第31話 選択
夜は、静かだった。
だが。
その静けさの中で、すべてが揺れていた。
「……」
サラは、一人で座っていた。
灯りは小さい。
部屋も狭い。
だが――
考えるには、十分だった。
「五割、ね」
小さく呟く。
カティアの提示。
破格だ。
普通なら、迷う余地はない。
利益だけで見れば――
乗るべきだ。
「……」
だが。
指先が、わずかに止まる。
浮かぶのは。
あの女。
エレノア。
「……」
苦笑する。
「らしくないわね」
自分で分かっている。
これは、感情だ。
商売ではない。
判断を鈍らせるもの。
「……」
立ち上がる。
窓の外を見る。
領地の灯り。
動いている。
まだ。
崩れてはいない。
「……」
思い出す。
あの決断。
全部、切った。
迷わず。
躊躇なく。
「……あれは」
小さく言う。
「本物ね」
だからこそ。
面白い。
「……」
そして。
もう一つ。
浮かぶ。
カティアの言葉。
『潰す』
あの女なら。
本当にやる。
躊躇なく。
「……」
息を吐く。
ゆっくりと。
「……さて」
振り返る。
そして。
扉を開ける。
その頃。
執務室。
「……来ましたか」
エレノアは、顔を上げた。
サラが、そこに立っている。
いつも通り。
だが。
どこか違う。
「決めたわ」
サラが言う。
短く。
迷いなく。
「どちらに」
エレノアが問う。
その声は、静かだった。
だが。
少しだけ。
重い。
「……」
サラは、少しだけ笑った。
そして。
「こっち」
と、言った。
指で、エレノアを示す。
沈黙。
空気が、一瞬止まる。
「……理由は」
エレノアが問う。
サラは、肩をすくめた。
「面白いから」
軽く言う。
だが。
それだけではない。
「あと」
一歩、近づく。
「あなた、負けるときは派手に負けるでしょ」
その言葉に、わずかな本音が混じる。
「それ、見逃すのもったいない」
笑う。
楽しそうに。
「……」
エレノアは、何も言わなかった。
だが。
ほんのわずかに。
息が緩む。
「条件は」
サラが言う。
「三割、そのまま」
「変更なしで」
「ええ」
頷く。
「その代わり」
一拍。
「完全に握らせて」
その言葉は、重い。
だが。
必要な条件。
「……分かりました」
エレノアは言った。
短く。
だが。
確実に。
契約は、成立した。
「で?」
サラが言う。
「どうするの?」
その問いに。
エレノアは、少しだけ目を閉じた。
そして。
開く。
「……壊します」
静かに言った。
「何を」
「市場を」
その一言に。
空気が、凍る。
「……は?」
サラが、わずかに笑う。
だが。
目は笑っていない。
「本気で言ってる?」
「ええ」
エレノアは頷く。
「今の構造では、相手に利用されます」
一歩、前に出る。
「なら」
視線を上げる。
「前提を消します」
沈黙。
それは。
理解するのに、少し時間がかかる言葉だった。
「……つまり」
サラが言う。
「全部、リセット?」
「はい」
即答。
「流通を、一度止めます」
その言葉は。
あまりにも大きかった。
「……それ」
サラが、低く言う。
「自分で首絞めるわよ?」
「ええ」
エレノアは頷く。
「ですが」
一拍。
「相手も同じです」
沈黙。
それは。
完全な賭け。
「……」
サラは、しばらく何も言わなかった。
考えている。
リスク。
リターン。
そして――
その先。
「……いいわ」
小さく言う。
「乗る」
その笑みは、鋭い。
「そういうの、嫌いじゃない」
その一言で。
すべてが、決まる。
止めるか。
壊すか。
そして。
選ばれたのは――
壊す方だった。
――戦いは。
次の段階へ進む。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ついに“選択”が決まりました。
サラはエレノア側に。
そしてエレノアは――
市場そのものを壊す決断をしました。
ここから一気に展開が爆発します。
次話は、
この決断の“実行”です。
一番面白いパートに入るので、
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