全部ノアさんのおかげだもん。
「じゃあ、食事でもとりながら最近の話を聞かせてくれる?」
実はこのティールーム、ちょっと前に彼女と二人で来たんだけど。
その時も外まですっごい人並んでて、諦めようかなと思ってたら店から責任者みたいな偉い人出てきたんだよ。
で、VIPルームっていうかスペースっていうのかな、そこに案内してもらったんだ。
店の奥の、階段を少し上がったところだったんだけど、そりゃもうすっげー良い待遇受けて、彼女めちゃくちゃ感激してた。
まあ、俺の方は内心めちゃくちゃビビってたんだけど。
なんでだ、なんでだって理由考えてたら、店の偉い人がこっそりメモ置いてくれて。
『しっかりやりなよ』って。
あ、ノアさんだなって。
この人、一度懐に入れた人間はめちゃくちゃ可愛がってくれるんだよ。
ちなみに今日は店の奥の、応接室みたいなとこに案内されたんだけど、これってつまりノアさんがこの店のオーナーってことだろ?
「で、ギルベルトは相変らず?」
「いや、それがなんか最近、しょっちゅう彼女泣かせてるって噂になってます」
「は? どゆこと?」
「それが、ベンチでアリシア嬢が本読んでる時だったんですけど」
「あー、それならたぶん、読んでる本の内容のせいだと思うけど」
「涙脆いんですか?」
「まぁね。感動屋ではあるよね」
「でも、その後あいつ、どさくさに紛れて抱きしめてますよ?」
「あぁ。確か僕、そんなこと教えたね?」
「ですね。泣いてる女の子にはこう、っていう。あいつ、ノアさん直伝のあれやこれやを妹さんで実践しまくってますよ?」
「うっわ。ギルベルトも変なとこで優等生だなぁ......
まぁ、二人が上手く行くんならいいけど、シアにはちょっと刺激が強いかもね」
こんなふうに二人の近況を報告したりしながら、俺自身の事も時々聞かれたりする。
「で、ご実家の件だけど、お父上に渡して頂けたかな?」
「はい。父もとても喜んでいました。まだまだ馬車の需要が多いけど、そのうち鉄道が主流になるって俺も思うんで」
そう。
我が家は鉄道の敷設をメインに、ここ数年急速に伸びてきた家門だ。
ノアさんのとこ、つまりカウフマン伯爵家から投資を受けて、うちの事業は加速度的に伸びている。
ちなみに俺の相方の家は、機関車の製造と開発に力を入れてる家門で。
だから俺ら、小さい頃からずっと一緒なわけ。
「今度、うち主催でパーティーするつもりだから彼女と来てね」
「はい、楽しみにしてます」
そうして、俺は手土産まで頂いて応接室を後にした。
長い廊下を歩きながらふと考える。
ノアさんって一体どこまで考えて人動かしてんだろ、って。
俺、彼女のこといい子だなってずっと中等部の時から思ってて。家のことなんて考えたわけじゃないのに、付き合うようになってから気づいたんだ。
彼女の家は、不動産事業で有名な家門で。
だから俺らの婚約がまとまって、うちの事業もよりスムーズになっちゃって。
それ言うなら、うちの相方んとこもそう。
あいつのお相手の実家、炭鉱をいくつも所有してんだって。
どんな巡り合わせかと思ったけど、これ、もう考えたらダメなやつかなって思うんだよ。
だって結果として、俺も相方も、好きな子と結婚できんだもん。
めちゃくちゃ嬉しいし、幸せなわけ。
たとえそこに裏があろうとも、お互いの家同士も繋がって、皆がもっと幸せになれて、なんの不足があんのって話だよ。
あれ、今すれ違ったのって……
振り返った先には、後頭部が少し寂しくなった教務主任の先生がいて、ノアさんの応接室をノック……あ、入ってった。
マジか。
学院で人気のユリウスとヨルン、それに女嫌いではあるけど、人材としてはかなり優秀なギルベルト。
そんなメンバーがアリシア嬢の転入直前、席替えであんな配置になること自体が……
まあ、あれだ。気にしたら負けだ。
◇
「おっと」
しまった。
うっかり声に出してしまったが、幸い気づかれてないようだ。
休日だっていうのに、中庭のベンチには相変わらず本を開いたアリシア嬢とそれを覗き込むギルベルトの姿があった。
俺は慣れた足取りで、ベンチの死角に周りこんだ。それから、ゆっくりと近づいて耳を澄ます。
「あの、ギルは一体私のどこが好きなのですか?」
うおっっ!!
俺スゴい良いタイミングで帰ってきたんじゃね?
二人はまだ付き合ってないらしいけど、アリシア嬢が転入してきてもう、ひと月だ。
ユリウスもヨルンも、結局は静観しているようだし。
『恋愛は、当分の間お休みすることにしています』
そう宣言したから、緑ネクタイの男どもが大人しくなったって、たぶんアリシア嬢は思ってる。
でも実際は、ロスヴィータ嬢が「アリシアさんはノア様の妹なのよ」ってバラして回った結果、誰も寄り付かなくなっただけなんだよ。
だってビビるだろ、ノアさんの妹に言い寄るとか。
じゃあなんで最初からノアさんの妹だって言わなかったのか、そりゃわからん。
なんか考えがあったんだろ、きっとな。
「シアのいい所はいっぱいある」
「例えば?」
ギルベルト、いいぞ!
そこは攻めていこう。
「姿勢がいい所とか、その瞳の色とか。笑顔も可愛いし、あと、この黒髪も好きだ」
そう言って、ギルベルトはアリシア嬢の髪をひと房救い上げた。
おおっ。
相変わらず、流れるような動きで触っとる。
アリシア嬢の表情は、くそ、この角度からは見えねぇな。
ギルベルトは……本当はめちゃくちゃ照れてんだな、ほっぺ真っ赤だわ。
「じゃあ外見以外では?
私、ちゃんと良いところありますか?
一体、私の何がそんなに気に入ってもらえたのでしょう?」
あ~、なんか難しい質問きたな。
優しいとか、よく気がつくとか、そういうの言ってほしいのか?
よしギルベルト、頑張れ!
くれぐれも変なこと言うなよ?
内面の話をするんだぞ、わかるな?
俺はガラにもなく、両手を組んで祈るように親友の言葉を待っていた。
【いい匂いがするんだ】
「え?」
は?
急に帝国語か?
くそっ、何言ってんのかわかんねーじゃん。
【シアからはいつもいい匂いがして、俺はシアと一緒にいるだけで、すごく幸せな気持ちになる】
あぁ!!
もう、何言ってんのかわかんねーけど、きっと今、全力で口説いてんだな?
そうだな?
だって耳まで真っ赤だもんよ、照れること言ってんだろ!!
「ふふっ」
おーっ!!
アリシア嬢、嬉しそうに笑ってんだけどいいんじゃね?
好感触じゃね?
【なんで、匂い?】
マジか。
君も喋れるのか。
さすがノアさんの妹だな。
【でも、私も、ギルの匂い、好き。落ち着く、すごく。安心する】
「くっーー」
えっ、何なに??
なんかアリシア嬢、たどたどしいけど頑張って帝国語で何か言って、ギルベルト、それ聞いて両手で顔覆ってんだけど!?
どうなったんだよ?
上手く行ったのか?
「そうか」
「そうよ」
そこだけクライドル語なんかーい!!
なんかよく分かんねーけど、二人めちゃくちゃひっついてるし。
これ、もう付き合ってるのと同じじゃね?
うまくいったってことだよな?
以上、現場から剣術部員Aがお伝えしました。
(おしまい)
ここまで読んで頂き、
本当にありがとうございました。
この後、番外編が4話あります。
後日またアップしますので、読みに来てくださるとうれしいです。




